学長、帝塚山大学

2022年5月11日

第31回 サクラのある風景 ~キャンパスライフの始まり

帝塚山大学、特に東生駒キャンパスには数々の樹木が植えられています。これらの多くは、30年以上前に大阪市立大学理学部附属植物園(現大阪公立大学附属植物園)から、約1万本の樹木の寄贈を受けて整備されたものです。その一端については、学長エッセイ第3回「キャンパスの樹木たち」で、セコイアやメタセコイアなどを紹介しました。さらに、第22回「キャンパスの樹木たち ~秋の風景」では、紅葉するイロハモミジやモミジバフウ、ヤマナラシなどの樹木を取り上げました。

今回は日本を象徴する花の一つであり、歴史的にも日本文化に馴染みの深いサクラを取り上げましょう。関西地方では、3月から4月にかけて、多くの種類のサクラが咲きます。この時期は卒業式や入学式などの行事が催されますので、サクラは人生の節目での別れや出会いを連想させます。

さて、サクラには数多くの品種がありますが、日本で自生するサクラのうち、現在の生物学上で独立した野生種として認められるのは、10種程度とされています(勝木、2015)。このうち、東生駒キャンパスにはオオシマザクラ、学園前キャンパスにはミヤマザクラやヤマザクラの3野生種があります。また、野生種を交配して作られたソメイヨシノを始め、数多くのサクラが植えられています。今回取り上げたサクラの位置を図1上に示しておきます。図1下は、東生駒キャンパス正門のバス停付近から5号館横の駐車場へ向かうオオシマザクラの並木道です。

サクラの野生種を交配して、様々な栽培品種が生まれてきます。その中でもソメイヨシノ(母をエドヒガン、父をオオシマザクラの雑種とする自然交雑もしくは人為的な交配で生まれた日本産の栽培品種のサクラ)はもっとも日本中に広まっている品種です。図2上はバス停の付近の矢田丘陵からキャンパスを見下ろす位置にあるソメイヨシノです。サクラ越しに見るキャンパスも素敵な風景です(図2下)。他にも1号館東側(図3上)や9号館TEZUKAYAMA FOREST CAFÉ(フォレストカフェ)東側のソメイヨシノ(図3下)も綺麗です。

筆者の好きな桜の一つが、4号館東側の図書館横にある枝垂れ桜(シダレザクラ)です(中央芝生広場から図書館横の階段を上り左手)(図4)。年々サクラの開花が早まっていますが、この枝垂れ桜は咲き始めてから時間をかけて満開となるので、長く鑑賞することができます。また、6号館近くの八重桜(ヤエザクラ)も4月中旬くらいまで、豊かな表情を見せてくれます(図5)。

春になると、キャンパスではサクラを初めとする花々が咲き誇り、また新緑が芽吹いてきます。まるで、皆さんの新しい学期の始まりを、キャンパス内のサクラや樹木が歓迎し、温かく見守ってくれているかのように感じます。

学園前キャンパスにもかつては多くのサクラがありましたが、残念ながら、キャンパスの再開発などで少なくなってしまいました。それでも毎年咲いてくれるサクラもあります。図6は毎年入学式が行われる学園講堂の手前にあるヤマザクラです。今年は開花が遅かったのですが、昨年(2021年)の入学式の際に、筆者と一緒に撮影してもらいました。清楚なサクラで、身が引き締まる思いでした。

さて、今回で筆者のエッセイも最終回です。新型コロナウイルスの流行で対面授業が減り、学生の皆さんがキャンパスに足を踏み入れる機会が減少していた昨年(2021年5月)に、この学長エッセイの第1回を開始しました。連載開始から丁度1年が経ち、31回目のエッセイとなる今回を区切りとして、筆をおきたいと思います。

筆者は昭和62(1987)年4月、帝塚山大学が男女共学化した年に着任し、今年で勤続35年目を迎えます。これまでの経験から来るキャンパスの豆知識を紹介することで、学生の皆さんにキャンパスへの愛着を持ってもらおうと思い、エッセイを継続してきました。しかし、エッセイ連載の過程で、私自身も知らないことや新しい発見が次々と出てきて、自分にとっても帝塚山大学の新たな魅力を再発見する体験となりました。

第16回「大学の歴史~正門の謎」では、1枚の写真から遡って、開学当初の正門の位置が特定できました。第17回「彫刻『三つの詩』」の再発見」では、一時見失われていた小田信夫作の彫刻『三つの詩』を倉庫から発見することができ、東生駒キャンパスの学生食堂内に展示することができました。まさに人のために始めたことが巡り巡って自分に返ってくる好事例だと思います。

エッセイでは、本学の学部・学科、大学院、付置研究所などの施設や文化財なども多く取り上げてきました。先生方への取材を通して、各学部や全学教育開発センターの先生方が誇りと愛着を持って、こうした施設を創り上げ、あるいは文化財や教材・機器を収集して、教育研究活動に積極的に活用していることが良く理解できました。そのいずれもが本学の文化的・学術的価値を高めている貴重な財産です。

今年(2022年)4月からはほとんどの科目が対面授業となり、学生の皆さんが大学キャンパスで過ごすことが多くなりました。キャンパス内に賑わいと活気が戻ってきたことを大変喜ばしく思います。ぜひ、空き時間を見つけて、友人たちと一緒に、あるいは一人でキャンパスを歩き回り、エッセイで紹介した施設や文化財、教材・機器の見学や活用を通して、充実した大学生活を過ごしてくださることを期待しています。

参考文献
・    勝木俊雄 2015 『桜』、岩波新書
・    本田正次・林 弥栄 1974 『日本のサクラ』、誠文堂新光社

図1 エッセイで取り上げたサクラの位置とオオシマザクラの並木(上:東生駒キャンパスマップとサクラの位置(2022年5月)  (下:オオシマザクラの並木(2022年4月6日撮影)

図2 東生駒キャンパス正門付近のソメイヨシノ (2022年4月5日撮影)

図3 東生駒キャンパスのソメイヨシノ (上:1号館東側、下:9号館TEZUKAYAMA FOREST CAFE東側) (2022年4月5日撮影)

図4 枝垂れ桜(4号館東側:中央芝生広場から図書館横の階段を上り左手) (2022年4月6日撮影)

図5 東生駒キャンパス・6号館近くの八重桜(ヤエザクラ) (2022年4月11日撮影)

図6 学園前キャンパス・学園講堂前のヤマザクラと筆者 (2021年4月1日撮影)