2021年8月30日
第15回 経済経営学部 ~IT教育の実践
本学は、東生駒キャンパスと学園前キャンパスにおいて、6学部、7学科を有しています。学長エッセイでは、これらの学科での特色や教育内容を、学生の皆さんが見ることのできる文化財や書物、遊具や食器など形のあるモノを中心に見てきました。
学科紹介の最後は、本学でもっとも規模の大きな学部である経済経営学部経済経営学科を取り上げます。今回の専門アドバイザーは、情報ネットワークがご専門の日置慎治教授(経済経営学部長:2021年現在)です。
本学部は、帝塚山大学が共学となった1987(昭和62)年に開設された経済学部が母体です。筆者(蓮花)が着任した年でもあり、当時の学生たちとも一緒に昼食をとるなど、仲良く過ごさせて頂きました。楽しく、また懐かしい思い出です。
当時の経済学部では、情報化社会の到来を視野に入れ、全国の大学に先駆けて、大学教育のIT化を推進して、インターネットの活用も含む情報教育を実施しました。ITとはInformation Technologyの略で「情報技術」を意味します。コンピュータ利用を促進するため、情報教育センターを発足し、当時文科系大学には珍しい高性能のワークステーションを導入し、コンピュータを利用した経済学の学びや経済学に関する大規模計算等に活用されました。
図1は当時のコンピュータルーム(図1上)と授業風景の様子(図1下)です。図2上が管理計算室の写真です。その奥の部屋に記憶媒体としての磁気テープリーダー(読み取り機)(図2下)が見えます。ユーザーが利用するコンピュータの外部用記憶媒体は、当時の磁気テープからフロッピーディスク(8インチ→5インチ→3.5インチ)へと移り変わり、その後も、光磁気ディスク(MO)、光ディスク(CD,DVD)、ブルーレイディスク(BD)などが誕生し、近年にはUSBメモリやポータブルハードディスク(HDD)が主流となり、最近はハードに依存しないクラウドストレージも急増しています(2021年時点)。時代の変化の早さに驚かされますが、これからも変化がさらに加速されていくでしょう。
今や、経済活動や経営判断において、ビッグデータを有効に活用することの必要性が声高に叫ばれるようになりましたが、以前は経済や経営とコンピュータやデータは今ほど密接に関係するとは考えられていませんでした。経済学部を1987年に設置して共学化した当時の大きな構想として、経済学にコンピュータを活用するという次のような理念を見ることができます。
「経済学部が発足 -「国際化」と「情報化」の進展が著しいこれからの社会で経済活動を行う者には、コンピュータを駆使し、外国語や外国事情に精通した人材が必要となる。」(『帝塚山学園七十年史』, 2012)
1997(平成9)年には、経済学部の教員と情報教育センター(現在の情報教育研究センター)が共同で本学独自のeラーニングシステムTIES(Tezukayama Internet Educational Service)を発足させました(図3)。これは教育分野にITを有効に活用する事例であり、日本の中でも草分け的な位置づけとして認識されています。TIESは他大学を巻き込みコンソーシアムを形成するなど、帝塚山大学が日本のeラーニングを牽引して来ました。TIESを活用した教育研究の取組みは、文部科学省のサイバーキャンパス整備事業、特色GP、教育GP、戦略的大学連携などに採択されるとともに、私立大学の多くが加盟する私立大学情報教育協会(私情協)においてICT分野で先進的な5大学の1つにも選ばれるなど、客観的に高い評価も獲得しました。
やがて時代と共に、ITはICT 教育へと変遷していきます。ICT(Information and Communication Technology)とは、「情報通信技術」を意味しており、教育現場において情報通信技術を活用した取り組みがICT教育です。
ICT教育の取組の一つとして、帝塚山大学では、授業科目として「ネットワーク特別演習」を開講し、シスコシステムズ(株)が社会貢献事業として提供する、学校向けネットワーク技術者育成教育プログラム「シスコ・ネットワーキングアカデミー・プログラム」を導入しました。このネットワーキングアカデミーには、シスコ技術者認定資格レベルに合わせたCCNAコースやCCNPコースなどがあり、世界では152カ国1万校以上、日本国内でも多くの大学等で開講されています。本学のような文科系大学でネットワーク講座を開くということ、また本学が主催で「ネットワークコンテスト“Network Skills Competition”」を開催する(第1回は2008年秋に開催)ということで、当時、有名となりました。筆者(蓮花)のゼミ生も心理学科でしたがこの講座を受講し、CCNAはおろか、プロフェッショナル資格であるCCNP資格を取得して驚いたことがあります。その彼は、大学院に進学後、資格を活かして就職し、元気に活躍しています。
帝塚山大学のeラーニングシステムTIESは現在のTALES(Tezukayama Active Learning Education Square)に進化しています。昨年度(2020年度)の新型コロナウイルス感染症蔓延によるオンライン授業への移行の際に、本学が迅速に対応できたのは、これまで述べたような長きにわたるIT教育・ICT教育の歴史があったからだと考えています。
現在の情報教育研究センターの講義室や自習室には、本学がこれまで歩んできたICT教育の成果が詰め込まれていますので、学生の皆さんには存分に活用して頂きたいと思っています。その一端をご紹介します。図4上は96人が利用できる大講義室(東生駒キャンパス)で、図4下が同じく96人用の大講義室(学園前キャンパス)です。こちらは2つの中講義室に分けることもできます。図5上は自習室(東生駒キャンパス)です。図6はグループワーク用に活用できるノートPCのチェックイン端末連動式ロッカーです。ノートPCは学生に貸し出されて活用できます。
データサイエンス教育の一つとして、統計手法の習得が挙げられますが、本学では20年以上前から、SPSSという社会統計パッケージソフトのLAN対応バージョンのライセンスを購入して、統計法の授業や演習・卒業研究等で用いています。LAN対応ということは、キャンパス内であれば場所を問わず、本学の1千台以上のどのコンピュータからでも、SPSSソフトを用いてデータ分析ができることを意味しています。
本年(2021年)、経済経営学部では、データサイエンス関連科目を取得した学生を認定するDSBコース(ビジネスのためのデータサイエンス基礎コース)をスタートさせましたが、こうした流れは30年以上前から始まっていたと言えるでしょう。残念ながら現代の日本社会においては、政治や会社のトップ層の一部が、ICTやデータサイエンスの重要性を認識していないのではないかという雰囲気を感じます。しかし、最近では、データサイエンス教育の関心が急速に立ち上がっています。世界に比べて遅れていると言われる日本の現状を打ち破って、文科系学部の多い本学でも、これまでの長いICT教育の歴史に立脚して、データサイエンス教育を進めていこうと考えています。
1987年の経済学部の発足から現在の経済経営学部に至るまで、学部教育とコンピュータとの長くて密接な関係を、学生の皆さんにも理解していただき、経済経営学部が突破口となって、本学の学生の皆さんが、情報通信技術やデータサイエンスを熱心に学び、社会に羽ばたいて頂くことを願っています。
参考文献
・ 中嶋航一『TIESの挑戦:教育の公開とeラーニングの活用』,メディア教育研究, Vol.2, No.1, 43-54, 2005
http://www.code.ouj.ac.jp/media/pdf2-1-3/No.3-05tokusyuu04.pdf
・ 上藤一郎 『絵と図でわかるデータサイエンス』(技術評論社,2021)
・ 久野遼平 『大学4年間のデータサイエンスが10時間でざっと学べる』(KADOKAWA, 2021)
・ 佐藤洋行 『AI時代の意思決定とデータサイエンス』(多摩大学出版会,2019)
・ 竹村彰通 岩波新書『データサイエンス入門』(岩波書店, 2018)
・上藤一郎他 『データサイエンス入門:Excelで学ぶ統計データの見方・使い方・集め方』(オーム社, 2018)