妖怪、もののけ、あやかし…昔、私たちの祖先が自然の恵みを生活の糧として暮らしていたころ、こうした不思議な存在が人のすぐそばにいました。

 山では狐や狸にだまされ、水辺では河童と相撲を取り、時には「座敷わらし」が家を繁栄させる…妖怪がいる、不思議な現象がおきることがごくあたりまえで、まるで「自然現象の一部」とさえ思われていたのでは?と考えられるほど、人々の暮らしの中で妖怪やもののけのお話が語られ、受け継がれてきました。

 今でも大都会を離れ、緑濃い土地へ行けば「野づち(つちのこ)」を見たという話があり、時には河童の目撃さえ新聞に載ることがあります。東北では座敷わらしの出る旅館やお屋敷も存在します。しかし、こうした妖怪たちは多くの日本人から忘れ去られる運命にありました。

 明治維新以降、急速に近代化を急いだ日本にもたらされた「合理主義」「近代科学思想」は、客観的な事実を重んじ、人々に畏敬の念さえ持たれていた妖怪たちの存在を消し去っていったかに思えた時期がありました。

 また、高度成長期には山が切り開かれ、森は痩せ、海は汚染されていきました。人々が恐れ敬ってきた豊かな自然が急速に消耗すると共に、自然という住処に住んでいた不可思議な存在としての妖怪たちも、いつの間にかその姿を消したかのように思われました。

 しかし今、里山に住む妖怪「トトロ」に老若男女が心ひかれ、「祟り神」が登場するアニメに喝采し、「八百万の神々」の不可思議な世界に心躍らせ、キャラクター化した水木しげるの妖怪たちが町おこしの主人公となる…という、平成妖怪全盛期ともいうべき時代が訪れる気配をみせています。

 なぜいま、妖怪たちが私たち現代人の心を引きつけるのでしょう?また、妖怪が私たちの国の歴史や社会の中でどのように誕生し、どう変化していったのでしょうか? 今に伝わる妖怪たちのお話と共にみていくこととしましょう。

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日本妖怪探訪

序〜prologue〜