YOKAI DICTIONARY


Introduction

 <日本妖怪探訪>ではいろいろな日本の妖怪たちが出てきました。その多くは今の科学では解明できている特異な気象現象であったり、古くからの伝承であったり、時にはまだ知られていなかった動物の姿などが<根源>となっていた、と記してきました。
 もちろん日本だけでなく長い歴史を持つヨーロッパにも、広い意味で妖怪や幽霊という意味を持つ「phantom」という言葉があったり、日本の妖怪とはちょっとニュアンスの違う「fairy=妖精」といった言葉があり、いろいろな「yokai的伝承」が伝わっています。
 特に北欧やイギリスといった古い歴史を持ち、さまざまな物語が伝承されてきた国々には、日本の妖怪に共通した、<自然への畏敬の念>から誕生したと思われるような、非常に古い「yokai的存在」のお話がたくさん伝えられています。

 そこでまずは英語圏の国々で「yokai的存在」をなんと呼ぶか、代表的な存在をご紹介しましょう。

Fairy

YOKAI DICTIONARY:Part1

 yokai的存在を英語では何ていう?

妖精 fairy (発音:fe'(э)ri、フェアリー)《複》fairies
小妖精、小人、いたずら者 elf (発音:e'lf、エルフ)《複》elves (ゲルマン神話が起源)
悪鬼、小鬼、小悪魔 goblin (発音:gα'blin、ガブリン、ゴブリン)《複》goblins
妖精、小鬼 pixie (発音:pi'ksi、ピクシー)《複》pixies
小妖精 leprechaun (発音:le'prэko`:n、レプレコン)
人食い鬼、鬼 ogre (発音:o'ugэ(r)、オーグラー)《複》ogres
魔女、醜い女、卑劣な女 witch (発音:wi't∫、ウィッチ)
男の魔法使い、魔術師、
名人、専門家、天才
wizard (発音:wi'zэ(r)d、ウィザァド)《複》wizards

 このほかにもライン川に出没したという「ローレライ(Loreley)」という人魚や、「オベロン(Oberon)」というシェイクスピアの戯曲「真夏の夜の夢 (A Midsummer Night's Dream) 」に登場する妖精の王、「ロビン・グッドフェロー(Robin Goodfellow)」という、オベロン(Oberon)の部下で、悪戯好きの妖精(ピーター・パンのモデルといわれる妖精)、「ユニコーン(unicorn)」や「ペガサス(Pegasus)」などの異型の生き物などが有名なところでしょうか。
 ちなみにはMidsummer Nightは「夏至祭の夜」という意味で「真夏」ではなく「夏至」=1年で一番日が長い、今の6月下旬を指します。古くからヨーロッパでは、最も精霊が活発に出没する時期として、各地で「夏至祭」がおこなわれ、そこでは盛んに「恋占い」が開かれていたといいます。

 
これ以外にも、たとえばイギリスには、

Jack Frost
カリヤク・バル Cailleach Bheur 
スコットランドの山中に潜み,地面や湖面を杖で触れて凍らせる妖怪
ジャック・フロスト Jack Frost 
霜の妖精で、不気味な笑い声とともに現れ、人を凍死させる「雪女」と同じような妖怪
ウィル・オ・ザ・ウィスプ Will o’the Wisp 
人魂、火の玉
ポーチュン Portune 
土を耕し続ける小人の妖怪
ガブリエルの猟犬 Gabriel Hounds 
雷の鳴る嵐の夜に群れで空を飛ぶ狼の妖怪
ケルピー Kelpie 
旅人をだまして乗せ、いつの間にか沼の深みに連れ込むという馬の妖怪
パック Puck 
Puckはイギリスの古語ポークPoukeにあたり、元来の意味は「悪魔・魔神・悪霊」。シェイクスピア「真夏の夜の夢」に登場する陽気でいたずら好きな妖精
バンシー Banshee 
川のほとりで死期の近づいた人間の衣服を洗いながら、家族のために泣くといわれている。アイルランドやスコットランドに伝承が残る妖怪
指輪 Ring 
妖精の作った魔力を持つ指輪 *トールキンの描く「指輪物語」、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作としでも有名

などの妖精・妖怪・怪異伝承が残っています。

 特にgoblinKelpie、elf、Banshee、pixie といった妖精や妖怪たちは、アイルランドをはじめ、ウェールズ、スコットランド、コーンウォールというイギリスの地方と、フランスのブルターニュ地方にその文明の足跡を残し、ヨーロッパ文化の基礎を築いたといわれる「ケルト民族」の伝承に登場する妖精や妖怪です。
 
 このケルト民族は文字を持たなかったため、こうしたお話は口伝えに伝承されたものですが、お話の内容は日本の妖怪と同じように動物の姿や怪異な現象、いい伝えなどから想像されたものが多いとされ、悪戯はするが時に人を助けるという場合もある、という性格付けがなされている妖精・妖怪がいるという点で、日本の妖怪と近い感じがするのです。また、ケルトの人々は日本の古い民間信仰同様、山や木々、太陽や月といった自然を信仰の対象にしていて、その<自然への畏敬の念>から誕生したケルトの伝承に登場するyokai的存在は、どこか日本の妖怪たちと近しい感じがしてなりません。

 西ヨーロッパから移民が渡ったアメリカでも、こうしたケルト的な妖精・妖怪伝承文化というべき文化が細々ながら今も生きているように思えます。スピルバーグの映画「グレムリン」の主人公・グレムリンは、彼の創作の生物だと思っている方も多いでしょうが、実は18世紀にヨーロッパで生まれた「都市伝説」的妖怪で、人間の発明を手伝ったとか、今でも機械に悪戯して故障させるとかいわれ、アメリカでは「gremlin's effect」(グレムリン効果=突然機械などの調子が悪くなる現象をいう)なるいい回しがあるくらいです。このグレムリンもまた、goblin の伝承が元になったといわれています。

 どこか日本の妖怪と共通点があるようにみえるヨーロッパに残る古いyokai的伝承。この古い伝承はヨーロッパ世界がキリスト教文化の影響を受ける前の、遠い民族の記憶・伝承を今に伝えてくれています。 こうした存在と、日本の妖怪たちとの共通性や異なるところを見ていくと、それぞれの国の文化や歴史が見え、興味深い発見があるかもしれません。

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