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2014年6月23日(月)

【日本文化学科】パリで『源氏物語』~清水婦久子教授にインタビュー~

 

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文学部日本文化学科の清水婦久子教授(文学部長・古典文学)は『源氏物語』の大家として知られ、講演や発表の機会も多く持たれています。2014年3月には、フランスのパリで開催された国際シンポジウムで発表されました。 

─3月にパリで発表されたそうですが、どのようなシンポジウムだったのでしょうか。

清水:フランス国立東洋言語文化大学(イナルコ)とパリ・ディドロ大学で開催された、パリ・国際シンポジウムです。2003年から、パリ第7大学とイナルコの教員が共同で『源氏物語』のフランス語訳に取り組んでいます。そのグループによって開催されました。

─先生がシンポジウムに参加されることになった経緯を教えてください。

清水:フランスの『源氏物語』翻訳グループは、時間をかけて本格的な翻訳に挑戦しています。厳しい基準で作業を進める中で、『源氏物語』の和歌や和歌的表現の重要性に気づかれ、参考として私の著書を回し読みなさっていたそうです。私の著書を読んで『源氏物語』の和歌の重要性を理解できたとおっしゃってくださいました。これから「空蝉」「夕顔」と翻訳を進めていくにあたり、和歌に関する知見をさらに深める必要があり、今回のシンポジウムのテーマを「詩歌が語る源氏物語」と設定され、私に発表を依頼してくださったようです。

─海外の大学で行われる国際シンポジウムは、提携関係のある大学の研究者が中心になるという印象があります。

清水:今回のシンポジウムでも、イナルコと提携している首都圏の大学の教員が参加していますが、私の場合は、寺田澄江さん(イナルコ教授)をはじめ、イナルコの教員が著書や論文を読んで関心を寄せてくださっていたことがきっかけになっています。海外でも評価してくださる方がいたというのはうれしいことだと思います。

─パリ・国際シンポジウムでは、どのような発表をされたのでしょうか。

清水:「『源氏物語』の巻名と和歌─歌から物語へ─」というテーマで発表しました。昨年の夏、日本からシンポジウムに参加するメンバーが東京に集まって打ち合わせをしたとき、寺田さんが井上ひさしの座右の銘「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」を引いて、一般的な話ではなく、最先端の研究内容をわかりやすく発表してほしいとおっしゃいました。ネットでわかる範囲のことは皆聞きたいとは思わない。わざわざシンポジウムに足を運ぶからには、他では聞けない話を聞きたいと思って来るのだとのことでした。

─かなり厳しい要求ですね。

清水:フランスで日本文学に関心を持つ方のレベルはとても高いと感じました。何をおもしろいと評価するのかという基準も、一般的な日本人とは少し違うかもしれません。他では言われていない、「そうなんだ!」と新鮮な驚きを持てるような新しい話にこそ、興味を持つようです。論文も、謎を明らかにしていくというサスペンスの要素がないと評価されないとのことでした。私はふだん国内でも講演をする機会が多く、最先端の研究の話をわかりやすく伝えるという工夫をしてきました。配布資料も話す順番で構成し、パワーポイントも用意します。今回はそれに加えて、事前にレジュメを完成させ、フランス語に翻訳していただくという準備もありました。

─シンポジウムの当日はどのような様子だったのでしょうか。

清水:それぞれの発表に、ディスカッションの時間をしっかり取っていて、さらにセッションごとの討論の時間もあります。私は21日にパネリストとして発表し、22日にはジョシュア・モストウさん(ブリティッシュ・コロンビア大学教授)の発表についてディスカッサントを務めました。私の発表に対するディスカッションでは、日本から飛び入り参加していた論客の研究者が質問してくれたこともあって、『源氏物語』の巻名に関するこれまでの通説に対して、私が新しく実証しようとしている論点が明確になり、本格的な議論を戦わせることができました。

─ご発表だけでなく、ディスカッサントもなさったのですね。

清水:ディスカッサントには、発表者に対して質問をして議論をリードする役割も求められます。実は、私が担当したモストウさんは、発表できなくなった人の代わりに、急遽ピンチヒッターで発表してくださったという事情がありました。そのため、事前の打ち合わせの時間も充分には取れず、当日にモストウさんのフランス語の発表を聞いて、その場で考えて質問しなくてはいけないという状況になり、大変でした。そういうアクシデントはありましたが、シンポジウム全体はとても有意義なものとなりました。シンポジウムの成果は来年、青簡舎から刊行予定の論集『詩歌が語る源氏物語』(仮称)にまとめられます。

─最後に、大学でどのように学ぶか、学生にアドバイスをお願いします。

清水:今回のシンポジウムにつながった、私とイナルコとの関係も個人のレベルから始まっています。学生にも、時には一人で一歩外に踏み出すという勇気を持ってほしいと思います。仲間と力を合わせることも重要ですが、一人でいてこそ見えることがあります。ここぞというときには一人で出て行くことを恐れずに、思い切って挑戦してください。経験することすべてが自分の収穫になります。

 

清水先生のシンポジウムの発表内容についてくわしく知りたい方は、『源氏物語の巻名と和歌』(和泉書院・2014年)をご参照ください。また、関心を持たれた方は、清水先生のHP http://www.hikariyugao.com もご覧ください。

 

 

発表のパワーポイント

発表レジュメ(フランス語版)