学長、帝塚山大学

2021年7月8日

第8回 人のこころを測る ~心理検査のあれこれ

今回の学科別のテーマは心理学部心理学科を取り上げます。人のこころと行動を研究対象とする心理学にとって、どのように人のこころを測るかは永遠の課題です。料理人たちが素材によって、様々な包丁や鍋、フライパンを使い分けるように、心理学にも、発達検査や性格検査、作業検査など多くの心理検査が用いられています。心理学科の研究室を少し訪問して、そのいくつかをご紹介しましょう。

人間には個性というか個人による違いがあります。心理学では、この違いを「個人差」と呼びます。一人ひとりの性格や発達段階の違いがあるとして、心理検査は、その違いを数値や文章、パターンで示してくれます。

「鏡映描写法」は(図1)は、検査には含まれていませんが、心理学を学ぶ学生が恐らく最初に触れる実験技法の一つです。手元が見えないようにして、鏡を見ながら図形をなぞっていくという単純な作業ですが、なかなか最初の頃は悪戦苦闘してしまいます(図1)。それまで学習されてきた知覚運動系のメカニズムを一度崩し、そして新たな行動を学習させるという実験法です。心理学科の「心理学実験」という実習科目で学びますが、作業を通じて、学習機能という人間の行動メカニズムを理解するという点で、興味深い教材です。また、これは作業検査法の原理とも共通しており、心理検査としての応用も期待できます。

作業検査法は、工場労働などでの個人の作業能率や作業特性を測るために用いられます。「内田クレペリン精神作業検査」では、連続する数字を加算するという作業を通じて、その人の作業の仕方を測ります。数字を加算するだけで何が調べられるのかという疑問が出てくるでしょうが、時間経過とともに成績がばらつく人や徐々に落ちてくる人がいます。この作業曲線を通じて、その人の行動特性や作業への適性を調べるものです。数字の計算だけでできるという点で文化や社会に影響を受けにくいとされ、世界中で現在も活用されています。

人間の性格を調べるという性格検査は、昔から開発が進められてきて、多くの手法があります。その手法として、質問紙で自分の行動や考えを「はい」や「いいえ」で回答させることでその人の性格を理解しようとする質問紙法があります。「YG性格検査」はその代表的な検査で、社会でもよく用いられています。一般に、質問が少なく検査時間が短い検査は実施が楽ですが、正しく性格を調べるには項目が多い方が良いでしょうね。それを追求したのが、「MMPI(ミネソタ多面的人格目録)」というアメリカミネソタ大学の心理学者や精神科医により開発された検査(図2)で、何と500を超える項目から構成されており、実施にはときとして一時間を超える時間がかかるというものでした。検査自体で疲れてしまいそうですね。最近は、統計分析を通じて、少数の項目による優れた心理検査が次々と登場しています。53項目で多くの性格パターンを分析できる「TEG(東大式エゴグラム)」という性格検査(図2)や精神的健康を測定する「GHQ精神健康調査票」などです。図2に示したのは28項目の「GHQ28」です。

同じ性格検査でも投影法と呼ばれるものは、多義的であいまいな刺激を提示して、そこから得られる反応に基づいて性格などを判定します。有名なものに、「ロールシャッハ法」があります。インクのシミのような刺激図形を見て、何に見えるかなどの回答を求めます。スイスの精神科医のヘルマン・ロールシャッハによって、1921年に考案されました。当時、スイスの子ども達の間で、こうした紙にインクを垂らして何に見えるかを言い合う遊びが流行っていたことにヒントを得たと伝えられています。実際の図形をお目にかけるわけにはいきませんが、実際に見本として、紙とインクで作成した絵を参考に示しておきます(図3)。もちろん、ロールシャッハ法などの投影法を実際に用いるには、充分な専門的知識と経験が必要となります。

あまり検査の具体例に踏み込むと講義のようになってきますので、これも有名でイメージしやすい「箱庭療法」を最後に取り上げましょう。箱庭療法は心理検査という範囲からはみ出して心理療法として利用されているものです。心の中のイメージを箱庭づくりに反映させることで、クライエント(相談の依頼者)の心理を読み解く道具です。子どもに対してよく使われますが、もちろん、大人に対しても活用できます。

ヨーロッパで生まれ、臨床心理学者の故河合隼雄氏(京都大学名誉教授、元文化庁長官)らの活動により、日本で大きく普及してきた手法です。日本でも国際規格に合わせて、内法が57cm×72cm×7cmの箱に砂を入れた砂箱を用いて、カウンセラーの見守りのもとで、その中にミニチュア玩具などを置いて自由に自分の心の世界を表現してもらいます。心理学部で箱庭が置かれている10号館の演習室には、いろいろなミニチュア玩具が置かれています(図4)。それらを活用して、大学院生に森田健一准教授の見守りのもとで箱庭を作ってもらいました(図5)。

いかがでしょうか。心理学やその隣接領域で用いられる心理検査の種類は無数にあります。それらの理論的背景や実践例を勉強しながら、人間の心の不思議さや人生の課題とその解決法などを少しずつ学ぶことができれば良いですね。

【参考文献】
・津川 律子・遠藤 裕乃(編)(2019). 心理的アセスメント 野島一彦・繁桝算男(監修)公認心理師の基礎と実践 遠見書房
・水野 邦夫 (2016). パーソナリティ 向井 希宏・水野 邦夫(編) 心理学概論(pp. 143-153) ナカニシヤ出版

学キャンパスには、数多くの樹木があります。大阪市立大学名誉教授で帝塚山学園の学園長も務められた高田英夫先生は植物学の権威であり有り、大阪市立大学理学部附属植物園(現大阪市立大学附属植物園 大阪府交野市私市)から約1万本の樹木の寄贈を受けて、キャンパスを豊かな樹木で整備されました。とくに東生駒キャンパスの樹木の数と種類(約200)は、植物園として通用するほどとわれています。

 

私の好きな樹木のひとつに、5号館から図書館や7号館(情報教育研究センター)に抜ける自動ドアを出たところにあるセコイヤがあります。セコイヤに出会う出合う ものの場合は出合う。特別な思いがある場合は出会うも可)ルートとして、7号館から西にある階段を上りきったところで左手を見るとを見ると、大きなセコイヤの木が見えます(写真1)。セコイヤは北米などに分布する巨大樹で、日本でも化石として数多く発掘されています。このセコイヤが植えられたのは、大学が共学化(共学化されたのは87年です)され、大学の男女共学化1987年)に向けて当時の経済学部棟(現4号館、5号館)が建設された1986年(昭和61年)です頃と推定されます*(高田,2002引用元)。今は高さが26mという巨木になり、風格が漂ってきました。

 

バス停前のにある時計台の先にはレイランドヒノキ(写真2)とメタセコイヤ(図3)があります。レイランドヒノキはアラスカヒノキモントレースギの交雑種です。メタセコイヤ京都大学の三木茂氏による化石調査により1941年の論文で新属として命名されていますが、1946年に中国四川省生育しているメタセコイヤが発見されました。その後、アメリカの研究者が苗を持ち帰り日本1949年に苗木と種子が寄贈されました。記録によると、カルフォルニア大学チェイニー教授から皇室に、ハーバード大学メリル教授から東京大学に送られたとあります。

 

メタセコイヤの和名はアケボノスギです。セコイヤはメタセコイヤから生まれたのですが、メタセコイヤが落葉樹であるのに対して、セコイヤが常緑針葉樹というのが興味深いですね。昭和天皇はこのアケボノスギを愛され、1987年(昭和62年)の歌会始において、和歌を詠まれています。

 

わが国のたちなり来し年々に あけぼのすぎの木はのびにけり

 

戦争で大きく傷ついた日本が、戦後に再び立ち直って発展していった姿を、アケボノスギの成長と重ね合わせた内容です。

 

メタセコイヤについては、滋賀県高島市マキノ高原や大阪市花博記念公園鶴見緑地の並木が有名ですが、ご近所の京都府精華町けいはんな学研都市の精華大通りで1.5km続くメタセコイヤ並木も見事です。本学のメタセコイヤはまだ樹齢が若く、それほど目立ちませんが、これから10年後、20年後には素晴らしい樹木に成長して、学生たちを見守ってくれるでしょう。

 

大学創設の1964年(昭和39年)当時から大学にある樹木としては、食堂から5号館への階段を上ったところにあるアカマツが代表です(写真4)。開学当時は現在の通用門の近くに右が正門があったようです。  今でも帝塚山大学附属博物館と通用門の付近には門から校舎へと続く道沿いにアカマツの木が何本もあります。植えられていたようです 。博物館の左手を降りていく旧正門の小道が残っており、道沿いにアカマツが少しだけ残っています。また、

 

このように、東生駒キャンパス内には多様な樹木があります。春や夏の花々も良いですが、

秋には通用門に降りていく道路沿いのイチョウ並木が私たちの心を和ませてくれます(写真5)。

 

分かりやすいように、キャンパス地図上に、図の番号を載せておきます(図6)。学生の皆さんも、時間を見つけてキャンパスを散策され、季節ごとのキャンパスの風情を樹木や花々から感じとって下さい。

 

参考文献

     高田英夫 「大学の森 第7回 セコイヤ」(大学通信「帝塚山」, No.12, 2002

     斎藤清明 メタセコイヤ中公新書, 1995

     生物学御研究所(編) 皇居の植物(保育社, 1989


 [安田 政志1]門の位置?鈴木さん?

 [多賀 久彦2]富雄からの道が正門:今の通用門で良いですか?

 [鈴木 依子3]もともと松林だったのだと思います。

図1 鏡映描写の実際

図2 心理検査の数々

図3 「ロールシャッハ検査」の原理による「インクのシミ」(水野邦夫, 2016)

図4 箱庭療法で用いるミニチュアの数々

図5 箱庭療法の体験