学長、帝塚山大学

2022年2月5日

第27回 冬のキャンパスを彩るイルミネーション

今年(2021年)最後のエッセイは、教育学部で実践されている音楽教育を支える楽器と施設を取り上げます。学生の皆さんも、幼い頃に、幼稚園や保育園、あるいは小学校で先生達と一緒に童謡を歌ったり、リズム体操をしたり、楽器を演奏して楽しい時間を過ごされた思い出があるでしょう。そうした音楽教育を支えるのが保育士、幼稚園教諭、小学校教諭という先生方です。ですから、教育学部では、教育学の学問的な授業とともに、幅広い教育技術の実習が行われています。そして、音楽教育は、そうした実習の中でも中核をなす分野の一つであり、本学でも力を入れています。
今回の専門アドバイザーは、音楽教育がご専門の宮田知絵准教授です。宮田先生はプロの声楽家であり、ソプラノ歌手として各地でコンサート公演などの演奏活動をされています。
日本の童謡や小学校唱歌の数々は、言うまでもなく、私たち一人ひとりの記憶に刷り込まれています。「春がきた」、「虫の声」、「夕焼け小焼け」など、人々の暮らしに寄り添ってきた歌の数々を、宮田先生が著作『故郷 ふるさと 音楽教育 小学校で学ぶ歌 全二十四曲』としてまとめられています(宮田,2014)。確かに、私自身、一つひとつの歌とともに、当時の小学校での情景がよみがえりました。先生がいて、友達がいる、懐かしい風景でした。「ひらいた ひらいた」という歌では、歌詞の中に「れんげのはながひらいた」という言葉があり、私の苗字が蓮花なので、皆が私を見て、くすくす笑うのでいやだなあと思った記憶もあります。それでも、これらの童謡を歌いながら、私たちは、自然に日本の社会文化を理解していったのではないでしょうか。
さて、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭の採用試験では、いずれも音楽実技が重視され、歌うことや、ピアノ実技が必須となっています(深見ら,2007)。そのため、本学の教育学部でも、ピアノ実習の施設が豊富に整備されています。図1の写真は、教育学部のある学園前キャンパス18号館の音楽室です。グランドピアノ(ヤマハC3製造番号6263122)と木琴(斎藤楽器製作所シロフォン 製品番号No.35 製造番号70)、打楽器のボンゴ(Pearlホワイトウッド・ボンゴ レモ・ニュースキンヘッドBG-209WR )などが配置されています。また、多数の学生が同時に実習できる音楽室(図2上)では、30台の電子ピアノ(ヤマハ ミュージックラボラトリーシステムMLA-4 クラビノーバCVP-403)が並んでいて、壮観です。ヘッドフォンを用いて、個人練習ができます。さらに、数名の規模で指導を受け練習ができる音楽室(図2下)もあり、教員のピアノの演奏に合わせた練習が可能です。
音楽教員の研究室を訪れると、専用のピアノ(ヤマハC3自動演奏機能付 製造番号6253722)や楽器スペースがあり、学生に個人レッスンのできる環境が整えられています(図3)。音楽のように個人のスキルに差が大きい分野では、個人レッスンが必要ですし、こうした環境はとても大切です。
集団用の音楽室と同じフロアには、ピアノの個人練習用の個室(図4)が10室あります。練習したいが自宅にその環境がない学生にとっては自習ができるので嬉しいでしょうね。とくに最近では、ピアノ等での「弾き歌い」が資格試験の課題となることも多く(深見ら,2007)、個人練習用の部屋が利用できるのは良い環境と評価できます。上記の施設の全てが防音用の壁となっているので、安心して練習できます。
教育学部では、毎年1月にスチューデント・コンサートと称して、学生たちの演奏発表の機会を提供しています(図5)。大学近くの「学園前」駅に隣接した奈良市西部会館市民ホールを会場に、学生たちは緊張しつつ、教育の成果としての多彩な音楽を奏でてくれます(図6)。
今回のエッセイでは、触れることができませんでしたが、ピアノ以外にも児童教育ではカスタネットやハーモニカ、リコーダー、木琴など、多くの楽器が活用されています。学生時代にこうした楽器を通じて音楽に親しみ、友人たちと励ましあって練習した経験は、社会に出てからも自分の成長を促すきっかけになります。学生たちが、教育学部の施設や楽器を有効に活用して、社会に羽ばたいていってもらいたいと心より希望しています。
参考文献
・ 宮田知絵 『故郷 ふるさと 音楽教育 小学校で学ぶ歌 全二十四曲』(ファウエム・ミュージック・コーポレーション,2014)
深見友紀子・小林田鶴子・坂本暁美 『保育士、幼稚園・小学校教諭を目指す人のために この一冊で分かる ピアノ実技と楽典』(音楽之友社,2007)
赤羽美希著・深見友紀子監修 『たのしい楽器遊びと合奏の本』((株)ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス,2017)
有本真紀・根本愛子・小島千か「義務教育段階の器楽教育に関する調査」,(音楽教育実践ジャーナルvol.7 no.2,48-62,2010)

近年は、日本各地で、街並みや街路樹へのイルミネーションが盛んに行われており、LEDライトの普及で年々その規模や多様性が増しています。寒い冬に街の賑やかさを演出する目的でしょうが、寒い冬に街のイルミネーションを見ると、心が温かくなります。

今回は帝塚山大学の冬の風物詩ともいえるキャンパスのイルミネーションを取り上げます。現代生活学部居住空間デザイン学科の木村均准教授に専門的なアドバイスを頂きました。

帝塚山大学でも、冬のキャンパスを彩るイルミネーションが学園前キャンパスで毎年実施されています。令和3年度には東生駒キャンパスでもイルミネーションが復活し、12月から2月にかけて学生や教職員の心を癒やしてくれました。図1は学園前キャンパスのデッキ通路、図2がハトの広場でのイルミネーションです。そして、図3が東生駒キャンパスのイルミネーションのオープニングセレモニーとバス停前のメタセコイアに点けられたイルミネーションの様子です。

帝塚山大学でイルミネーションが始まったのは、東生駒キャンパスが2004年、学園前キャンパスが2005年からです。2003年度以前にも東生駒キャンパスでは学生たちが手作りでイルミネーションを設置していましたが、2004年度からは大学や学生会の補助を受けて全学的な取組となりました。学生たちは毎年テーマを決めてアイデアやデザインを持ち寄り、高所での設置作業は業者の方々の手を借りながら広場や通路のイルミネーション設置に取り組みました。しかし、2011年に東日本大震災が発生したのを受けて、東生駒キャンパスのイルミネーションは自粛となり、学園前キャンパスのみでの実施となりました。

イルミネーションは、16世紀にドイツの宗教改革者マルティン・ルターが考えたとされています。彼は夜、森の中で煌めく星を見て感動し、木の枝に多くのロウソクを飾ることでその景色を再現しようとしたという説です。

筆者は、20数年前、ドイツミュンヘンに家族とともに滞在していました。ミュンヘン大学近くにゲストハウスがあり、その隣には、「エングリッシャーガルテン(英国庭園)」と呼ばれる広大な公園が広がっています。滞在中の12月のある日の夜、家族で暗い公園を歩いて、そこで開かれているクリスマス市場に行きました。雪で覆われた暗い公園の小道を歩いていると、遠いところに市場の光が見えてきます。やがて近づくにつれて、クリスマスの音楽や人々のざわめきが聞こえてきて、夜道を歩いていた私たちには、たどり着いたクリスマス市場が光の溢れる空間に見えました。ヨーロッパの冬は、長くて寒いだけでなく、とても暗いのが特徴で、本当に気が滅入ってきます。その長く暗い冬を乗り切るために、欧米では、毎年華やかなクリスマス市場が開かれ、洗練された空間照明やイルミネーションが発達したのではないかと考えています。

帝塚山大学に限らず、大学キャンパスは、夜がとても暗いので、イルミネーションには適しています。本学のイルミネーションには、教職員だけでなく、学生たちが組織している「イルミネーション推進委員会」が準備から関わっています。また、点灯されたイルミネーション前の空間を用いて、ダンスサークルのパフォーマンスなども行われてきました(図4)。コロナ禍により、最近2年間はこうしたイベントが行われていないのが残念ですが、今年(2022年)には実施できると期待しています。

照明学会が編集した『空間デザインのための照明手法』(オーム社,2008)では、「照明デザインとは光をデザインすることであるが、「光の見え方」をデザインするのではなく、「空間の見え方」をデザインする。」と述べられています。

学園前キャンパスのイルミネーションは通路や広場で行われており、建物での人の移動を配慮するとともに、空間の様相を魅力あるものにしています。東生駒キャンパスでは、樹木などの自然環境を浮かび上げることで、景観や空間の広がりを感じることができます。

建築物や街路での照明には、景観(空間)の演出のみならず、安全や防犯という機能も重要です。学生たちが、照明の目的や手法、色彩の心理効果などを今まで以上に研究して、東生駒と学園前のキャンパスで、さらに充実したイルミネーションを創り出し、空間デザインの視野を広げてくれれば嬉しいです。毎年、イルミネーションの季節になると、学生たちがイルミネーションの下に集い、写真を撮って語り合う様子が見受けられます(図5)。語らいの場あるいは癒しの場として、本学のイルミネーションが今後も発展することを希望しています。

参考文献
照明学会(編)『空間デザインのための照明手法』(オーム社、2002)
日本建築学会(編)『光と色の環境デザイン』(オーム社、2001)
小泉隆(著)『北欧の照明:デザイン&ライトスケープ』(学芸出版社、2019)
角舘政英,若山香保,ぼんぼり光環境計画(編著)『行為から解く照明デザイン』(彰国社、2013)

図1 学園前キャンパス:デッキ通路のイルミネーション (2021年12月撮影)

図2 学園前キャンパスのイルミネーション(上:ハトの広場のイルミネーション① 下:ハトの広場のイルミネーション②)(2021年12月撮影)

図3 東生駒キャンパス正門バス停付近のイルミネーション(上:オープニングセレモニーでの学生のスピーチ:2021年12月撮影)(下:メタセコイアに設置されたイルミネーション:2022年1月撮影)

図4 学園前キャンパスイルミネーション前での ダンスパフォーマンス(2019年12月撮影)

図5 イルミネーションとともに写真撮影する学生達(上:東生駒キャンパスでの風景:2021年12月撮影 )( 下:学園前キャンパスでの風景:2021年12月)