学長、帝塚山大学

2022年4月27日

第30回 居住空間デザイン学科の実習施設

居住空間デザイン学科は、住環境分野や生活プロダクト分野で活発な教育を実践するとともに、学生たちが様々なコンテストに入賞するなど、社会から高い評価を受けています。

今回のエッセイでは、その居住空間デザイン学科における製図実習やプロダクトデザイン実習を支える施設や道具のいくつかを紹介しましょう。本エッセイの専門アドバイザーを、環境デザインがご専門の辻川ひとみ教授(現代生活学部長、2022年度時点)とプロダクトデザインがご専門の金谷正和教授にお願いしました。

学科では、製図スキルや空間デザインのスキルを身につけることを大変重視しています。図1上はDESIGN Lab.Aと名付けられた製図実習室です。学科では二級建築士の合格を重要な目標としているために、1~2年次の学生は、これらの製図台を用いて、手描き製図の基礎を学びます。

3年生前期になると、2D-CADを用いた建築図面の作成を学びます(図1下)。本学科は、全国建築CAD連盟が主催する建築CAD検定で、毎年優秀な成績を収めており、過去に最優秀団体賞や優秀団体賞を受賞しています。辻川教授ご自身もCAD実習用のテキストを執筆されています。その序文を紹介しておきましょう(辻川、2014)。

「現在、建築・インテリアの設計をする上で、CADは欠かすことのできないツールになっており、大学教育においても、ほとんどの建築・インテリアデザイン学科でCADを用いた設計授業が展開されている。特に、3D-CADは、学生をはじめとする設計者の描画技術不足を補い、設計者が創造する空間や場面を忠実に再現してくれることから、これまで考えられてきたドラフトツールからデザインツールとして進化を遂げている。」

3年生後期では、卒業設計やコンペの応募作品制作を念頭に、3D-CAD の基本的操作を修得します。より詳細な建築意匠計画およびインテリアデザインを行うことで、デザインにおける創造性と実践力を身につけながら、効果的なプレゼンテーション図面が作成できるように、学生たちは学びを深めていきます。

プロダクトデザインについては、木工などの実作業を伴いますので、学生たちにとっては実践の場が大事になります。図2上は、プロダクト系の実習室であるDESIGN Lab.Bです。組み合わせ可能な大型作業台が配置されており、様々な作業に使うことができます。床面は木粉が落ちても滑らない材質になっています。図2下は実習用の機器(リョービ製ベルトディスクサンダー)で、木材や樹脂などを研削して大まかな形を整える機械です。

金谷教授によると、空間のデザインをする場合、色々な素材を使用して工夫することが大切です。図3上は学生が傘のグリップを制作している様子です。図3下は段ボール紙で椅子を制作しているところです。自分の体重を紙で支える形を考えているということで、柔らかな発想が大切ということです。心地よい整った工房で、発想がより拡がると良いですね。

「モノを作る」と言っても、家のような大きなスケールから、身の回りの小物に至るまで、色々なモノがあります。基本的な工具を使用することは、体験として大切なことです。DESIGN Lab.Cの実習室では、木工加工を中心とした工具を備えてあります(図4上:evolution/リョービ/HiKOKI製 スライド丸鋸;図4下左:リョービ製卓上バンドソー、下中・下右:REXON/藤原産業製 卓上ボール盤)。先生方の指導のもとで、これらの工具を安全に使う方法を学びます。

金谷教授は「プロダクトデザイン実習」の授業の狙いを次のように述べています。「この学科は、建築や空間のデザインを学ぶところです。空間の中には、いろんなモノが置かれています。空間という器と個々のモノが合わさって、人々の生活に心地よさを生み出します。紙の上で物事を考えるだけでなく、実際にいろんな素材と触れ合うことで、自分の体で覚える、感じることがとても大切です。そのために、工房という場が必要なのです。工房での様々の実習を通じて、学生に幅広い体験をしてもらうことができます。」

学科での学びの集大成として、毎年2月に、4年生の卒業論文・卒業設計・卒業制作の数々が展示される「卒業研究展」が開催されます。図5上は卒業研究展での作品例、図5下が研究展での作品集の冊子とその表紙をデザインした学生です。

これからも学生たちが学科の実習施設や機器を活用し、豊かな学生生活を過ごしつつ、感性とスキルを磨いて、社会で活躍してくれることを期待しています。

参考文献
・    辻川ひとみ 2020 『最短で学ぶVectorworks 建築製図とプレゼンテーション』、学芸出版社
・    JIDA「プロダクトデザインの基礎」編集委員会 2014 『プロダクトデザインの基礎 スマートな生活を実現する71の知識』、ワークスコーポレーション

図1 製図実習の風景(上:DESIGN Lab. A-製図実習室 2022年3月29日撮影 下:コンピュータでのCADを用いた製図実習 2021年7月18日撮影)

図2 プロダクト系の実習室DESIGN Lab. Bと実習機器 (上:プロダクトデザイン系実習室DESIGN Lab. B 下:リョービ製ベルトディスクサンダー 2022年3月29日撮影)

図3 プロダクト制作の様子 (上:傘のグリップ制作の様子 2021年6月2日 撮影  下:段ボールでの椅子制作の様子 2021年10月15日撮影)

図4 DESIGN Lab. Cでの木材加工の機器類 (上:スライド丸鋸:角材や幅の狭い板材を任意の角度で切ることができる)(下左:卓上バンドソー:角材や板材の切断、曲線切り抜きなどができる 下中・右:卓上ボール盤:回転するドリルをハンドルで昇降させ、 正確に美しい穴をあけることができる2022年3月29日撮影))

図5 毎年恒例の卒業研究展 (上:4年生の作品例 2022年2月10日撮影 下:作品集とその表紙をデザインした学生 2022年4月13日撮影)