学長、帝塚山大学

2021年9月22日

第17回 彫刻『三つの詩』の再発見

 帝塚山大学東生駒キャンパスの学生食堂の東側壁面に、彫刻(レリーフ)『三つの詩(うた)』(小田信夫氏作)が本年(2021年)7月より展示されています(図1)。本エッセイの第2回で学園前キャンパスの「ハトの広場」を取り上げ、あの群れ飛ぶハトの彫刻は小田信夫氏の作品『夢一題』であることや、東生駒キャンパスの5号館の廊下壁面にも作品『翔』があることを述べました。

 ところが、その際に、記録により旧1号館の学生ホールにあったはずの『三つの詩』が発見されませんでした。図2に、1978年当時の学生ホール(旧一号館2階)での様子を示しますが、壁にその彫刻(レリーフ)が見えます。おそらく、2007年(平成19年)に旧一号館が撤去された際に、彫刻(レリーフ)も外されたものと推測されます。

 大学関係者に質問しても、当時を覚えている関係者も年々少なくなっていますので良い返事が得られず、思案していました。しかし、本学職員が帝塚山大学考古学研究所・附属博物館横の保管倉庫を調べていたところ、嬉しいことに彫刻(レリーフ)『三つの詩』が保管されているのが発見されました。倉庫には様々なものが収められていますので、保管されたまま長い年月眠っていたという訳ですね。

 せっかく再発見されたことでもあり、これからも学生や教職員にも親しんでもらおうと考え、関係者の努力により、このたび学生食堂の壁に新たに展示させていただきました。

 少し追加の説明をすると、この『三つの詩』は小田氏により1978年に制作され、女子大学時代の学生ホールに設置されました。学園前キャンパスのハトの広場に『夢一題』が設置されたのが1980年ですから、それに先立つ2年前ですね。学園からの制作依頼を受けた小田氏は、「学問の府」にふさわしいものをと考え、デッサン、粘土での形づくり、樹脂固め、ブロンズ仕上げの手順で『三つの詩』を完成させました。彫刻(レリーフ)は3枚のパートで構成されており、「人間」をテーマとして、人間の成長過程を、「こどもの頃」(図3上)、「青年の頃」(図3中)、「成人の頃」(図3下)を表現しています。彫刻(レリーフ)1枚の大きさは、縦が90センチ、横が140センチです。

 小田氏は、東京芸術大学をご卒業後、第一回高村光太郎大賞展(1980年)(彫刻の森美術館)でのエミリオ・グレコ特別優秀賞受賞や2008年に二期展(国立新美術館)での文部科学大臣賞受賞など多数の賞を受賞されています。今も公益社団法人二期会で理事として活動されていますが、『三つの詩』制作当時の学園新聞(図4)では、若き日の氏の姿を拝見することができます。

小田氏が制作した作品は、現在も大阪府内を中心に数多く設置されています。(http://www.odanobuo-art.com/sp/works-set/

 私たちは、大学で所有する芸術作品や文化財をこれからも大切に保存しつつ、学生や教職員の心の糧となるように活用することを心がけるつもりです。学生の皆さんには、このような芸術作品や文化財に直接接することで、より豊かな感性を磨いてほしいと思います。

図1 大学東生駒キャンパス・学生食堂に再設置された『三つの詩』 (小田信夫, 1978)(2021年7月撮影)

図2 教養学部・旧一号館学生ホールでの『三つの詩』(1980年代頃)

図3 『三つの詩』(上:こどもの頃、中:青年の頃、下:成人の頃)(小田信夫、1978年)

図4 『三つの詩』設置当時の学園新聞の記事(1978年9月29日)