学長、帝塚山大学

2022年2月1日

第26回 食物栄養学科~食を彩る食器の数々(和食器編)

今年(2021年)最後のエッセイは、教育学部で実践されている音楽教育を支える楽器と施設を取り上げます。学生の皆さんも、幼い頃に、幼稚園や保育園、あるいは小学校で先生達と一緒に童謡を歌ったり、リズム体操をしたり、楽器を演奏して楽しい時間を過ごされた思い出があるでしょう。そうした音楽教育を支えるのが保育士、幼稚園教諭、小学校教諭という先生方です。ですから、教育学部では、教育学の学問的な授業とともに、幅広い教育技術の実習が行われています。そして、音楽教育は、そうした実習の中でも中核をなす分野の一つであり、本学でも力を入れています。
今回の専門アドバイザーは、音楽教育がご専門の宮田知絵准教授です。宮田先生はプロの声楽家であり、ソプラノ歌手として各地でコンサート公演などの演奏活動をされています。
日本の童謡や小学校唱歌の数々は、言うまでもなく、私たち一人ひとりの記憶に刷り込まれています。「春がきた」、「虫の声」、「夕焼け小焼け」など、人々の暮らしに寄り添ってきた歌の数々を、宮田先生が著作『故郷 ふるさと 音楽教育 小学校で学ぶ歌 全二十四曲』としてまとめられています(宮田,2014)。確かに、私自身、一つひとつの歌とともに、当時の小学校での情景がよみがえりました。先生がいて、友達がいる、懐かしい風景でした。「ひらいた ひらいた」という歌では、歌詞の中に「れんげのはながひらいた」という言葉があり、私の苗字が蓮花なので、皆が私を見て、くすくす笑うのでいやだなあと思った記憶もあります。それでも、これらの童謡を歌いながら、私たちは、自然に日本の社会文化を理解していったのではないでしょうか。
さて、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭の採用試験では、いずれも音楽実技が重視され、歌うことや、ピアノ実技が必須となっています(深見ら,2007)。そのため、本学の教育学部でも、ピアノ実習の施設が豊富に整備されています。図1の写真は、教育学部のある学園前キャンパス18号館の音楽室です。グランドピアノ(ヤマハC3製造番号6263122)と木琴(斎藤楽器製作所シロフォン 製品番号No.35 製造番号70)、打楽器のボンゴ(Pearlホワイトウッド・ボンゴ レモ・ニュースキンヘッドBG-209WR )などが配置されています。また、多数の学生が同時に実習できる音楽室(図2上)では、30台の電子ピアノ(ヤマハ ミュージックラボラトリーシステムMLA-4 クラビノーバCVP-403)が並んでいて、壮観です。ヘッドフォンを用いて、個人練習ができます。さらに、数名の規模で指導を受け練習ができる音楽室(図2下)もあり、教員のピアノの演奏に合わせた練習が可能です。
音楽教員の研究室を訪れると、専用のピアノ(ヤマハC3自動演奏機能付 製造番号6253722)や楽器スペースがあり、学生に個人レッスンのできる環境が整えられています(図3)。音楽のように個人のスキルに差が大きい分野では、個人レッスンが必要ですし、こうした環境はとても大切です。
集団用の音楽室と同じフロアには、ピアノの個人練習用の個室(図4)が10室あります。練習したいが自宅にその環境がない学生にとっては自習ができるので嬉しいでしょうね。とくに最近では、ピアノ等での「弾き歌い」が資格試験の課題となることも多く(深見ら,2007)、個人練習用の部屋が利用できるのは良い環境と評価できます。上記の施設の全てが防音用の壁となっているので、安心して練習できます。
教育学部では、毎年1月にスチューデント・コンサートと称して、学生たちの演奏発表の機会を提供しています(図5)。大学近くの「学園前」駅に隣接した奈良市西部会館市民ホールを会場に、学生たちは緊張しつつ、教育の成果としての多彩な音楽を奏でてくれます(図6)。
今回のエッセイでは、触れることができませんでしたが、ピアノ以外にも児童教育ではカスタネットやハーモニカ、リコーダー、木琴など、多くの楽器が活用されています。学生時代にこうした楽器を通じて音楽に親しみ、友人たちと励ましあって練習した経験は、社会に出てからも自分の成長を促すきっかけになります。学生たちが、教育学部の施設や楽器を有効に活用して、社会に羽ばたいていってもらいたいと心より希望しています。
参考文献
・ 宮田知絵 『故郷 ふるさと 音楽教育 小学校で学ぶ歌 全二十四曲』(ファウエム・ミュージック・コーポレーション,2014)
深見友紀子・小林田鶴子・坂本暁美 『保育士、幼稚園・小学校教諭を目指す人のために この一冊で分かる ピアノ実技と楽典』(音楽之友社,2007)
赤羽美希著・深見友紀子監修 『たのしい楽器遊びと合奏の本』((株)ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス,2017)
有本真紀・根本愛子・小島千か「義務教育段階の器楽教育に関する調査」,(音楽教育実践ジャーナルvol.7 no.2,48-62,2010)

食物栄養学科では、帝塚山短期大学時代から使い続けてきた数々の食器類を保有しています。今回はその中でも「和食器」についてご紹介させていただきます。専門アドバイザーは、第10回の「洋食器」と同様に、調理学がご専門の伊藤知子教授にお願いしました。

器の選び方と盛り付け方で、同じ料理であっても、食欲を刺激することができます。陶芸や料理等の総合的な芸術家・北大路魯山人の言葉に「器は料理の着物である」というものがあります(北大路魯山人,1978)。魯山人は、特に器と食には並々ならぬこだわりを持ち、「おいしい食べ物にはそれにふさわしい美しさのある食器が必要」と考え、自ら創作した食器は20~30万点にものぼるといわれています。マンガではありますが、『美味しんぼ88巻 器対決!』でも詳しく取り上げられています。

伊藤先生によると、和食器の特徴は季節感を生かすことだそうです。春先には赤絵の華やぎ、春たけなわの頃には淡い桜色や若葉の薄緑色、初夏はガラス器や青磁・白磁を、秋は侘び・寂びを、冬は蓋物などで温かさを演出します。和食器は、器を手で持ち、箸でつまんで食べる和食の作法(スタイル)に合わせて小さめの形ですが、多様で制約のない自由なデザインの器が数多く作られています。

和食器は椀・碗(飯碗・汁椀)、皿(小皿、中皿、大皿など)、鉢(小鉢、中鉢、大鉢、丼鉢、向付、猪口など)、酒器(徳利、銚子、杯洗など)、食具(箸、箸置)などに分類されます。主に焼き物(陶器、磁器、炻器)ですが、漆器、木、竹、ガラスなど様々な素材が使われます(フードデザイン研究会、2003)。

また、和食器は日本料理だけでなく、洋・中国料理にもうまくなじみます。これは、和食器の変遷には外国文化の影響も大きく、その歴史的背景があるためです。

同じデザインで統一する洋食器とは異なり、さまざまな素材やデザインの器を組み合わせられる多様性が和食器の魅力です。食物栄養学科では小鉢類や箸置きなども様々な種類をそろえ、季節や料理に応じて使い分けています(図1)。特に写真右下の小鉢は、料理を食べ終えると「福」の文字があらわれる趣向で、お祝いの際などに用います。図2のように、料理を盛り付けることで、器も料理も引き立つように感じます。ほかにも、行事食の実習では、椀、折敷(おしき:薄い板に縁をつけた方形の盆)などを用いて特別感を演出することもあります。

食物栄養学科では、盛り付けを重視した実習として、松花堂弁当を用いた実習を行います(図3)。携帯する食事を弁当箱という容器に詰めるスタイルは安土桃山時代にはじまりました。行楽のお供として弁当は欠かせない存在です。中でも松花堂弁当は中に十字形の仕切りがあり、縁の高いかぶせ蓋のある弁当箱を用います。「松花堂」の名は、江戸時代の石清水八幡宮(京都府八幡市)の僧、松花堂昭乗に因むもので、農家が種入れとして使っていた器をヒントにこの形の器を考案したそうです(松花堂庭園・美術館HP)。1933年頃に大阪(桜宮)邸内の茶室「松花堂」で茶事が催された折、料亭「吉兆」の創始者である湯木貞一が、この器で茶懐石の弁当を作り、松花堂弁当として広まりました。

実習では、食材の調理だけでなく、仕切りのそれぞれに刺身、焼き物、煮物、飯などを見栄え良く配置することが大切です(図3下)。器と料理の色彩が調和して、食事の前から気分が高揚してきますね。調理実習室の和食器は、「たち吉」のものを多く使用しています。たち吉は、宝暦2年(1752)に京都で創業、日本の和食器の業界では突出した規模の存在です。江戸時代の「日々の暮らしを楽しむ」という慣習とともに成長、第二次世界大戦後は頒布会を通じて、「器のある暮らしを楽しむ」スタイルを広めました。まさに「料理が映えて、四季を感じる」食器であると思います。

学科に所蔵されている少しめずらしい食器も紹介したいと思います。図4上は土瓶蒸しの器です。「調理学実習のメニューで何が一番美味しかったものですか?」と尋ねると、卒業生も含めてかなりの確率で「土瓶蒸し」という答えが返ってくるそうです。筆者(蓮花)も、大人になってからですが、秋の味覚の代表である松茸の土瓶蒸しなどを京料理の店で頂くと、本当に生きていて良かったと思いますから、学生にとっては驚きのおいしさでしょう。ぜひ将来自宅での食事などでも土瓶蒸しのおいしさを伝えてくれるといいですね。

和食器ではありませんが、図4下は中国(福建、広東)や台湾の茶の儀式の一つである「茶藝」で用いる工夫茶器です。茶盤(ちゃばん、茶器をのせてお湯を注げるようになっている)、茶壷(ちゃふう、急須)、茶海(ちゃかい、急須で入れたお茶を移すポット)、茶杯(ちゃはい、お茶を飲む器)、聞香杯(もんこうはい、香りを楽しむ器)です。日本茶は主に味や色を楽しむのに対し、中国茶は香りを楽しむのも作法のひとつです。器が多いのは、「香りを楽しむための器」があるからです。こうした中国茶は和食とともにいただくことが多いので、調理学実習で用いることがあるそうです。

図5は煎茶器です。実際に和菓子とともに煎茶をいただきました。日本が誇る和菓子も長い伝統により育まれてきましたが、きちんとした器でいただくことで、その気品と美味しさが一層増したように感じます。

食物栄養学科教職員の皆さんも、短期大学時代から引き継がれてきたこれらの和食器の数々を丁寧に扱い、未来の帝塚山大学の学生に伝えていきたいと考えています。学生の皆さんも歴史を経てきた食器たちを大切に使いながら、食文化の担い手として成長していただくことを願っています。

参考文献
北大路魯山人、平野 雅章編『魯山人味道』(東京書房社、1978)(大学所蔵)
北大路魯山人、平野 雅章編『魯山人味道』(中公文庫、1995)(再版)
雁屋哲作、花咲アキラ画『美味しんぼ88巻 器対決!』(ビッグコミックス,2004)
フードデザイン研究会編『食卓のコーディネート[基礎]』(共立速記印刷株式会社, 2003)
・畑耕一郎『日本料理基礎から学ぶ 器と盛り付け』(柴田書店,2014)
・高橋英一『懐石入門』(柴田書店,2015)

図1 小鉢と箸置き(上:様々な小鉢)(下:豊かな彩りの箸置きの数々)

図2 料理を盛った小鉢(上:宝づくし小鉢と春菊とえのきのごま和え)(下:貝の小鉢とみぞれ和え)

図3 松花堂弁当の調理学実習(上:調理学実習での松花堂弁当の準備)(下:完成した松花堂弁当)

図4 珍しい器のあれこれ(上:土瓶蒸の器)(下:中国の茶器)

図5 煎茶と和菓子のセッティング(上:煎茶と和菓子のセット)(下: 煎茶と和菓子を頂く学生たち)