学長、帝塚山大学

2021年7月1日

第7回 居住空間デザイン学科  ~ キャンパスを飾るチェアたち

「学長、帝塚山大学を語る」も7回目の連載を迎えました。今回からは本学を構成する学部・学科等に焦点を当てたエッセイを順次加えていきたいと思います。トップバッターは現代生活学部居住空間デザイン学科です。

現代生活学部居住空間デザイン学科は大学の中でも比較的新しい学科です。2004年(平成16年)に帝塚山短期大学・帝塚山大学短期大学部を母体として誕生した現代生活学部において、食物栄養学科と共に誕生しました。生活の3要素と言われている「衣・食・住」のうちで、食物栄養学科が「食」を、居住空間デザイン学科が「住」に焦点を当てているわけです。もちろん、学部名に「現代生活」とあるように、今日の社会では人々の生活に寄り添う質の高い住環境が求められていますので、デザインや使いやすさ(ユーザビリティ)などの学習が不可欠です。 

学科では、当初から一級・二級建築士やインテリアプランナーなどの資格を目指すことを目標に、講義系科目のみならず実習関連科目にも充実したカリキュラムが組まれていました。初代の学科長は大阪市立大学名誉教授でもあった北浦かほる教授でした。

北浦教授は、学生たちに必須の資質である造形デザインの感性を磨くために、世界中の有名なチェア8脚を収集されました。このうちの6脚は、ニューヨーク近代美術館(MOMA)に同じものが展示されています。MOMAコレクションに加えられることは、モダンアートの作家にとって最高の名誉です。それらのチェアコレクションは、北浦教授の強い要望により、学園前キャンパス16号館の2階エントランスにチェアギャラリーとして置かれていますので、皆さんもご覧になったことがあるでしょう(図1)。そのいくつかをご紹介しましょう。なお、この紹介に際しては、矢部仁見(ひとみ)准教授(学科長:2021年現在)による詳細な紹介記事(『大学通信帝塚山』)と専門的アドバイスに深く感謝申し上げます。

最初の作品はスコットランドの建築家・インテリアデザイナーのチャールズ・レニー・マッキントッシュ氏のラダー・バック・チェア(Ladder Back chair)、別名「ヒルハウス・チェア」です(図2)。これは私のお気に入りのチェアですが、マッキントッシュ氏が設計した英スコットランド「ヒルハウス」(19021904年に建築)の主寝室用に1902年にデザインされたものです。椅子と梯子(はしご)を組み合わせたような高い背もたれが特徴で、空間に美しいリズムをもたらしてくれます。背の高さは141cmあります。マッキントッシュ氏は日本の和建築の影響も受けているとされていますが、確かに日本の格子模様などと印象が似ており、日本人に好まれているのも理解できます。ただし、あまり長くは座れないような気もしますね。 

次に紹介する作品は北欧(デンマーク)の建築家で家具デザイナーのアルネ・ヤコブセンによる「アントチェア」です(図3左)。このチェアは元々彼が設計する製薬会社の社員食堂のために、1952年にデザインされたものです。この椅子のように、背面と座面が一体化した椅子は世界初ということです。多くの人が利用する施設の椅子ですから、小さく軽くて積み重ねることができ安価で、というように、多くの条件のある中で製作されたのですね。矢部学科長によると、背面の形がアリの頭のようなのでこの名がついたということですが、確かにそのようにも見えます。いずれにしても、流線型のデザインでシンプルの中にある美しさと使いやすさが融合した作品と言えるでしょう。筆者(蓮花)も20数年前に家族で北欧のフィンランドに滞在していましたが、北欧では、こうしたシンプルでありながら飽きのこないデザインが生活の中に様々に取り入れられています。なお、同じ作者が1955年にデザインした「セブンチェア(Seven Chair)」(図3右)もエントランスには展示されています。

最後に紹介するのは、日本人デザイナーの喜多俊之氏が1980年に制作、発表した「ウインク(Wink)」です(図4)。ヘッドレスト・フットレストを自由に折り曲げることができ、色とりどりのカバーが用意されており着せ替えることができます。この椅子はイタリアのカッシーナ社が製造販売しており、イタリア語で「トポリーノ(子ネズミ)」という愛称で呼ばれることがあるそうです。第二次世界大戦後に社会がふたたび発展し、豊かな暮らしが普及してきた時代にフィットした作品と言えるでしょう。

喜多氏の作品は家具のみならず、家電や日用品に至るまで幅広く、シャープのAQUOSなど多くの受賞作品やヒット商品を生んでいます(喜多俊之, 2007)。ニューヨーク近代美術館やパリ・ポンピドーセンターをはじめ世界中の美術館に収蔵されており、イタリア政府より「イタリア共和国功労勲章コンメンダントーレ」を受勲されるなど、日本を代表するデザイナーとして知られています。

エントランスのチェアたちは学生たちが触れたり座ったりすることも可能です。間近に素晴らしい作品に触れることができるため、居住空間デザイン学科の学生たちにとってとても良い環境だと思います。本学科では、毎年学年別の作品展を実施しており、学生たちの力作が展示されます。とりわけ、卒業研究展の出来は素晴らしく、後輩たちにも大きな励みになっています。卒業研究展作品集の冊子も作成し、大学ホームページでも紹介しています(https://www.tezukayama-u.ac.jp/faculty/living_space_design/news/2021/04/09/post-1011.html)ので、機会があればご覧ください(図5)。

椅子や机、ベッドなど人間が日々の生活で利用する家具は、誰にとっても大切な相棒や友人と言っても差し支えないものです。居住空間デザイン学科の学生のみならず、帝塚山大学で学ぶすべての学生がこうしたチェアや家具の良さに気づいて、日常生活でもデザインや機能を意識してくれることを願っています。

参考文献 
・矢部仁見 「Chair Gallery紹介」、『大学通信帝塚山』No.152004)、No.372015)~No.442019
・西山栄明 『名作 椅子の由来図展』(誠文堂, 2015
・喜多俊之 『ヒット商品を作るデザインの力』(日本経済新聞出版社, 2007

 

学キャンパスには、数多くの樹木があります。大阪市立大学名誉教授で帝塚山学園の学園長も務められた高田英夫先生は植物学の権威であり有り、大阪市立大学理学部附属植物園(現大阪市立大学附属植物園 大阪府交野市私市)から約1万本の樹木の寄贈を受けて、キャンパスを豊かな樹木で整備されました。とくに東生駒キャンパスの樹木の数と種類(約200)は、植物園として通用するほどとわれています。

 

私の好きな樹木のひとつに、5号館から図書館や7号館(情報教育研究センター)に抜ける自動ドアを出たところにあるセコイヤがあります。セコイヤに出会う出合う ものの場合は出合う。特別な思いがある場合は出会うも可)ルートとして、7号館から西にある階段を上りきったところで左手を見るとを見ると、大きなセコイヤの木が見えます(写真1)。セコイヤは北米などに分布する巨大樹で、日本でも化石として数多く発掘されています。このセコイヤが植えられたのは、大学が共学化(共学化されたのは87年です)され、大学の男女共学化1987年)に向けて当時の経済学部棟(現4号館、5号館)が建設された1986年(昭和61年)です頃と推定されます*(高田,2002引用元)。今は高さが26mという巨木になり、風格が漂ってきました。

 

バス停前のにある時計台の先にはレイランドヒノキ(写真2)とメタセコイヤ(図3)があります。レイランドヒノキはアラスカヒノキモントレースギの交雑種です。メタセコイヤ京都大学の三木茂氏による化石調査により1941年の論文で新属として命名されていますが、1946年に中国四川省生育しているメタセコイヤが発見されました。その後、アメリカの研究者が苗を持ち帰り日本1949年に苗木と種子が寄贈されました。記録によると、カルフォルニア大学チェイニー教授から皇室に、ハーバード大学メリル教授から東京大学に送られたとあります。

 

メタセコイヤの和名はアケボノスギです。セコイヤはメタセコイヤから生まれたのですが、メタセコイヤが落葉樹であるのに対して、セコイヤが常緑針葉樹というのが興味深いですね。昭和天皇はこのアケボノスギを愛され、1987年(昭和62年)の歌会始において、和歌を詠まれています。

 

わが国のたちなり来し年々に あけぼのすぎの木はのびにけり

 

戦争で大きく傷ついた日本が、戦後に再び立ち直って発展していった姿を、アケボノスギの成長と重ね合わせた内容です。

 

メタセコイヤについては、滋賀県高島市マキノ高原や大阪市花博記念公園鶴見緑地の並木が有名ですが、ご近所の京都府精華町けいはんな学研都市の精華大通りで1.5km続くメタセコイヤ並木も見事です。本学のメタセコイヤはまだ樹齢が若く、それほど目立ちませんが、これから10年後、20年後には素晴らしい樹木に成長して、学生たちを見守ってくれるでしょう。

 

大学創設の1964年(昭和39年)当時から大学にある樹木としては、食堂から5号館への階段を上ったところにあるアカマツが代表です(写真4)。開学当時は現在の通用門の近くに右が正門があったようです。  今でも帝塚山大学附属博物館と通用門の付近には門から校舎へと続く道沿いにアカマツの木が何本もあります。植えられていたようです 。博物館の左手を降りていく旧正門の小道が残っており、道沿いにアカマツが少しだけ残っています。また、

 

このように、東生駒キャンパス内には多様な樹木があります。春や夏の花々も良いですが、

秋には通用門に降りていく道路沿いのイチョウ並木が私たちの心を和ませてくれます(写真5)。

 

分かりやすいように、キャンパス地図上に、図の番号を載せておきます(図6)。学生の皆さんも、時間を見つけてキャンパスを散策され、季節ごとのキャンパスの風情を樹木や花々から感じとって下さい。

 

参考文献

     高田英夫 「大学の森 第7回 セコイヤ」(大学通信「帝塚山」, No.12, 2002

     斎藤清明 メタセコイヤ中公新書, 1995

     生物学御研究所(編) 皇居の植物(保育社, 1989


 [安田 政志1]門の位置?鈴木さん?

 [多賀 久彦2]富雄からの道が正門:今の通用門で良いですか?

 [鈴木 依子3]もともと松林だったのだと思います。

図1 学園前キャンパス16号館2Fエントランスのチェアギャラリー

図2 ラダー・バック・チェア(Ladder Back chair) (チャールズ・レニー・マッキントッシュ、1904)

図3 アントチェア(Ant Chair)」(アルネ・ヤコブセン, 1952)(左)と セブンチェア(Seven Chair)(アルネ・ヤコブセン, 1955)(右)

図4 ウインク(Wink)(喜多俊之, 1980)

図5 『第14回帝塚山大学卒業研究展作品集』(居住空間デザイン学科,2021)