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論 説
遺産分割前の相続不動産の管理と使用
―― ドイツ法からの照射 ――
常 岡 史 子
目 次
一 はじめに
二 共同相続人による相続不動産の使用 ― 日本法における処理 ―
(一)共同相続人の一部と被相続人の間に使用貸借関係があった場合
(二)共同相続人が相続分に基づいて相続不動産を占有する場合
(三)最高裁平成八年判決の意義と学説の展開
(1)最高裁判決の概要
(2)最高裁判決を受けた学説の展開
三 ドイツ民法典における遺産分割前の相続財産の管理
(一)共同相続関係の法的性質と相続人相互の関係 ― 合有 ―
(二)共同管理の原則 ― 全員一致による意思決定 ―
(三)共同管理原則の修正
(1)単独で行なう相続財産の保存に必要な措置
(2)相続財産の「通常の管理」 ― 多数決原理と協力義務 ―
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四 ドイツ民法典における相続不動産の使用
(一)賃貸借契約の締結と解約
(二)相続人の持分に基づく使用
(三)果実の分配と費用負担
(四)相続家屋への居住の保護 ― 三〇日権 ―
五 むすび
一 はじめに
目次に戻る
相続の開始によって、被相続人の財産は相続財産として相続人に包括的に承継される。そして、民法九〇六条の基準に従って遺産分割されることにより、相続財産を構成する個々の財産の帰属先が最終的に決定するまでは、相続財産はこの者たちの共有に属するとされる(八九八条)
(1)。この「共有」の性質を物権法上の共有と見るかあるいは合有と解するべきかについては、明治民法以来議論のあったところであるが、現在ではこれを「遺産共有」という共同相続関係に特殊な共有であるとして、その具体的内容の解明に重点が置かれるようになっている(2)。
共同相続人らによる遺産共有は、その状態の一時性を前提とする点に特徴がある
(3)。すなわち、共同相続された相続財産は、それに属する個々の客体を遺産分割手続によって相続人間で配分し、最終的な帰属先を決定することを要するのであり、遺産共有はそれに至るまでの過渡的状態である。遺産分割が共同相続人の協議によってすみやかになされれば問題はないが、法律は分割について特に期限を定めていない。そのため、場合によっては相続の開始[3頁]から遺産分割の実施までに相当の期間が経過することも考えられる(4)。ところが、民法は、このような遺産分割前の相続財産の管理について、利害関係人らの請求によって家庭裁判所が相続財産の保存に必要な処分を命じて管理人を選任する場合を除いては、相続人が自己の固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理すべきことを規定するのみである(5)。そのため、単純承認後財産分離の手続きがとられず、また、相続財産の管理人や遺言執行者も選任されない場合に、相続財産の管理をいかに行うかが法の欠缺の問題として従来より論じられてきた(6)。そこで、共同相続人自らが、相続財産特に居住家屋の管理を行う際に、通常の共有における財産管理の場合と比べて、遺産共有はどのような違いをもたらすのかが、本稿の関心の一つとなる。
ところで、わが国では、共同相続関係の法的性質についての共有か合有かという理論の対立にかかわらず、その管理には、共有に関する民法二四九条以下の諸規定が適用又は類推適用されるというのが現在の大勢である
(7)。したがって、相続財産の保存は二五二条但書によって共同相続人が各自単独で行うことができるが、その他の管理行為については同条本文に従って、相続人らの相続分に応じて過半数をもって決定することになる。また、相続財産に属する物に変更を加える場合には、共同相続人全員の同意が必要となる(二五一条)。しかしながら、遺産共有が、遺産分割までの共同相続人間の一時的な共同関係であるとしても、後に遺産分割が行われることを前提とし、この遺産分割が相続人間での相続財産の総合的で合目的的な配分を目的とする以上(8)、共同相続関係のもとにある相続財産の管理や使用収益を、純粋な共有物の管理と割り切ることは適切でない(9)。純粋な物権法の法理にのみ従うことなく、相続財産の一体性を念頭に置いた管理が要請されるのである(10)。
さらに、遺産分割前の相続財産の管理や使用そのものが、共同相続人にとって重大な意味を持つ場合も少なくない。特に、共同相続人の一人が被相続人の所有する建物に従来より居住しており、この建物を当該相続人に遺贈す
[4頁]るという遺言もなかったような場合には、遺産分割による当該建物の最終的な帰属が決定されるまでの間、当該相続人の居住の継続を法律的にどのように扱うのかがしばしば論じられる(11)。すなわち、被相続人の所有する住居に居住していた相続人は、相続の開始により他の共同相続人と当該不動産を共有することになるが、他の共同相続人がその共有持分権に基づいて当該不動産の明渡しを請求した場合これを拒むことができるのか、あるいは、この場合に明渡しを拒んで遺産分割まで引き続き居住するとしたときには、当該建物の利用による居住の利益を不当利得として他の共同相続人に返還する義務を負うのかといった問題である。そして、その解決策の一つとして示されていたのが、被相続人と相続人の間に使用貸借の存在を擬制するという方法であり(12)、平成八年には最高裁もこの構成によった判決を下した(13)。しかしながら、被相続人と同居していた共同相続人の居住を、遺産分割前の遺産共有の段階で全面的に保護するというこの判決に対しては、他の事例にこの理論が硬直的に適用されることへの懸念も示されている(14)。
そこで、本稿では、まず遺産分割に至るまでの相続不動産の使用についての日本法の態度を確認した上で、共同相続財産の管理において相続人間に争いがある場合の法的措置に関してドイツの制度を通観し、わが国における議論の参考に供したい。ドイツでも、原則として被相続人の死亡と同時に、被相続人に帰属していた財産は一体的・包括的に相続人に承継される
(15)。その意義は、相続財産を一体的なものとして扱うことにより相続人が複数ある場合に相互の利益調整が容易になり、また、相続財産が一体として責任財産となることで、遺産債権者の利害に配慮できることにあるとされる(16)。そして、共同相続人への相続財産の一体的な移転を共同相続人間の密接な関係として構成するために、ドイツ法は、共同相続関係を合有関係ととらえる(17)。しかしながら、他方では、相続財産についての共同相続人の合有関係は、財産法における組合(ドイツ民法典(以下BGB)七一九条)や約定夫婦財産制[5頁]である財産共同制(BGB一四一九条)の合有と異なり、当事者の合意や信頼関係を基礎としたものではなく相続に際して法律ないし被相続人の意思(18)に従って生じる関係であり、しかも遺産分割を待って早期に解消されることを予定した関係であるとも言われる(19)。BGBは、二〇三二条以下に共同相続関係についての相続法固有の規定を置き、それらは相続財産に属する物の散逸を防ぎ遺産分割を円滑に進めようという意図を示しているが(20)、他方、合有的規制による拘束性を緩和する目的で、共同相続財産の管理に対しては債務法の「共同(Gemeinschaft)」に関する諸規定も準用されている(BGB二〇三八条二項)。これらの規定の適用の実際について検討し、管理の目的物が相続財産であることに由来する相続法的要請との調整の状況を探ることは、わが国での議論にも資すると考える(21)。
(1)一般に、相続によって被相続人から相続人に承継される財産を、相続人の立場からみて「相続財産」と総称している。民法では九〇六条以下の遺産分割に関する規定において、明治民法の「遺産相続」の沿革から、遺産という用語を使用しているが、実質的な意味に差異はないと言われている(山畠正男『新版注釈民法(26)』(有斐閣、一九九二年)六〇頁)。本稿でも両者を併用するが、原則として、いずれの語を用いるかによって意味内容に差異を持たせるものではない。
(2)太田武男『相続法概説』(一粒社、一九九七年)七二頁以下、高木多喜男『口述相続法』(成文堂、一九八八年)一七四頁以下。本稿でも、共同相続人による相続財産の遺産分割前の共有状態を、このような意味において「遺産共有」と記述する。なお、共同相続財産の法的性質に関する議論の詳細については、来栖三郎「共同相続財産について(一)―(四・完)―特に合有論の批判を兼ねて―」法学協会雑誌五六巻二号(一九三八年)二九頁、三号(一九三八年)六二頁、五号(一九三八年)三六頁、六号(一九三八年)六四頁、品川孝次「遺産『共有』の法律関係」『遺産分割の研究』(判例タイムズ社、一九七三年)一二頁、玉田弘毅「共同所有形態論序説」法律論叢三〇巻四号(一九五七年)一〇七頁、有地亨「共同相続関係の法的構造(一)(二)」民商法雑誌五〇巻六号(一九六四年)三頁、五一巻一号(一九六四年)三二頁、林良平「遺産共有と遺産分割」『現代家族法の課題と展望』(有斐閣、一九八二年)二五五頁等参照。
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(3)起草者が相続財産の共同所有の期間は短期間であろうと考えたことについて、高木前掲注(2)『口述相続法』三四八頁参照。
(4)高木前掲注(2)『口述相続法』三四八頁以下。
(5)相続人の管理義務について規定するものとして、相続の承認・放棄前に関する九一八条、限定承認後についての九二六条、相続放棄後の九四〇条、財産分離が行われる場合の九四四条等参照。これらの規定の詳細については、伊藤昌司「相続財産の保存又は管理」『講座・実務家事審判法3 相続関係』(日本評論社、一九八九年)六七頁、千藤洋三「共同相続財産の管理」『講座現代家族法第5巻 遺産分割』(日本評論社、一九九二年)二九頁参照。高木前掲注(2)『口述相続法』三一八頁は、相続財産の管理について現行法にこのような規定の不備が見られる原因として、単独相続である家督相続を原則形態とした明治民法の承継を上げる。なお、遺産分割の申立てがなされると、家庭裁判所が遺産分割までの仮の処分として管理人を選任することも可能である(家事審判規則一〇六条)。
(6)於保不二雄「共同相続における遺産の管理」『家族法大系Z』(有斐閣、一九六〇年)一〇四頁、千藤洋三「共同相続人間の遺産管理と管理費用」判例タイムズ六八八号(一九八九年)二九三頁。また、遺産分割前の個々の相続財産の管理に関する現行法の不備を指摘しつつ、共同相続人らによる自主的な管理が困難に陥った場合の救済策として、家庭裁判所に共同相続財産の管理への介入の可能性を与えるという法改正への提案も従来よりなされており、そこでは、具体的措置として、利害関係人又は検察官の請求に基づく家庭裁判所による相続財産の管理人の選任、財産目録の作成、相続人による管理の制限等が上げられている。於保・同一〇四頁、猪瀬慎一郎「共同相続財産の管理」『現代家族法大系5』(有斐閣、一九七九年)二〇頁。
(7)中川善之助・泉久雄『相続法』(有斐閣、一九八八年)二二三頁、鈴木禄弥『相続法講義』(創文社、一九八六年)一七七頁、品川前掲注(2)『遺産分割の研究』三一頁、千藤前掲注(7)判例タイムズ六八八号二九三頁、有地亨「遺産の管理」『新民法演習5(親族・相続)』(有斐閣、一九六八年)二一八頁。
(8)民法九〇六条は、遺産分割の基準として、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮すべきことを定める。
(9)於保前掲注(6)『家族法大系Z』九六頁以下、千藤前掲注(6)判例タイムズ六八八号二九三頁、高木前掲注(2)『口述相続法』三三六頁以下。
(10)野田愛子「共同相続財産の管理」民法の争点T(一九八五年)二四八頁。
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(11)特に被相続人の有する不動産に居住する生存配偶者の居住の保護は、昭和五五年の民法改正における重要課題の一つであった。遺産分割の実務においても、居住用不動産の利用の維持のための手段が探られている。野田愛子『遺産分割の実証的研究』司法研究報告書第一一輯第五号(一九六二年)一二八頁、梶村太市「遺産分割調停」判例タイムズ九三二号(一九九七年)一七一頁。たとえば、雨宮則夫、小林崇、松原正明、岩木宰「遺産分割に関する最近の争点(1)」自由と正義五〇巻二号(一九九九年)七一頁は、「場合によっては、一個の所有権を分解して、一方の相続人に土地の利用権を取得させ、他方の相続人に残りの制限された所有権を取得させることも可能である」として所有権と使用権を分離する方法を提示する。
(12)野山宏「時の判例」ジュリスト一一一一号(一九九七年)一九八頁。
(13)最高裁平成八年一二月一七日判決民集五〇巻一〇号(一九九六年)二七七八頁。本判決の解説として、野山前掲注(12)ジュリスト一一一一号一九七頁、右近健男判例タイムズ九四〇号(一九九七年)九二頁、高木多喜男ジュリスト一一一三号平成九年度重要判例解説(一九九七年)八六頁、中川淳判例評論四六三号(一九九七年)三一頁、高橋朋子法学教室二〇二号(一九九七年)一一八頁、升田純NBL六三三号(一九九八年)六五頁、岡本詔治私法判例リマークス一六号(一九九八年)八四頁。
(14)高木多喜男前掲注(13)ジュリスト一一一三号八七頁、升田純前掲注(13)NBL六三三号六八頁以下。
(15)松倉耕作『注釈ドイツ相続法』(太田武男・佐藤義彦編、三省堂、一九八九年)一一三頁。
(16)佐藤義彦前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』二八頁、三一頁。
(17)佐藤前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』三一頁。
(18)ドイツでは、被相続人が死因処分を通じて相続人を指定することにより、法定相続人以外の者を相続人とすることができる(BGB一九三七条)。
(19)今西康人前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』三五四頁。
(20)今西前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』三五四頁。
(21)なお、フランス法に基づく考察からのわが国への示唆として、山田誠一「共有者間の法律関係(一)(二)(三)(四・完)―共有法再構成の試み―」法学協会雑誌一〇一巻一二号(一九八四年)一頁、一〇二巻一号(一九八五年)七四頁、三号(一九八五年)七〇頁、七号(一九八五年)六八頁。
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二 共同相続人による相続不動産の使用 ― 日本法における処理 ― 目次に戻る
共同相続人の一部の者による相続不動産の占有・使用の問題に関しては、当該共同相続人が被相続人と使用貸借等の契約法上の権原に基づいてその不動産を使用するのか、あるいは、遺産共有における自己の持分を根拠に相続不動産を占有するのかを区別して考察する必要がある。そして、前者の場合には、他の相続人による契約の解約と使用貸借関係の終了が問題となり、また後者の場合には、相続人の一人が共有物の持分権者として共有物を単独で占有することの可否や他の持分権者の使用権との調整が問題となる。これらの点について、わが国の判例と学説はどのように対応しているのであろうか。
(一)共同相続人の一部と被相続人の間に使用貸借関係があった場合
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共同相続人のうちの一部の者が相続家屋を独占的に使用していた場合に関する先例としては、まず最高裁昭和二九年三月一二日判決
(22)が注目される。これは、共同相続人の一人が被相続人の死亡前から被相続人の所有する家屋に居住し使用借主の地位にあった場合に、他の共同相続人が使用貸借の解約(23)を求めた事例であった。判決は、この解約申入れを二五二条本文の管理行為にあたるとし、使用貸借契約の解約により当該家屋の明渡し請求を認めるかどうかは、共同相続人らの当該家屋についての持分の過半数をもって決定すべきであるとしたが、それが過半数に達しなかったことを理由に、明渡し請求は認めなかった(24)。その後、最高裁昭和三九年二月二五日判決(25)が、相続土地を使用していた第三者との関係について、その使用が使用貸借契約と賃貸借契約のいずれに基づくのかに触れることなく、解除権の不可分性に関する五四四条一項は共有物に関する契約の解除には適用されず、この場合には管理[9頁]行為として二五二条本文の適用を受けると判示している。
学説は、共同相続財産の使用に関する契約関係を、共同相続人らが解約する場合の意思決定方法について、概ね判例の立場を支持する
(26)。もしも、共同相続人の一部の者を相手方として解約を行なう場合に全員一致による決定方法をとり、共同相続人らの意思形成に際しては解約の相手方たる地位に立つ相続人の同意も必要とすると、場合によっては僅少な相続分しか持たない相続人の反対で当該契約を解約できない事態が生じ、不公平な結果を招くおそれがあるという点等がその理由である(27)。もっとも、相続不動産に居住している共同相続人自身が決議に加われるのかについては、学説の見解は分かれる(28)。
(22)民集八巻三号(一九五四年)六九六頁。本判決の評釈として、大場茂行『最高裁判所判例解説民事篇昭和二九年度』(法曹会、一九六六年)四九頁、川井健法学協会雑誌七四巻一号(一九五七年)七六頁、谷口知平民商法雑誌三一巻二号(一九五五年)七七頁等。
(23)判決文には「解除」と記されているが、これを「解約申入れ」に読みかえることにつき、山田誠一「共有不動産の占有に関する法律関係―森林法一八六条違憲最高裁判決を機縁にして―」判例タイムズ六四一号(一九八七年)三七頁。
(24)なお、相続財産の管理に際して、二五二条にいう「持分」が法定ないし指定相続分を指すのか、具体的相続分を指すのかについて、前者と解するのは、宮井忠夫=佐藤義彦『新版注釈民法(27)』(有斐閣、一九八九年)一五五頁(高木前掲注(2)『口述相続法』一七八頁以下もこれに与するものと考えられる)、後者と解するのは、有地前掲注(7)『新民法演習5(親族・相続)』二二一頁。
(25)民集一八巻二号(一九六四年)三二九頁。
(26)川井前掲注(22)法学協会雑誌七四巻一号七九頁、谷口前掲注(22)民商法雑誌三一巻二号八二頁、猪瀬前掲注(6)『現代家族法大系5』一一頁。
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(27)谷口前掲注(22)民商法雑誌三一巻二号八二頁。
(28)たとえば、反対利益を有する相続人の参加を肯定される川井教授は、その理由として民法の共有に関する規定にはそれを制約する定めはないこと、実質的にみても共有者の意思を無視してその共有権が制限や変更を受けることは妥当ではないこと、特に相続財産の共有においては相続人の意思は無視されるべきではなく、不都合があれば遺産分割によって解決が可能であること等を上げられる。川井前掲注(22)法学協会雑誌七四巻一号七九頁以下。その他、これに与するものとして、猪瀬前掲注(6) 『現代家族法大系5』一一頁。他方、当該相続人の参加に消極的な立場をとるのは、谷口前掲注(22)民商法雑誌三一巻二号八一頁。
(二)共同相続人が相続分に基づいて相続不動産を占有する場合 目次に戻る
この場合についてまずあげるべきは、最高裁の昭和四一年五月一九日判決である。この判決は、共同相続人の一人の行っていた相続土地家屋の単独使用に対する他の共同相続人らからの明渡し請求について、他の共同相続人の共有持分の合計が過半数を超えるとしても、現に使用している相続人に当然に明渡しを請求できるわけではないと述べた上で、特に明渡しを必要とする理由を主張し立証しなければならないとした
(29)。この事件では、土地建物を占有している共同相続人に対して被相続人が生前すでに当該不動産の明渡しを求める訴えを提起しており、両者の間にそれまで存在していた使用貸借関係について被相続人により黙示の解約の意思表示がなされていたことが、原審で認定されていた。したがって、ここでは、当該相続不動産を占有していない共同相続人らは、被相続人の提起した明渡し訴訟における訴訟当事者の地位を承継して訴訟を継続したものであり、先述の使用貸借の解約に関する最高裁昭和二九年判決の場合とは異なり、自己の相続分のみに基づいて共同相続財産を占有している場合について[11頁]の判決であると解されている(30)。すなわち、昭和四一年判決により、不動産についての少数持分権者である相続人も、自己の持分によって当該共有物を使用収益する権限を有し、これに基づいて共有物全部を占有する権利があることが認められた上で、多数持分権者が当該不動産の明渡しを求めるためには、特段の理由の主張立証が要求されたことになる。
さらに、最高裁は、その後、この法理は相続開始後共同相続人の一部の者が第三者に相続建物の使用をなさしめている事案についても妥当することも認めた
(31)。したがって、共同相続人の一部の者が、他の相続人を排して相続不動産を占有使用する場合について、最高裁は、相続開始前から当該不動産を使用してきた相続人の居住の保護という相続に固有の問題としてではなく、共有財産の占有使用一般の問題としてこのような占有を保護する立場を示したものといえる。そして、このような最高裁の態度は、一部の共有者の意思に基づく共有物の占有使用を、民法二五二条本文ではなく二四九条の範疇で扱おうという態度の現れとも評されているのである(32)。
ところで、遺産共有においては、共同相続人の一部が相続開始前から当該不動産に居住しているなど、遺産分割によってその不動産の帰属が最終的に決せられるまでは、その相続人に対する明渡し請求を認めないとすることの必要性が特に認められる場合もあろう。しかし、上述のような、通常の物権法上の共有も含めた共同所有関係に関する法理の観点からの処理は、共有不動産の占有に関する現状維持を認めるにとどまる。そこで、法的には、共同相続財産の排他的使用という現状はいかなる手段によって変更可能となるのか、当該共有物について先に占有を開始した共有者のためにその物の使用を害されている共有者は、自己の持分に基づいて共同使用を請求することができるのか、あるいは、自ら共有物を使用することを望む代わりに不当利得の返還請求や不法行為責任を問うことよって、占有している共有者に対して金銭的な補償を請求できるのかという問題が残る
(33)。
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これについて、昭和四一年の最高裁判決によると、すでに共同相続人の一部の者によって開始された共有物の単独使用という現状を変更するには、二五二条本文の管理行為として持分の過半数をもってする処理方法は十分でないということになるが、この点に関して、物権法上の共有に関する一般的議論においては、共有物の占有使用方法について、二五二条本文に従い共有者らの持分の過半数による多数決で決定できるのか(34)、あるいは二五一条に基づいて全員の同意が必要なのか(35)について見解は分かれている(36)。しかし、前者の立場においても、共有者の一部がすでに当該不動産を占有使用している場合には、二五二条本文の多数決によってこの者に明渡し請求することに対して消極的な態度がうかがわれる(37)。すなわち、一部の共有者による共有物の独占的使用という問題の処理において、共有原因の発生前からすでに当該不動産を使用してきた共有者が存在する場合には、持分の過半数による多数決によってその占有を奪うことは妥当ではなく、最終的に分割等によって当該不動産の処理が決定されるまで、この共有者の使用利益を保護すべきであるというのが大勢のように見える。そして、特に相続財産に関して、従来からの占有関係を変更するには、共同相続人全員一致の決定が必要であると考えられているのである(38)。たとえば、高木教授は、一般に、被相続人の財産は共同相続の開始によって共同相続人らによる共同管理の下に置かれ(39)、そこでは、原則として物権法の共有の規定に従い民法二五二条本文によって持分の過半数による決定方法が行われるべきものであるとされつつ、同時に、事情によっては全員一致の決定が要求される場合があることも認められ、相続開始前から相続財産の一部をすでに相続人が使用している場合は、まさにこの後者にあたるとされる(40)。
しかしながら、従来からの使用の継続は原則として保護されるべきもので、他の相続人は持分の多寡によってこの者の占有を奪うことはできないとしても
(41)、他の共同相続人の持分権を無視しておいてよいのかについては疑問が残る。そこで、一般に物権法の共有においては、共有物の利用に関して共有者間に取り決めのない場合に、一持[13頁]分権者が共有物の全部を単独で使用するときは、他の共有者は自己の持分を害された範囲において不当利得返還請求ないし不法行為による損害賠償請求ができるとする見解がある(42)。また、理論的には、他の共有者は自己の持分に基づいてその範囲で共有物の使用を求めることができるから(43)、相続財産についても各自の持分に基づいて共同使用を請求することは可能であるともされている(44)。しかし、二四九条によれば持分に応じた共有物の使用収益は共有物全体に及ぶから、具体的な使用方法については共有者らの協議によって取り決める他なく、この協議が成立しない場合には、結局、共有物の分割という方法による他ないということもしばしば指摘されるところである(45)。
そして、このような見解は、そもそも共同相続人間の遺産分割前の相続財産の使用に関する紛争は、物権法の共有の管理によってではなく原則として遺産分割の問題として処理すべきもので、共同相続人の協議が調わないときには民法九〇六条にしたがって家庭裁判所が決定すべき事柄であり、それ以前に共同相続人の持分の過半数をもって従来の使用収益方法を変更することは許されないとする考え方にもつながる
(46)。そして、下級審の裁判例の中にもこのような見解を示すものが見られるのである(47)。さらに、他方では、個々の相続財産に対して各相続人が実際に取得しうべき持分すなわち具体的相続分は、遺産分割に際して初めて確定されるのであり、各自の特別受益の額によっては相続人であっても個々の相続財産物に対しては無権利者となる場合もあるから、遺産分割以前の段階で持分による多数決ということ自体が考えにくいという指摘もある(48)。
また、相続開始前から相続人の一部の者が使用していた相続不動産についての占有状態の現状を維持するという考え方は、共同相続人が被相続人との使用貸借等の契約関係によって相続不動産を従前より使用していた場合に、相続開始後共同相続人らの決定により当該契約が解約されたときの処理にも反映するはずである。すなわち、前述のように、共同相続不動産に関する使用貸借契約の解約は二五二条本文に従い共同相続人らの持分の過半数を持っ
[14頁]て決定されるが、この決議に基づいて使用貸借関係が消滅した場合であっても、当該不動産に居住する相続人の占有はその相続分によっても根拠づけられるから、最高裁昭和四一年判決の考え方に従えば、他の相続人らはこの相続人に対して相続不動産の明渡しを請求することはできないことになるからである(49)。このように展観すると、共同相続人による相続不動産占有の当初の法的根拠が契約関係であれ相続分という共有持分権であれ、相続開始当時の相続不動産の管理使用状態は、原則として遺産分割まで変更することができず、共同相続人全員の合意がある場合を除いて、そのまま維持すべきであるという判例・学説の基本的な姿勢が浮かび上がってくる。
しかしながら、占有している相続人が相続分という持分権を根拠に不動産全部の使用を許され、他の共有者である共同相続人は明渡し請求をすることはできないという構成によって、使用の継続を認めることはできても、その使用についての不当利得返還請求権ないし不法行為による損害賠償請求権はいかに処理すべきなのだろうか。下級審の裁判例には、相続不動産の使用収益権を奪われた共同相続人の使用の利益は、独占的に使用している相続人の不法行為または不当利得を理由とする金銭給付によって償われると示唆するものもある
(50)。しかし、これを積極に解すると、特に被相続人との明示又は黙示の契約関係なしにその家屋に相続開始前より無償で居住してきた相続人にとっては酷な状態をもたらすことが、従来より裁判実務の立場から指摘されてきた(51)。そこで、このような相続人を救済するための措置として、相続人の無償使用の継続を根拠づけるための論拠が学説において模索され、その方法として浮かび上がって来たのが、相続不動産を占有する相続人に相続開始を始期とし遺産分割終了を終期とする黙示の使用貸借に基づく権原を認めるという法的構成である。そして、最高裁平成八年一二月一七日判決は、この方法をとることを確認した。
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(29)民集二〇巻五号(一九六六年)九四七頁。本判決の評釈として、奈良次郎『最高裁判所判例解説民事篇昭和四一年度』(一九六七年)二四四頁、星野英一法学協会雑誌八四巻五号(一九六七年)八九頁、金山正信判例評論九六号(一九六六年)八九頁、谷田貝三郎民商法雑誌五六巻一号(一九六七年)一〇七頁、泉久雄『相続法論集』(信山社、一九九一年)五〇五頁等。
(30)金山前掲注(29)判例評論九六号九〇頁、山田前掲注(23)判例タイムズ六四一号四〇頁。ただし、この点につき、本件では被相続人による解約があったことの認定はその死亡による相続の開始後に裁判で認められたものであるから、相続開始の時点では共同相続人の一人によって使用貸借されていた相続不動産に関する争いと考える可能性に触れるものもある。星野前掲注(29)法学協会雑誌八四巻五号九五頁。
(31)最高裁昭和六三年五月二〇日判決判例タイムズ六六八号(一九八八年)一二八頁。同判決の解説として、原田純孝判例タイムズ六八二号(一九八九年)五九頁等。なお、多数持分権者である共同相続人から相続不動産の持分を買い受けた第三者に対して、少数持分権者たる相続人が行った明渡し請求を認めなかったものとして、最高裁昭和五七年六月一七日判決判例時報一〇五四号(一九八二年)八五頁。
(32)原田前掲注(31)判例タイムズ六八二号六一頁。
(33)原田前掲注(31)判例タイムズ六八二号五九頁。
(34)柚木馨=高木多喜男『判例物権法総論〔補訂版〕』(有斐閣、一九七二年)五二四頁、星野前掲注(29)法学協会雑誌八四巻五号九六頁、我妻栄=有泉亨『新訂 物権法(民法講義U)』(岩波書店、一九八三年)三二二頁、鈴木禄弥『物権法講義 四訂版』(創文社、一九九四年)三〇頁。
(35)奈良前掲注(29)『最高裁判所判例解説』二五二頁。
(36)なお、末弘博士は、二四九条の使用収益行為と二五二条本文による管理としての利用行為を区別され、前者は各共有者自身の個人的需要のみを目的とするものであり、後者はこのような個人的需要の満足ではなく共有物を全体として如何に有利に使用すべきかの問題であると述べられている。そして、この利用行為に該当する場合として、共有の家屋を他人に賃貸すべきかどうか、又は共有者が自らこの家屋に居住することとすべきかどうか等の例を上げられて、これらは利用行為であるから、多数決をもって決しなければならないと解される。そして、このような利用行為も共有者全員に影響を及ぼす不分割的作用であるから本来全共有者の一致をもって行うべきものであるが、これは処分行為の場合ほど重大な事柄ではなく共有物の維持・改[16頁]善を目的とするもので、結局全共有者の利益に帰する性質を有するために、民法が特に持分による多数決の制度を置いたものであると説明されている。末弘厳太郎『物権法(上)』(有斐閣、一九三五年)四二一頁以下。ただし、我妻=有泉前掲注(34)『新訂 物権法(民法講義U)』三二三頁は、不動産賃借権の価値の重さに鑑みて、土地・建物の賃貸を一律に管理行為と解することに疑念を示す。
(37)たとえば、鈴木前掲注(34)『物権法講義』三一頁では、不動産利用権保護の精神から見て、以前より共有不動産を使用している共有者の占有を持分による多数決をもって排除することは妥当ではないとして、このような多数決は正当な理由に基づくものでない限り権利濫用として無効になるとする。
(38)柚木=高木前掲注(34)『判例物権法総論〔補訂版〕』五二四頁以下、星野前掲注(29)法学協会雑誌八四巻五号九六頁。これに対して、共同相続財産を相続人の一人が占有使用している場合にも、二五二条本文の管理行為として持分の多数決によって処理すべきとされる見解として、谷田貝前掲注(29)民商法雑誌五六巻一号一一二頁以下、金山前掲注(29)判例評論九六号九一頁、岡部喜代子「相続人の一人が共同相続財産を占有する場合の法律関係について」東洋法学四一巻二号(一九九八年)二五九頁参照。ただし、金山・同九二頁は、信義則を根拠として遺産分割まで明渡し請求を制限する可能性も述べる。
(39)高木前掲注(2)『口述相続法』三三〇頁。同三三八頁は、この点についての法律構成として、共有者間の占有状態の変更が民法二五一条の「変更」にあたるとする。
(40)高木前掲注(2)『口述相続法』三三七頁、三四一頁以下。なお、同三三一頁では、他に共同相続人全員一致による決定を必要とする場面として、たとえば、相続財産の管理人の選任を上げる。
(41)高木前掲注(2)『口述相続法』三四二頁。
(42)奈良前掲注(29)『最高裁判所判例解説』二五一頁は、「共有物の使用・収益についての協議が成立するかないしは分割についての最終的な結論が出るまでの間は、一部の共有者が共有物を単独で占有をしていることに対する『他の共有者』の救済は、不当利得または不法行為を理由とする金銭賠償によって満足」されるとする。その他、末弘前掲注(36)『物権法(上)』四二一頁、不当利得について、柚木=高木前掲注(34)『判例物権法総論〔補訂版〕』五二四頁、川井健『注釈民法(7)』(有斐閣、一九六八年)三一九頁、原田前掲注(31)判例タイムズ六八二号六四頁以下参照。
(43)柚木=高木前掲注(34)『判例物権法総論〔補訂版〕』五二四頁、我妻=有泉前掲注(34)『新訂 物権法(民法講義U)』[17頁]三二五頁、川井前掲注(36)『注釈民法(7)』三一九頁。
(44)奈良前掲注(29)『最高裁判所判例解説』二五〇頁、金山前掲注(29)判例評論九六号九一頁、有地前掲注(31)『新民法演習5(親族・相続)』二二〇頁。ただし、そこでは、このような方法が実際問題として共有者間の共有物の使用をめぐる紛争解決にとって妥当なものかについて、疑念も示されている。同旨、原田前掲注(31)判例タイムズ六八二号六三頁。
(45)末弘前掲注(36)『物権法(上)』四二二頁、奈良前掲注(29)『最高裁判所判例解説』二五一頁。
(46)星野前掲注(29)法学協会雑誌八四巻五号九四頁以下、中川善之助=泉久雄『相続法〔第三版〕』(有斐閣、一九八八年)二二八頁、品川孝次「共同相続人間の遺産の管理をめぐる紛争」『家族法の理論と実務』別冊判例タイムズbW 一九八〇年)三三八頁、副田隆重「共同相続財産の管理」『演習民法(相続)』(青林書院、一九八五年)九七頁、宮井=佐藤前掲注(24)『新版注釈民法(27)』一五七頁、右近健男「民法八九八条・八九九条(遺産共有)」『民法典の百年W』(有斐閣、一九九八年)二四四頁。
(47)甲府地裁都留支判昭和四二年一二月二六日判例タイムズ二一九号(一九六八年)一六七頁は、共有物の処置が遺産分割等により最終的に決定されるまで、従来より相続不動産を使用占有してきた相続人の居住の利益を保護すべきことを述べる。
(48)有地前掲注(7)『新民法演習5(親族・相続)』二二〇頁以下。
(49)猪瀬前掲注(6)『現代家族法大系5』一一頁は、結局共同相続人らの多数決による解除を行うことの実益は、遺産分割の際の当該不動産の評価において使用賃借権の価格を控除する必要がなくなる点にあるとする。また、山田前掲注(23)判例タイムズ六四一号四六頁以下は、共有関係開始前に共有者の一人について設定された使用貸借ないし賃貸借関係の終了は、持分の過半数による決定で行えるとしつつ、この解約によって法律上の権原を失った共有者は、自己の持分を根拠として、当該共有物の明渡しに応じる必要はないとする。
(50)東京高判昭和五八年一月三一日判例時報一〇七一号(一九八三年)六二頁は、一般的な共有の理論に従って、不当利得・不法行為双方を理由とする金銭賠償請求の可能性に言及する。ただし、不法行為は当然には成立しないとするものとして、東京高判昭和四五年三月三〇日判例時報五九五号(一九七〇年)五八頁。猪瀬前掲注(6)『現代家族法大系5』一〇頁以下参照。
(51)たとえば、野山前掲注(12)ジュリスト一一一一号一九八頁は、同居の相続人は、相続開始前は被相続人の占有補助者として被相続人所有家屋に無償で居住する資格を有するため、被相続人との間で使用貸借等の契約証書を作成していないのが通常であるが、相続開始とともにこの無償使用の根拠となる被相続人の占有補助者としての資格を失うことになると指摘する。
[18頁]
(三)最高裁平成八年判決の意義と学説の展開 目次に戻る
(1)最高裁判決の概要
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平成八年一二月一七日最高裁第三小法廷判決
(52)は、相続開始前より被相続人と同居して家業を中心的に担っていた相続人らが、被相続人の死亡により相続が開始した後も相続財産となった土地家屋に継続して居住し、その全部を占有・使用していたという事案に係わる。被相続人の遺言とその後になされた共同相続人間の相続分の譲渡によって、同居相続人らが当該不動産に対して有する持分は、過半数に満たないものとなっていたが、この不動産の分割協議が調わなかったため、他の相続人から、民法二五八条二項に基づく本件不動産の競売とその売得金の分割請求、及び独占的占有・使用について不法行為に基づく損害賠償を請求原因とした賃料相当額の損害金の支払いを求める訴えが提起されたものである。
第一審判決は、共有者はその持分に応じて共有物を使用する権利を有することを確認した上で、損害金の支払い請求について、無償の使用の合意がなされているときは別として、そうでない場合には、共有者の一部の者による共有物の独占的な占有・使用は不当利得にあたると判断し、当該不動産の賃料相当額を損害金算定の基礎とした
(53)。そして、原審もこの一審判決を維持した。
しかし、最高裁は、共同相続人の一人が、相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である不動産において被相続人と同居してきたときは、「建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえる」という理由
[19頁]づけによって、特段の事情のない限り、被相続人と同居相続人の間には、相続が開始した後も遺産分割により当該不動産の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き無償で使用させる旨の合意があったものと推認されると判示した。そして、この使用関係を、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり同居の相続人を借主とする、相続開始時を始期とし遺産分割時を終期とした使用貸借契約関係と構成したのである。
(2)最高裁判決を受けた学説の展開
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最高裁平成八年判決は、原則として遺産分割まで、共同相続人は占有を続けている相続人に対して当該不動産の明渡しを請求できず、またその占有は無償のものであることについて法的根拠を与えたものである。野山最高裁判所調査官は、平成八年判決の理論構成には擬制的要素が強いが、当事者の意思にも沿うものであり、他の相続紛争にも応用可能であると評価されている
(54)(55)。遺産分割まで従前からの居住者たる相続人の使用の継続を原則として認めたことは、当該相続不動産の占有関係は最終的に遺産分割の中で決着をつけるべきものという視点があらためて示されたとも言えよう。
もっとも、使用借主たる相続人が不動産の利用方法等に関し通常の用法に反する使用をなした場合のように使用賃貸契約の解除原因が生じたときには
(56)、二五二条本文に従って持分の過半数による共同相続人の決議により当該使用貸借契約を解約し、この相続人に対して目的物の明渡しを請求できるのかという問題は依然として残る(57)。同時に、使用貸借契約の解約原因となった占有相続人による当該不動産の具体的使用形態が、相続不動産の原状を変えるものであって、持分に応じた共同使用の妨害を越えて他の共同相続人らの共同所有権の侵害にあたる場合には、相続人は各自、物権的請求権を行使して共有物全体に対する妨害の排除を請求できるとも考えられる(58)。また、他[20頁]の相続人の意向に反した相続不動産の占有・使用内容の変更がある場合には、他の共同相続人は、占有訴権に基づいてこの占有・使用を差し止めることができるとする見解もある(59)。さらに、事情によっては他の共同相続人は、共有物の侵害に対して不法行為に基づく損害賠償請求ができると考えられる(60)。
一方、最高裁平成八年判決が、使用貸借関係を擬制することにより不当利得の請求を斥けたことについては、疑問を呈する見解もある。たとえば、高木教授は、同居相続人に居住の保護を与えるのは当然としても、これと建物の利用利益自体をこの相続人に独占させることとは別問題であると述べられる
(61)。そして、被相続人が自己の死後の法律関係を生前に定めうるのは現行法のもとでは遺言か死因贈与のみであり、使用貸借権の設定を「贈与」とは解さないわが国の通説の立場からすれば、始期及び終期付きの使用貸借権の設定を被相続人に擬制することは困難であるとして、現行法の枠内での解決を提示されている。具体的には、被相続人の所有していた土地や家屋の使用利益を、相続財産から生ずる果実に準ずるものととらえ、これを遺産分割手続内で共同相続人間に配分するというものである(62)。遺産分割の際に果実の分割も同時に行われるのかについて、学説や裁判例は必ずしも一致していないが(63)、高木教授は、共同相続人間の公平実現の見地から、果実も相続財産に帰属し遺産分割の対象となるという立場をとられている(64)。なお、下級審の裁判例には、被相続人の家屋に従来同居してきた相続人は、相続開始後も当該家屋の無償使用に対する特別な利益を有しているという理由づけにより、遺産分割に際して、同居相続人の居住利益を遺産の評価額から控除するとしたものがあるが(65)、他方、相続人が、居住してきた相続家屋について支払った修繕費や火災保険料・固定資産税等の必要費ないし有益費を、遺産分割の際に管理費用として考慮すべき旨の主張をなしたのに対して、それまでの居住を有償のものと考えて、これらの管理費と相殺すべきことを判示したものも存在する(66)。
[21頁]
以上のように、共同相続人の一部の者が相続不動産を占有し使用している場合、遺産分割まで少なくともこの者の占有を維持させようというのが現在の趨勢であり(67)、最高裁は平成八年判決でこの占有を無償のものと性格づけ、それに法的根拠を与えるために、期限付き使用貸借関係の擬制という構成を提示した。学説は、相続不動産の使用収益に関する相続人らの合意形成の場を遺産分割手続きの中に求めようとし、さらに、使用利益を遺産分割の際に一括して処理し、これを相続人間に分配するとの提案も見られる(68)。わが国では、相続不動産に関する使用収益関係の調整と解決の多くが、遺産分割における処理に期待されている。
(52)前掲注(13)参照。
(53)原告らは本件不動産の分割請求もしていたが、第一審は、共有物分割請求に関して先例(最判昭和六二年九月四日判例時報一二五一号(一九八七年)一〇一頁)を踏襲し、相続により相続人の共有となった財産の分割は、共同相続人間に協議が調わないときには家庭裁判所の審判によるべきであり、通常裁判所が判決手続でこれを判定すべきものではないとして、請求を却下している。民集五〇巻一〇号二八一一頁。
(54)野山前掲注(12)ジュリスト一一一一号一九八頁。ただし、その場合、合理的な終期・合理的な使用収益の目的の設定には細心の注意を要することも指摘されている。
(55)ただし、升田前掲NBL注(13)六三三号六八頁以下には、最高裁平成八年判決に関して、「本件で問題になった建物は、店舗兼自宅であるが、主として営業用・事業用に使用される建物の場合や、土地の場合には、利得の額、占有する相続人の保護の必要性等の事情を考慮すると、本判決を適用すべき根拠を欠くものというべきである」という指摘がある。他方、高木教授は、相続前から被相続人の営業に共に従事してきた共同相続人が使用している事業用の相続財産については、居住用不動産と同じく遺産分割までこの相続人の占有の継続が尊重され、占有状態の変更には共同相続人全員の合意が必要であるとされている。高木前掲注(2)『口述相続法』三三九頁以下。
[22頁]
(56)高橋前掲注(13)法学教室二〇二号一一九頁は、使用貸借契約の解約事由について、当事者間の信頼関係を破壊するような債務不履行の存在を例示している。なお、判例には、父母所有の土地を使用貸借していた長男が、その土地上に建てた建物で営む会社の収益によって父母を扶養し、余力があれば経済的自活能力のない他の兄弟にも恩恵を与えることも期待されていたにもかかわらず、特別の理由もないまま父母の扶養をやめ、兄弟との往来も絶ったという事案について、使用貸借関係の基礎となる信頼関係は地を払うに至ったとして五九七条二項但書を類推適用し使用貸借の解約を認めたものがある(最高裁昭和四二年一一月二四日判決民集二一巻九号(一九六七年)二四六〇頁)。もっとも、継続的契約では信頼関係が破壊されれば直ちに解約できるので、このような事案では五九七条二項但書の類推適用も必要ではないとの指摘もある。平井宜雄・最高裁昭和四二年判決判例解説法学協会雑誌八六巻三号(一九六九年)一二八頁、北川善太郎『債権各論 民法講要W』(有斐閣、一九九三年)五三頁。その他、使用貸借契約の終了原因については、岡部前掲注(38)東洋法学四一巻二号二三四頁以下参照。
(57)右近前掲注(13)判例タイムズ九四〇号九四頁注2。
(58)この点を、共有物一般に関する持分権の侵害について述べるものとして、舟橋諄一『物権法』(有斐閣、一九六〇年)三八一頁、柚木=高木前掲注(34)『判例物権法総論〔補訂版〕』五二〇頁、我妻=有泉前掲注(34)『新訂物権法(民法講義U)』三二五頁。ただし、判例では、東京高判昭和五八年一月三一日(前掲注(50))は、共同相続人の一人がその持分の限度を越えて違法に使用している部分は、相続土地の独占的使用収益行為のうちの観念的な一部であり、具体的に特定識別することはできないという理由で、他の相続人からの妨害排除請求を認めていない。しかし、最高裁平成一〇年三月二四日判決(判例時報一六四一号(一九九八年)八〇頁)は、相続人の一人が相続農地に無断で宅地造成工事を行い非農地化したという事案について、共有者の一部の者が、他の共有者の同意を得ずに共有物を物理的に損傷したり改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合、他の共有者は、共有持分権に基づく妨害排除請求が権利濫用に当たらない限り、この変更行為の全部の禁止を求めることだけでなく、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、行為により生じた結果を除去して共有物を現状に復させることを求めることもできると判示するに至っている。
(59)伊藤前掲注(5)『講座・実務家事審判法3』七六頁。
(60)柚木=高木前掲注(34)『判例物権法総論〔補訂版〕』五二一頁。
(61)高木前掲注(13)ジュリスト一一一三号八七頁。
[23頁]
(62)高木多喜男『遺産分割の法理』(有斐閣、一九九二年)二三頁以下。同旨中川=泉前掲注(46)『相続法』三二一頁、岡本前掲(13)私法判例リマークス一六号八六頁。なお、高木教授は、同居相続人が家業の中心として当該不動産を使用してきたことの評価は、協議や家庭裁判所を通じた寄与分の認定によって解決すべきであると述べられており、占有継続の問題が居住の保護のみにとどまる場合と、生業のために必要な不動産である場合とを区別して論ずることの必要性にも言及されている。同『口述相続法』三六八頁以下。農業等の家業のための相続財産から共同相続人の取得した収益を、遺産分割においてどのように分配すべきかの詳細な検討については、同『遺産分割の法理』五八頁以下参照。
(63)日野原昌「遺産の管理費・収益」『遺産分割の研究』(判例タイムズ社、一九七三年)一九九頁、清水節「遺産分割の対象財産性7 遺産から生じた果実」『講座・実務家事審判法3 相続関係』(日本評論社、一九八九年)一九一頁、高木前掲注(62)『遺産分割の法理』二四頁以下参照。
(64)高木前掲注(62)『遺産分割の法理』四六頁以下。
(65)東京家審昭和四〇年四月二〇日家裁月報一七巻九号(一九六五年)九〇頁、大阪高決昭和四六年九月二日家裁月報二四巻一〇号(一九七二年)九〇頁、東京家審昭和四七年一一月一八日家裁月報二五巻一〇号(一九七三年)八〇頁、大阪高決昭和五四年八月一一日家裁月報三一巻一一号(一九七九年)九四頁等。
(66)仙台家裁古川支審昭和三八年五月一日家裁月報一五巻八号(一九六三年)一〇六頁、岡山家審昭和三九年一二月二八日家裁月報一七巻二号(一九六五年)六〇頁、大阪高決昭和四三年八月二八日家裁月報二〇巻一二号(一九六八年)七八頁、青森家裁弘前支審昭和四六年一月一一日家裁月報二四巻二号(一九七二年)一二〇頁。この他、裁判例で被相続人と同居してきた相続人の居住の利益の算定を試みるものは、東京家審昭和四〇年四月二〇日(前掲注(65))、松山家審昭和四二年三月六日家裁月報二〇巻四号(一九六八年)四一頁、東京家審昭和四七年一一月一八日(前掲注(65))、鳥取家審昭和五一年一一月二二日家裁月報三〇巻六号(一九七八年)一〇六頁、大阪高決昭和五四年八月一一日(前掲注(65))。裁判例の詳細は、高木前掲注(62)『遺産分割の法理』三七頁以下、右近健男「相続財産管理の一側面―一相続人による相続財産の無償利用をめぐる判例を中心として―」金融法務事情一三一一号(一九九二年)一〇頁以下参照。なお、高木同五〇頁は、「結果的には、果実から管理費を差引いて、差額を遺産に属せしめるとする処置も妥当である。ただ、賃料とか不動産の使用利益は、管理費を上廻るのが通常であるから、全額で相殺するというのは、共同相続人間の平等からみて望ましくない。全額で相殺するというのは両方を[24頁]調査認定するのが煩雑であるというのが理由であろうと思われるが、出来うる限り、双方の額を正確に認定し、差引き計算を行うべきであり、双方の額が不明の場合に限って許される処置であると思う」と述べ、相続家屋の使用を有償としている裁判例が相殺的処理をしているのは、利用利益の算定が容易ではない実態を示すとする。同四〇頁。他に、管理費と家屋の使用収益を原則として相殺するとするものとして、日野原前掲注(63)『遺産分割の研究』二一六頁。
(67)学説のこのような傾向に異議を述べるものとして、岡部前掲注(38)東洋法学四一巻二号二五五頁。
(68)前掲注(62)参照。なお、被相続人の死亡後に、同居相続人に相続家屋についての使用借権を与えることを特別受益にあたると解するものとして、右近前掲注(66)金融法務事情一三一一号一二頁、岡部前掲注(38)東洋法学四一巻二号二三九頁。他方、都築民枝「建物の無償使用収益と特別受益、寄与分」判例時報一六〇五号(一九九七年)四頁は、相続家屋の無償の使用と特別受益の成立について、相続人の一部の者についての居住利益は、遺産総額に対し、生計の資本として相続分の前渡しと考えられるような利益でなければ特別受益には当たらないという見解を示す。
三 ドイツ民法典における遺産分割前の相続財産の管理
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BGBは、相続人の法的地位に関する項目の最後として二〇三二条以下に共同相続についての諸規定を置く。共同相続における各相続人の相続分については、相続財産に関する一般規定が適用されるが
(69)、共同相続人相互の関係は二〇三二条から二〇五七条aまでが(70)、また、対遺産債権者関係は二〇五八条から二〇六三条までが規律する(71)。複数の相続人が形成する共同相続関係は、相続開始とともに法律によって当然に発生し、最終的な遺産分割が行われることにより終了する(72)という点では、わが国の共同相続関係と同様である。しかしながら、BGBが共同相続関係を合有的なものととらえているのに対して、わが国においては、共同相続について「遺産共有」という独自の概念が近年提唱されつつも、従来、判例では、物権法の共有原理に依拠して共同相続財産に関する紛争の解決が図ら[25頁]れてきた。その結果、遺産分割がなされるまでの遺産債権者(73)に対する共同相続人の責任のあり方や、相続財産の管理・処分等について、彼我で差異が生じうると予想される。そこで、ドイツ法における共同相続関係の法的性質に関わるBGBの規定を概観した後、それが相続財産の管理にどのような形で反映されているのかについてまず考察する。
(一)共同相続関係の法的性質と相続人相互の関係 ― 合有
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BGB二〇三二条一項は、複数の相続人がいるときは、相続財産は相続人の共同財産(Gemeinschaftliches Verm
ögen)となると規定する。ここにいう共同財産関係が合有関係であることについては、ドイツで一般的な了解が確立している(74)。この合有関係は、相続人らの自由な合意によって発生させうるものではなく(75)、法定相続(76)によると被相続人の死因処分(77)によるとを問わず、数人の者が相続に加わる場合に、遺産分割までの間法律上当然に発生する法定共同関係である(78)。それゆえ、遺産分割後に相続人らが共同相続関係を復活させることはできないし(79)、共同相続関係が継続しているときにその内部において、共同相続人の一部から構成されたより狭い範囲での共同相続関係というものを形成することもできない(80)。
ところで、BGBが規定する共同相続関係の合有的性質は、ゲルマン的な共同相続法を受け継いだプロイセン一般ラント法に由来すると言われている
(81)。ゲルマンの社会では、この合有的関係は、信頼に基づいた家族の法的な絆という相続関係の原初的意味に沿ったものであり、被相続人の子供たちは生存配偶者とともに分割されない相続財産を占有し、家の共同関係の中にとどまっているという状況を念頭においたものであった(82)。やがて中世の初め頃になるとゲルマン法でも遺産分割が認められるようになり、相続人は遺産分割後に相続財産につき処分可能な権[26頁]利を初めて取得することとなったのである(83)。しかし、債務は相続財産の構成部分とみなされ、共同相続人は遺産分割前にまずこの債務を清算すべき義務を負っていた。そして、ゲルマンの相続法に見られる共同相続人らのこのような法的共同関係は、プロイセンにおける共同相続関係形成に影響を与えた。すなわち、プロイセン一般ラント法第一部第一七章一一五条以下では、共同相続関係について原則として共有の規定を準用するとしつつ、共同相続に関する特別規定によって修正がなされている。たとえば、遺産債務は相続財産の構成部分と考えられ、相続人らは連帯債務者として債権者に対する責任を負った(同一二七条)(84)。また、共同相続人は相続債権を共同でのみ請求することができるとされた(同一五一条)。そして、相続財産に対する共同相続人の権利についても、各相続人は遺産分割前には個々の相続財産(Nachlaßgegenstand)についての処分可能な持分というものを有せず、相続財産全体(Nachlaß)が共同相続人の共同所有のもとにあるという解釈がなされるに至っていた(85)。そして、この相続財産全体に対する持分についてのみ、相続人は単独で処分することができたが、それは他の相続人らの先買権の対象となったのである(同六一条)。一八九六年のBGB制定に際しては、第一草案の起草者であるバイエルン出身のシュミットが、ゲルマン的な共同相続法ではなく、個人主義的な「持分による共同関係(Bruchteilsgemeinschaft)」(86)というローマ法の原理を継受した普通法に拠る相続法規定を作成した(87)。共同相続人間の法律関係が簡明であること、各共同相続人が、遺産分割前にも個々の相続財産についての持分の処分が可能であることによって自己の権利を容易に実現できること等がその理由であった(88)。しかし、第二草案の段階で、これはプロイセン一般ラント法を範とした合有原則に置き換えられ、いわゆる合有的共同関係としての相続人間の関係がやはり規定されたのである(89)。
このようにして成立したBGBにおける共同相続人の合有関係の特徴は、相続人が個々の相続財産について自己の持分を処分することを認めず、相続財産全体についての持分のみ処分が可能であるという点である。すなわち、
[27頁]二〇三三条は、一項で「共同相続人は各自、相続財産(Nachlaß)に対する自己の持分を処分することができる」とする一方で、二項では「共同相続人は、個々の相続財産(Nachlaßgegenstand)についての持分を処分することはできない」と明定する。したがって、相続人らの合有に属する個々の相続財産は、共同相続人全員共同でのみ有効に処分しうることとなる(90)。
したがって、BGBでは、相続財産は一種の共同の特別財産(Sonderverm
ögen)ともいうべきものを形成し、相続人らの固有財産とは区別されている(91)。もちろん、相続財産やあるいは共同相続関係自体が、たとえば法人のように独立の権利主体となるわけではなく(92)、また、相続人は原則として無限責任を負うので、遺産債務に対しては相続財産とともに相続人の固有財産も引当とされる(93)。しかしながら、被相続人の有していた債権や個々の相続財産の所有権等の財産権はすべて合有的に共同相続人に帰属するという意味において、相続財産の一体性が維持されているということができる(94)。このことは、たとえば相続財産の中に土地があるとき、共同相続関係の登記によって土地登記簿を書き換える際には、相続人らの共同相続関係が登記簿中に示されるように登記されなければならないという土地登記法(GBO)四七条の規定にも現れている。さらに、土地登記簿の書換えにあたっては、共同相続人全員で申立てをするか、または、相続人のうちの一部の者が申請を行う場合には他の相続人の同意を得る必要があると解され(95)、個々の相続人の持分の登記をすることはできないとされている(96)。また、被相続人の有していた占有も、占有に関する規定である八五七条に従って共同相続人全員に共同占有として移転する(97)。したがって、BGBの相続法は、相続財産という特別な一体的財産を対象として、相続人によるその取得、管理、処分、責任等について扱う法律であると説明されるのも理解できる(98)。
さらに、BGBが相続財産に対する共同相続人の権利をこのように合有関係としてとらえることによって、個々
[28頁]の相続財産について共同相続人以外の者が持分権者として関与することを回避することが可能となる。同時に、合有関係の維持は、遺産債権者に対する債務や、個々の共同相続人が他の相続人に対して有する相続財産の管理費用の償還請求権等共同相続関係から生じる債務が弁済されるまで、全相続財産が一体的に維持されることにも資する(99)。すなわち、BGBの立法者は、共同相続関係についてこのような合有的構造をとることによって、持分による共同関係をとった場合に起こりうる遺産債権者を危険にさらす事態を防ぐことができるとも考え(100)、また、共同相続人自身についても、個々の相続財産についての持分の自由な処分が制限される代わりに、相続財産の維持・管理などのために自己が支出した費用の償還請求権について相続財産が担保となるという利益もあるとしたのである(101)。さらに、BGBでは遺産債権者に対する共同相続人らの責任も合有的にとらえているため、各相続人は遺産債務につき原則として連帯債務者として責任を負うとされ(二〇五八条)、各相続人は、その相続分に応じた割合の限度ではなく連帯債務に関する四二一条により遺産債務の全額について責任を負うことになる(102)。したがって、BGBの共同相続関係における合有的構成は、遺産債権者への弁済の確保を目的として遺産分割までの相続人の一体性を念頭に相続財産の維持を考える側面も強い。
しかしながら、このような共同相続人相互の強い拘束は、たとえば、個々の相続財産の処分には全相続人の同意を得る必要があり(二〇三三条二項、二〇四〇条一項)、また、共同相続人の一人が共同相続関係から生じた請求権を有する場合には、原則としてこの請求権の弁済を受けるまで遺産分割をなしえない
(103)というように、相続人の一部の者が非協力的な主張をすることによって共同相続関係の円滑さを阻害する事態を招きうる。そこでBGBは、共同相続関係を合有的な制度として規定する一方で、共同相続人の共同相続関係への拘束を緩和するための手段を設けている。すなわち、全相続財産についての持分の譲渡(二〇三三条一項)や各共同相続人による随時の遺産分割[29頁]請求(二〇四二条一項)の認容である。共同相続人に共同相続関係からの離脱を可能にするこれらの権利は、同じく合有関係を発生させる組合や約定夫婦財産制の一つである財産共同制には見られない共同相続の特徴である。そのため学説には、共同相続関係は、組合や夫婦財産共同制と異なり、合有関係の継続ではなく分割が指向された関係であると表現するものもある(104)。また、合有制をとることによる相続人らの過度の拘束という弊害は、たとえば、相続財産の共同管理や遺産分割に関して債務法上の「共同」についての規定の一部を準用することによって(105)、一層緩和されている。そして、その限りにおいてBGBは、ゲルマン法的要素を強く持ちつつローマ法の伝統にも接近しているという指摘もある(106)。
(69)BGB一九二二条二項。MünchKomm/Dütz, Münchener Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch, Band 9, Erbrecht, 3. Aufl.1997 (以下 MünchKomm/Dütz), S.593f.; Staudinger/Werner, J. von Staudingers Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen, Erbrecht§§1967-2086, 13 Aufl.1996 (以下 Staudinger/Werner), S.489.
(70)二〇三二条二項は「遺産分割までは、二〇三三条から二〇四一条までの諸規定を適用する」と定める。二〇四二条以下は遺産分割の規定である。
(71)これらの条文の概要は、前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』三五〇頁以下参照。以下、条文は、特に断らない限りBGBのものである。
(72)Staudinger/Werner, S.489; Kipp/Coing, Erbrecht, 14 Aufl.1990(以下 Kipp/Coing), S.610.
(73)日本民法では一般に相続債権者という用語が使用され、遺産債権者という語との異同は特に意識されていないようであるが、ドイツにおいては、BGB一九六七条一項が「相続人は遺産債務(Nachlaßverbindlichkeit)について責任を負う」と規定し、この遺産債務には、被相続人に帰属していた相続債務のみならず、相続人が、相続人として負担すべき遺留分権・遺贈・負担[30頁]に基づく債務など、被相続人の死亡による相続の開始とともに発生する債務や、相続財産の管理等に基づいて生じた債務も含まれるとされている(一九六七条二項参照)。すなわち、ドイツでは、一般に、被相続人による遺贈は物権的効果をもたらすものではなく、受遺者に遺産分割の際に目的物の移転を請求できる債権的な請求権を与えるにとどまものとされており(二一四七条)、また遺留分請求権もわが国と異なり相続開始とともに発生する相続人に対する債権的請求権(二三一七条)として構成されているため、これらは相続とともに発生する債務という性質を有するのである。また、一九四〇条は相続における「負担(Auflage)」という制度を置き、被相続人が遺言によって相続人もしくは受遺者に対して一定の給付義務を負わせることができるとしているため、この場合には相続の開始によって相続人らが負担の履行義務を負うことになる。このような事情に鑑みて、上記一九六七条ではこれらの債務を含めて広く遺産債務と定義しているのである。本稿でドイツの制度について述べる場合に用いる「遺産債務」という語はこのような広い意味であり、それに対応する概念は「遺産債権者(Nachlaßgläubiger)」である。ただし、農場や家産地(Heimstätte)についての単独相続法や特別法が、個々の相続人への権利の特定承継を認める場合がある。農場に関する単独相続法については、辻博明前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』二二頁以下参照。
(74)RGZ 57, 434; Staudinger/Werner,S.489; MünchKomm/Dütz, S.594.
(75)Staudinger/Werner, S.489.
(76)被相続人の直系卑属や配偶者など法定相続人となる者については、一九二四条以下の規定参照。
(77)一九三七条は、被相続人は遺言等の一方的死因処分によって相続人を指定することができると定め、一九四一条は、被相続人が相続契約によって相続人を指定することができるとする。相続契約は、相続人としての資格付与を目的として契約の形式をもって行われる死因処分であり、それによって、さらに何かをなす債務を負担するものではない。この契約により被相続人が拘束されるに至る点で、撤回の自由を旨とする遺言とは異なる特徴を有している。相続契約によって相続人と指定される者は、契約の相手方でもあるいは第三者でもかまわない。Staudinger/Otte, J. von Staudingers Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen, Erbrecht, Einleitung; §1922-1966, 13 Aufl.1994(以下 Staudinger/Otte), S.381ff.
(78)共同相続関係の構成員になることができるのは、相続に実際に参与する法定相続人ないし指定相続人のみである。したがって、相続人の廃除(一九三八条)、相続の放棄(一九五三条一項)、相続欠格(二三四四条)、被相続人とその血族ないし配偶者[31頁]との契約による相続の放棄(二三四六条一項)等に基づいて相続人から除外された者はこれにあたらない。
(79)OLG Köln OLGZ 1965, 117.これは、遺産の一部分割によって共同相続人の一人もしくは第三者に譲り渡された土地を、元の共同相続人らとの合意によって共同相続財産に戻すことはできないと判示する。
(80)BGH WM 1975, 1110.ただし、共同相続人の一人が相続分の払い戻しを受けてこの関係から抜ける限りにおいて、残りの共同相続人らのもとで共同相続関係が存続するということは可能である。Das Bürgerliche Gesetzbuch mit besonderer Berücksichtigung der Rechtsprechung des Reichsgerichts und des Bundesgerichtshofes, Band V, 1.Teil, 12 Aufl. 1974(以下 BGB-RGRK/Kregel), S.317; Staudinger/Werner, S.489.
(81)Hoffmann,Jura 1995, 125; Staudinger/Werner, S.489f.; MünchKomm/Dütz, S.594.
(82)ドイツ民法に見られる、ゲルマン法及びローマ法の共同相続理論の影響については、有地前掲注(2)民商法雑誌五〇巻六号三頁以下。
(83)Hoffmann, Jura 1995,125.
(84)ただし、他方、相続人らが遺産債権者に遺産分割をその実行前に知らせた場合には、分割後各相続人は各自の相続分の割合でのみ責任を負担すればよいとされていた(同一三七条以下)。
(85)Hoffmann, Jura 1995, 126. なお、相続財産について述べる際に、相続財産全体(Nachlaß)とそれに属する個々のもの(Nachlaßgegenstand)とを区別して扱う必要性があると考えられるが、本稿では状況に応じて対応する。
(86)これは、わが国の民法における共有及び準共有に相当する。
(87)Motive zu dem Entwurfe eines Bürgerlichen Gesetzbuches für das Deutsche Reich, Band V 1888(以下Motive V), S.527f. 第一草案は、複数の者の共同関係について「持分による共同関係」を原則的形態とし、法律の定めなくして他の形の共同関係を創設することはできないとしていた。そして、この「持分による共同関係」の主たるものが共同相続関係であるととらえられていたのである。Motive, Band II. 1888(以下 Motive II), S.873. また、シュミットによる第一草案の起草に大きな影響を与えたと言われるモムゼンの相続法草案(Entwurf eines Deutschen Reichsgesetzes über das Erbrecht nebst Motiven, 1876(das Preisausschreiben der Juristischen Gesellschaft zu Berlin))でも、ローマ法の原理に従い、共同相続関係は持分による共同関係として位置づけられていた。Ingrid Andres, Der Erbrechtsentwurf von Friedrich Mommsen-Ein Beitrag zur [32頁]Entstehung des BGB-Frankfurt(Main),Univ., Diss.1995, S.430ff.
(88)Motive V S.528f.; Hoffmann, Jura 1995, 126; a.a.O.Andres, S.432.
(89)Protokolle der Kommission für die zweite Lesung des Entwurfs des Bürgerlichen Gesetzbuchs, Band V 1899(以下 Protokolle V), S.835f. そこでは、持分による共同関係という構成では、相続財産の経済的一体性が阻害され、遺産債権者のための責任の基礎が損なわれるおそれがあること、実際には個々の相続財産についての持分よりも相続財産全体に対する持分の処分の方が換金価値が高く、後者を認めることが相続人にとってより実益があること等が論じられた。Planck's Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch nebst Einführungsgesetz Erbrecht, 1930, S.302.
(90)二〇四〇条一項は、「相続人らは、相続財産の目的物(Nachlaßgegenstand)を共同でのみ処分することができる」と規定する。個々の相続財産についての持分の処分が認められないことにより、たとえば、共同相続人の固有債務の債権者による個々の相続財産についての当該相続人の持分への差押えも認められないことになる。これは、ドイツ民事訴訟法(ZPO)八五九条一項が、BGB七〇五条に従った組合関係における組合員の組合財産に対する持分は差押えに服するとしつつ、組合財産に属する個々の目的物についての持分は差押えできないとし、同二項が、この規定は相続財産と相続財産に属する個々の目的物に対する持分についても適用されるとしていることを反映している。ただし、ドイツでは、相続財産を構成する個々の財産について共同相続人各自がそもそも持分というものを有するのかどうかをめぐって学説に争いがあり、二〇三三条二項及び二〇四〇条に違反した共同相続人の一部の者による処分の効力いかんにとどまらず、共同相続関係の合有の本質に関するより広い問題として議論されている。そして、多数説は個々の目的物に対する各共同相続人の持分という概念を否定し、相続財産が全体として全共同相続人に合有的に帰属すると考える。Leipold,Erbrecht, 10.Aufl.1993, S.245; Staudinger/Werner, S.505ff.
(91)Lange/Kuchinke, Lehrbuch des Erbrechts 1995(以下Lange/Kuchinke), S.1049.
(92)Staudinger/Werner, S.504.
(93)遺産債務に対する相続人の無限責任の原則については、松倉前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』一七〇頁以下参照。
(94)Staudinger/Werner, S.505.
(95)Bürgerliches Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen, Band 9, Erbrecht 1992 (以下Soergel/Wolf), S.542; Staudinger/Werner, S.509.
[33頁]
(96)Staudinger/Werner, S.509 .
(97)von Lübtow, Erbrecht, 2.Halbband, 1971(以下 v.Lübtow II), S.800; Staudinger/Werner, S.493. ただし、八五七条は「占有は相続人らに移転する」とのみ規定する。
(98)Lange/Kuchinke, S.11.
(99)Staudinger/Werner, S.493f.
(100) たとえば、共同相続関係を共有(Gemeinschaft)に関する一般原則に服するものとしたローマ法とこれを継受したドイツ普通法では、分割できる債権・債務は法律上当然に分割されたものとみなされたため、これらの債権・債務は共同相続財産に属すものではないとされていた。Hoffmann, Jura 1995, 126.
(101)Protokolle V, S.835f.
(102)遺産債務についての連帯債務性については、山口純夫前掲注(15)『注釈ドイツ民法』四三二頁以下参照。
(103)二〇四六条一項は、遺産分割の前に、まず遺産債務が相続財産から弁済されなければならないと規定する。共同相続人が相続財産に対して債権を有する場合も、一般の遺産債権者と同様に扱われる。ただし、相続人が先に弁済を要求することが信義則(二四二条)違反となる場合には、遺産分割を待って清算されるべきこととなる。MünchKomm/Dütz, S.723; Staudinger/Werner, S.624.
(104)Staudinger/Werner, S.493f.
(105)たとえば、以下で眺める相続財産の管理についての二〇三八条二項及び遺産分割についての二〇四二条二項。
(106)Hoffmann, Jura 1995,126. 有地前掲注(2)民商法雑誌五〇巻六号一六頁以下。
(二)共同管理の原則 ― 全員一致による意思決定
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BGBには、遺産分割に至るまでの相続財産の管理について、相続の承認・放棄前に相続人の行なう管理に関することや
(107)、一定の事由が存在する場合に、遺産保護人(Nachlaßpfleger)(108)、遺産管理人(Nachlaßverwalter)(109)、[34頁]遺産破産管財人(Nachlaßkonkursverwalter)(110)遺言執行者(Testamentsvollstrecker)(111)等が選任されて相続財産の管理にあたること等が規定されている。しかし、共同相続に際して相続人が相続を承認した結果、相続財産の管理についてそのような特別な措置がとられない通常の共同相続の場合については、相続人による管理において、相続財産の合有関係が対内的・対外的にどのように機能するのかについて、二〇三八条以下の規定が指針を与える。
まず、二〇三八条は、「(一)相続財産の管理は、相続人らに共同的に帰属する。各共同相続人は、遺産の通常の管理にとって必要な措置について他の相続人に協力する義務を負う。各共同相続人は、他の相続人の協力がなくても保存に必要な措置をとることができる。(二)七四三条、七四五条、七四六条、七四八条の規定を準用する。果実の分割は、遺産分割のときに初めて行う。遺産分割が一年以上行われない場合には、各共同相続人は、年末ごとに純益の分割を請求することができる。」と規定する。共同相続財産が共同相続人に合有的に帰属すること(二〇三二条一項)に対応するものであり、その管理も共同相続人らが全員一致によって共同で行うことが原則となる。一方、二〇四〇条一項が、相続財産に属する個々の目的物を処分しようとするときは、やはり全相続人の共同によってのみ処分可能であるとも規定する。そこで、学説は、二〇三八条にいう管理がどの範囲の行為までを含むのかを問題とする。すなわち、共同相続関係に関する規定では、たとえば組合(七〇九条、七一四条)や商法の合資会社・合名会社の合有の場合のように、内部関係における業務遂行と外部へ向けられた代表行為とを必ずしも明確に区別していないため、ここにいう管理には共同相続人らの内部的な意思形成や事務の遂行のみならず、対外的行為も含まれるのかについて、上述の二〇四〇条との相互的な位置づけとも絡んで見解が分かれるのである
(112)。この点について、多数説は、二〇三八条の用いる「管理」という語は多義的であり、相続財産の管理は処分行為などを自ずと伴うものであるから、同条は外部へ向けての行為も対象とすると考える(113)。そして、二〇四〇条は、相続財産を構成[35頁]する個々の目的物の処分がなされる場合についての二〇三八条の特別規定であると説明するのである(114)(115)。このような問題が論じられる一因は、後述のように、BGBは相続財産の管理行為について全員一致による共同の原則を必ずしも貫徹しておらず、場合によっては管理方法の決定を多数決に委ねる一方で、処分行為に関して二〇四〇条が全員一致の原則を堅持しているためであろう(116)。
ところで、二〇三八条の共同管理の原則に違反してなされた行為は無効となり、それを行った相続人は、一七九条の無権代理人の責任や契約締結上の過失によって、個人的に責任を負うことになる
(117)。ただし、二〇三八条一項一文で共同の管理(Gemeinschaftliche Verwaltung)という場合、すべての相続人が共同で行為することを必要とするわけではない。すなわち、管理に関する意思形成に際してはすべての相続人の合意が必要であるが、それに基づく管理の実行については全員の協力によってなされる必要はないと解されているのである(118)。したがって、たとえば相続人の一人の行う管理行為に対して他の相続人らが個々に事前の同意を与えた場合はもちろんのこと、追認をした場合にも、無権利者の処分も権利者の同意がある場合には有効になるとの一般原則(BGB一八五条一項の法意)に鑑みて、共同管理の要件を満たすことになる(119)。また、二〇三八条は、相続財産の管理に関する共同相続人らの意思決定が、全員一致によるべきことを原則とするにとどまるので(120)、共同相続人らが一致して相続人の一人もしくは第三者に相続財産についての単独管理権を与えるという方法をとることも可能であり(121)、たとえば、被相続人の有していた賃貸家屋の管理や商行為の継続等を相続人の一人が引き継いで行うことを他の相続人らが容認する場合には、管理についての授権の推定が働くとされるのである(122)。
(107)一九五九条一項は、相続放棄前の相続人は、相続財産の管理につき事務管理者と同じ権利・義務を有すると規定する。
[36頁]
(108)一九六〇条は、相続開始後相続の承認があるまで又は相続人が承認したかどうかもしくは相続人自体が明らかでないとき、遺産裁判所が遺産の保全をなすべきことを定め、そのために遺産保護人を選任することができるとしている。
(109)一九七五条以下に「遺産管理」という制度を置き、相続人又は遺産債権者の申立てに基づいて遺産裁判所が遺産管理の命令を出すことにより、相続人の遺産債権者に対する責任を相続財産に制限し、また相続人の財産から相続財産を分離することを認めている。そこでは、相続人に代わって、遺産裁判所によって選任された遺産管理人が相続財産の管理を行うことになる。この制度の詳細については、前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』二〇四頁以下参照。
(110)相続財産が遺産債権者への債務の弁済にとって十分でない場合には、「遺産破産」が開始するが、BGBは「遺産破産」について、一九七五条以下に「遺産管理」とともに規定している。
(111)遺言の執行につき、二二〇五条一文は、遺言執行者は遺産を管理しなければならないと規定するため、被相続人が遺言執行者を指定した場合には、同条に従いこの者が遺産の管理をなすことになる。
(112)Lange/Kuchinke, S.1047; Staudinger/Werner, S.551.
(113)BGH FamRZ 1965,267(本判決は、事情によっては相続土地の譲渡も二〇三八条の意味における遺産の管理にあたるとする); BGHZ56, 47; Lange/Kuchinke,S.1047; Staudinger/Werner, S.550f.; Soergel/Wolf, S.566; MünchKomm/Dütz, S.651f.; Brox Erbrecht, 15. Aufl. 1994(以下Brox), S,301f. たとえばStaudinger/Werner, S.551では、二〇三八条にいう管理には共同相続人らの内部関係としての意思の形成とともに対外的な関係も含まれ、事務の遂行のみならず代表行為も二〇三八条にいう「管理」に含まれるとし、管理を正しく遂行するためには、相続財産の保存に必要な物の取得や傷みやすい物の処分など、第三者との債務負担行為(Verpflichtungsgeschäft)や処分行為(Verfügungsgeschäft)も必要であるからと述べる。これに反対するのは、Erman/Schlüter, Handkommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz, Verbraucherkreditgesetz, Gesetz zur Regelung der Miethöhe, Produkthaftungsgesetz, Haustürwiderrufsgesetz, AGB-Gesetz, Erbbaurechtsverordnung, Wohnungseigentumsgesetz, Schiffsrechtegesetz, Ehegesetz, Hausratsverordnung, Beurkundungsgesetz (teilkommentiert) 2.Band, 9.Aufl. 1993(以下 Erman/Schlüter), S.1748; Jülicher AcP 175, 147 であり、二〇三八条一項一文は、内部関係にのみ適用されるとする。また、Kipp/Coing, S.612f. は、管理権と処分権を峻別すべきことを述べる。
(114)ヴェルナーは、個々の物の処分に相続人全員の同意を要求することは、そのような個々の物の処分というものは相続財産へ[37頁]の重大な干渉になり相続財産の価値を減少させるおそれに結びつくという理由から、正当化されると説明する。ただし、ドイツでは法律行為について債務負担行為と処分行為を区別し、ここにいう処分行為とは、存在している権利を直接に放棄・譲渡・負担設定・変更する行為であると説明される。したがって、共同相続人と第三者との間になされる行為であっても、相続財産に属する個々の物の処分を行う債務を負うことは二〇四〇条に該当せず、それゆえ全員一致の原則に拘束されることなく後述の多数決原理に従いうる可能性が存在する。ただし、そのような債務の履行については、二〇四〇条に従い共同相続人全員の合意が必要となる。なお、BGB二〇四一条に従い、全相続人の合意により相続財産に属する物が処分された場合、その対価は相続財産に帰属することになるので、これによって相続財産の価値の維持が図られている。Staudinger/Werner, S.576ff.
(115)BGB二〇四〇条の特別規定性をめぐる学説の対立については、本稿三(三)(2)でも再論する。
(116)Staudinger/Werner, S.578.
(117)BGHZ 56, 51f., Staudinger/Werner, S.557.
(118)MünchKomm/Dütz, S.655; Palandt/Edenhofer, Palandt Bürgerliches Gesetzbuch mit Einführungsgesetz(Auszug), Gesetz zur Regelung des Rechts der Allgemeinen Geschäftsbedingungen, Verbraucherkreditgesetz, Gesetz über den Widerruf von Haustürgeschäften und ähnlichen Geschäften, Gesetz zur Regelung der Miethöhe(Art. 3 des 2. WKSchG), Produkthaftungsgesetz, Erbbaurechtsverordnung, Wohnungseigentumsgesetz, Ehegesetz, Hausratsverordnung, 56.Aufl. 1997(以下Palandt/Edenhofer), S.1916; Staudinger/Werner, S.553.
(119)Staudinger/Werner, S.553.
(120)BGB-RGRK/Kregel, S.338; Staudinger/Werner, S.550.
(121)BGH WM 1968, 1173; BGHZ 56, 51.
(122)BGHZ 30, 391; KG NJW 1961, 733.
[38頁]
(三)共同管理原則の修正 目次に戻る
二〇三八条にいう「管理」は、相続財産の保存、維持、増加ならびに収益の獲得のために必要であるか、又はそのために適している事実上もしくは法律上の措置であると解されている
(123)。そして、二〇三八条一項二文後段が、各共同相続人は他の相続人の協力なしに相続財産の保存に必要な措置をとることができると規定しているので、全員一致による共同管理の原則は必ずしも貫徹されているわけではない。さらに、同条二項一文が、持分による共同関係に関する七四三条、七四五条、七四六条、七四八条を準用していることにより、相続財産の管理における合有的要素は重大な修正を受けている。すなわち、事情によっては、共同相続人らはその相続分に従った多数決によって、相続財産の性質に合致しかつ目的物の本質的な変更に至らない相続財産の管理や使用を決定することも可能となるのである(七四五条一項、三項)。このようにして、BGBでは、管理についての共同という拘束を貫徹することから生じる相続財産管理における機動性の悪さについて調整が試みられている(124)。
さらに七四三条の準用により、相続人らの相続分に従った持分を根拠とする相続財産の使用権も、債務法中の持分による共同関係の規定に服する。そのため、たとえば相続不動産を共同相続人の一人がその持分に基づいて使用する場合に、他の相続人らの当該不動産に対する使用の利益との関係をどのように調整するのか、共同相続人らによる管理方法の決定と彼らの一人による使用の継続とはどちらが優先されるのかといった問題は、これら債務法の規定に従って規律されることになる
(125)。BGBの制定過程において、前述のように、第一草案は、共同相続関係を「持分による共同関係」(共有)と構成し、共同相続人による相続財産の管理についても、原則として債務法の「共同(Gemeinschaft)」に関する規定が適用されるという形式をとっていた(126)。その後、第二草案の審議過程で、共[39頁]同相続財産を合有とする変更がなされたにもかかわらず、共同相続人間の規律については第一草案の立場が受け継がれ、「共同」に関する規定の準用が維持されたのである(127)。
そこで、次に、二〇三八条では、共同相続人の全員一致による管理の原則とその修正がどのような基準によってもたらされるのかについて考察した上で、相続財産の利用関係について、二〇三八条に従った相続人らによる管理共同の原則と七四三条等の持分による共同関係に関する規定がどのように交錯しているのかを検証し、ドイツでも相続財産の中で大きな価値を占めると考えられる不動産の使用に対するBGBの立場を明らかにしたい。
(1)単独で行なう相続財産の保存に必要な措置
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二〇三八条一項二文後段は、相続財産の保存のために必要な措置について規定する
(128)。そして、この措置は、各相続人が単独で行うことができるのみならず、必要があれば行う義務をも負っていると解されている(129)。したがって、相続財産保存のために必要不可欠であれば、他の相続人の同意を要せずに、相続関係の内部においてもまた外部へ向けてもその措置をとりうることになる(130)。
しかし、保存の意味を幅広く解すると、単独措置を認める二〇三八条一項二文後段の規定は、相続財産の管理に関して個々の共同相続人による独裁の危険を内在することになる。そこで、通説は、保存のために必要な措置は狭く解釈されるべきであるとする
(131)。すなわち、相続財産全体又は個々の目的物の維持に必要不可欠な管理措置、換言すれば、その措置がなければ相続財産全部又は個々の遺産価値が損害を被るというようなものでなければならないとし、他の共同相続人の同意を得る余裕を与えないような緊急性を必要とすると説くものもある(132)(133)。
[40頁]
(2)相続財産の「通常の管理」 ― 多数決原理と協力義務 ― 目次に戻る
二〇三八条二項が準用する七四五条は、「(一)共同の目的物の性質に応じた通常の管理及び利用の決定は、多数決によってなすことができる。多数決は、持分の割合に従って計算する。(二)各持分権者は、その管理及び利用方法が合意又は多数決によって定められていない場合には、公平な基準に従いすべての持分権者の利益に配慮した管理及び利用を請求することができる。(三)目的物の本質的な変更を決議し又は請求することはできない。各持分権者の持分に応じた収益分に関する権利を、その同意なしに侵害することはできない。」と規定する。したがって、同条一項及び二項により、相続財産の通常の管理と利用については、それが相続財産の目的物の性質に応じたものである限り、多数決によって決定することが可能となり、これにより、相続財産の通常の管理に反対し又は抵抗している少数持分権者である共同相続人の意思に反してもその措置を実行し、それによって相続財産の経済的価値を維持し増加するという方法も取りうることになる
(134)。ただし、目的物の本質的な変更に至る場合は、通常の管理の範疇に入るとはいえず、同条三項一文に従い相続人の全員一致でのみ決定できる。したがって、全員の同意による共同管理の原則は、通常でない管理措置をとる場合にのみ働くものであり(135)、この点において、共同相続財産の合有的性格に由来する相続人らの拘束性は大きく緩和されている。
ここに相続財産の通常の管理とは、二〇三八条二項が準用している「共同」に関する七四五条の場合と同様に、公平な判断に従った相続財産の性質及び全共同相続人の利益に応じるようなものと解されている
(136)。そして、「経済的に思考する判断者の立場」(137)での管理が、通常の管理にあたるかどうかの判断基準となり、また、当該措置が通常の管理のために必要かどうかについては、その行為が「合理的な理性人(eine verständige Person)」ならば同様の状況において行なったであろうものを指すとも説明されている(138)。
[41頁]
相続財産の管理及び利用に関する多数決は、相続分の大きさによって計算される(七四五条一項二文)。すでに特別受益を得ていることによって相続財産からは何も期待できない共同相続人も、原則として議決権を有している。ただし、多数決への参加が権利の濫用にあたる場合には、議決権の行使は許されない(139)。保存行為におけるのと異なり、多数決による決定に際して、当該措置の緊急性は必要ではないと解されている(140)。また、同意していない相続人に対して聴聞が行われなかったことや情報が与えられていなかったことは、多数決による決定自体を無効とするものではないとされる(141)。しかしながら、たとえば多数決によって決定された管理措置が不適切であることが明らかになった場合には、各共同相続人は他の相続人に対して障害の除去に必要な行為への協力(二〇三八条一項二文前段)を請求することができるとも解されている(142)。
ところで、二〇三八条一項二文前段は、相続財産の「通常の管理」に属する措置については各相続人が相互に協力する義務があると規定している。この規定によって、相続財産の管理における相続人らの共同性が補強される
(143)。すなわち、相続人は相続財産の管理方法の決定に際してその意思を自由に表明することができるが、同条文によって各相続人には通常の管理に必要な諸措置について他の相続人に協力する義務が課されている。そのため、多数決によって相続財産の管理方法が決定されると、それは、保存行為の場合と同様、共同相続人相互の関係ではすべての相続人を拘束するのである(144)。また、相続財産の管理について自己の意見を有する相続人は、その措置が通常の管理に合致する場合、残りの相続人に対して協力義務の履行を訴訟で強制することによって、当該措置を実現することもできる(145)。相続人が協力義務に違反することによって他の相続人に損害を与えた場合には、債務法における債務不履行の規定(二七六条、二七八条)に従って、他の相続人に対して損害賠償義務を負うことになる(146)。
なお、相続人の協力義務は、共同相続関係の内部における通常の管理措置に対する同意だけではなく、対外的な
[42頁]行為についての同意や場合によっては相続人の実際の行為による協力も含むと解されている(147)。したがって、判例には、他の共同相続人らが自ら相続財産についての通常の管理を行える状態にないときにのみ、相続人は第三者による管理を要求することができるとするものがある(148)。
保存行為の単独での実行や多数決による通常の管理方法の決定は、全員一致の共同管理の原則の例外である。そこで、この例外的措置の許容は共同相続内部の関係にとどまるのか、あるいは、たとえば多数決により対外的行為を行なうことを決定し、それをなす相続人に全相続人を代理する権限まで与えるものなのかという、二〇三八条一項一文との関係で行なわれた議論
(149)がここでも再度論じられている(150)。そして、この点について、保存行為に関しては、債務負担行為のみならず処分行為についても個々の相続人に法定代理権を認めるとするのが通説の見解である(151)。また、通常の管理の範囲で債務を負担するという場合について、そのような措置をとることが多数決によって内部的に意思決定されたときは、同時にその債務負担行為を行なうための代理権も根拠づけられたものとする連邦通常裁判所の判決がある(152)。
通常の管理のために相続財産の処分が必要となる場合も、相続人らの内部関係においてはそのような措置をとることを多数決で決定することができる。しかし、それが個々の相続財産の処分にあたるときは、上述の二〇四〇条の特別規定性を理由とした限定の適否をめぐって、個々の目的物の処分であっても共同相続人らの多数決による決定が可能な場合があることを肯定する立場
(153)と、通常の管理の場合にも二〇四〇条の適用のみを認め、多数決の原理を排除する見解(154)が鋭く対立しており、ドイツの学者間での遺産管理に対する異なった姿勢が垣間見える。すなわち、肯定説は、通常の管理に属する処分についてZPO八九四条等の手段により全共同相続人の同意を得なければならないとするのは、二〇三八条二項の趣旨に照らして合目的的ではないと考える(155)。これに対し、否定説は、二〇四[43頁]〇条が相続財産の個々の目的物の処分について明白に相続人全員の共同性を要求しており、二〇三八条においても一項一文の共同管理こそが原則であることを強調する。そして、たとえばヴェルナーは、第三者との対外的関係においては二〇四〇条一項が処分についての特別規定として二〇三八条に優先するので、処分を行うべきことについての多数決が成立したような場合にも、その措置の実行については二〇四〇条一項により全共同相続人による法律行為上の協力が必要となると述べる。さらに、二〇四〇条において全員一致による処分の原則を採用したことから共同相続財産に関する処置について機動性の鈍さが生じることを、立法者も意識的に受け入れたのであり、二〇三八条一項一文と二〇四〇条で共同相続人らの共同性の原則を明示することによって、個々の相続人が多数決によって共同相続関係を支配することを抑制しようとしたとするのである(156)。
ともあれ、BGBは、遺産合有の性格から生じてくる全員一致による管理原則に対して、通常の管理については多数決原理を注入し、相続財産の管理における機能麻痺を避けようという姿勢を示している。それでは、本稿が中心課題とする相続不動産の利用について、BGBの規定はどのように適用され、問題を処理していくのであろうか。
(123)BGH FamRZ 1965,267; Lange/Kuchinke, S.1047; Staudinger/Werner, S.550; Soergel/Wolf, S.566; MünchKomm/Dütz, S.651; Palandt/Edenhofer, S.1916.「管理」に処分行為も含まれるかどうかという議論については前掲注(113)参照。
(124)Staudinger/Werner, S.557.
(125)BGBは、持分による共同関係における持分権者相互の関係を債権的なものとして扱う。詳細は、後述四(二)参照。なお、債務法の「共同」に関する規定の解説として、上谷均『ドイツ契約法』(右近健男編、三省堂、一九九五年)六二七頁以下。
(126)第一草案では、個々に特別規定が置かれていない限り、共同関係については債務法の「共同」に関する規定が適用されると[44頁]していた。Motive II, S.873. また、モムゼンの相続法草案では、共同相続人らによる相続財産の管理について特に規律を示すことなく、むしろ遺産裁判所に、共同相続人間や第三者との利益調整の役割が期待されていた。a.a.O.Andres S.430, 440ff.
(127)Protokolle V, S.842f., 861. 上河内千香子「共有物の使用管理に関する規定の制定過程(二・完)― ドイツ法を中心に ―」広島法学二三巻一号(一九九九年)八六頁以下では、第二草案が共同相続関係について合有的構成をとったことが、逆に債務法の「共同」に関する諸規定のあり方に影響を与えたことについて言及する。
(128)本規定は債務法の共同関係に関する七四四条二項に相当するものである。七四四条は一項で「共同の物の管理は、持分権者が共同で行う。」とし、二項で「各持分権者は、他の持分権者の同意がなくても物の保存に必要な行為を行うことができる;各持分権者は、他の持分権者がその保存行為にあらかじめ同意することを請求することができる」と規定している。
(129)Bertzel,AcP 158, 119 は、共同相続人が単独で相続財産についての保存措置をとる権利を事務管理の特殊な事例と性格づけている。
(130)この相続人が相続財産の保存のために負担した債務は、遺産債務になる。 Bertzel AcP 158,121f; Staudinger/Werner, S.558; MünchKomm/Dütz, S.664; Soergel/Wolf, S.571; BGB-RGRK/Kregel,S.340; Palandt/Edenhofer, S.1917.
(131)BGHZ 6, 76; Bertzel AcP 158, 121f. Lange/Kuchinke, S.1052; Staudinger/Werner, S.559; MünchKomm/Dütz, S.663; Soergel/Wolf, S.571; BGB-RGRK/Kregel, S.341; Palandt/Edenhofer, S.1917; Erman/Schlüter, S.1749.
(132)BGHZ 6, 76は、相続人が単独でなしうる措置かどうかは、理想的で、経済的思考力を有する者の観点から判断すべきであるとする。
(133)共同相続人らによって決定された事項は、すべての共同相続人に対して拘束力を持つため、相続人の一人がそれに反した措置を単独でとりえないのはもちろんである。Wernecke, AcP 193, 245f.; Lange/Kuchinke, S.1052; Staudinger/Werner, S.559; MünchKomm/Dütz, S.663.
(134)BGH DNotZ 1972, 22; Brox, S.303; Staudinger/Werner, S.560; MünchKomm/Dütz, S.656. したがって、相続人中に未成年者や不在者がいたとしても、これらの共同相続人を除いても他の相続人らによって決定可能な過半数が存在する場合には、特に後見人や代理人が行為する必要はなく、後見裁判所にその選任を求めて提訴する必要もない。
(135)したがって、相続財産に属する物の本質的な変更については、他の相続人らに協力義務はないが、学説は、相続財産の合有[45頁]性に鑑みて、本質的な変更かどうかは個々の目的物ではなく相続財産全体との関係で考える必要があるとし、処分目的物の財産価値が全相続財産との関係において取るに足りないものである場合には別異の結論を示唆する裁判例(LG Hannover NJW-RR 1990, 454)もあると説明する。このような見解に従えば、相続財産を構成する個々の物が変更されあるいは譲渡されたとしても、相続財産が全体として本質的に変わっていない限り、これらの措置は通常の管理の範囲内であると解されることになる。Brox, S.302f.; Lange/Kuchinke, S.1049; Staudinger/Werner, S.555; MünchKomm/Dütz, S.657.ただし、Soergel/Wolf, S.568は、このような基準は広範にすぎ不明確であるという理由で、個々の目的物に関する措置が、その物の性質から見て通常の管理といえるか否かによって判断すべきであるとする。
(136)Staudinger/Werner, S.554.
(137)BGHZ 6, 76; BGH FamRZ 1965, 269 等参照。
(138)Staudinger/Werner, S.554.
(139)BGB-RGRK/Kregel, S.341; Staudinger/Werner, S.561; MünchKomm/Dütz, S.658.
(140)Staudinger/Werner, S.560f.
(141)BGHZ 56,47; Staudinger/Werner, S.561; Soergel/Wolf, S.572; MünchKomm/Dütz, S.661. 共同相続関係の合有性を根拠として、相続人相互に情報提供義務が認められるかどうかについて、判例は一般にこれを否定している。BGH FamRZ 1973, 600. しかし、学説は対立しており、信義則に基づき共同相続人間の一般的な情報提供義務を肯定するものもある。MünchKomm/Dütz,S.661; Erman/Schlüter, S.1749; v.Lübtow II, S.809f.; Speckmann, NJW 1973, 1869. aA BGB-RGRK/Kregel, S.343; Palandt/Edenhofer, S1917; Staudinger/Werner, S.556f.
(142)OLG Celle, JR 1963, 221. その例として、指定された管理人の解任等が上げられる。Staudinger/Werner, S.561.
(143)Lange/Kuchinke, S.1049; Staudinger/Werner, S.555; MünchKomm/Dütz, S.660; Soergel/Wolf, S.574f; Palandt/Edenhofer, S.1916f.
(144)OLG Celle JR 1963, 222. 二〇三八条一項二文前段の協力義務は、すでに決定された管理措置の履行に際して必要な同意と協力にも及ぶ。したがって、たとえば通常の管理のために必要な措置がすでに多数決によって決定された場合にも、その実現に必要な範囲で、他の共同相続人もこれに協力する義務を負うことになる。MünchKomm/Dütz, S.659; Staudinger/Werner, S.554, 561.
[46頁]
(145)BGHZ 6, 82ff.; BGH FamRZ 1992, 50; OLG Celle, JR 1963, 221.
(146)Staudinger/Werner, S.557. もっとも、協力義務は共同相続人間に存在するものであるから、第三者が相続人に管理行為への協力を要求することはできない。BGH NJW 1958, 2061; Palandt/Edenhofer, S.1916.また、第三者は、協力がなされないことに起因する損害賠償請求をすることもできない。Staudinger/Werner, S.554.
(147)この場合、訴えの提起は、一定の措置に反対する共同相続人に対して、これに対する同意もしくは事実上の協力を求めてなされることになる。訴えを認める判決が下されると、それが共同相続人の同意に代わる(ZPO八九四条)。また、ZPO八八七条、八八八条に従い、強制執行も可能である。Brox, S.303; Lange/Kuchinke, S.1051.
(148)BGH NJW 1983, 2142; BGHZ 30, 391.
(149)本稿三(二)参照。
(150)OLG Neustadt MDR 1962, 574; v.Lübtow II, S.806; Jülicher AcP 175.152f.
(151)BGHZ 6, 83; Bertzel, AcP158, 121f; Brox,S.308f.; Soergel/Wolf,S.570; Palandt/Edenhofer, S.1917; Erman/Schlüter, S.1754. aA BGB-RGRK/Kregel, S.340; OLG Neustadt MDR 1962, 574.
(152)BGHZ 56, 47. 同旨、OLG Hamm Betrieb 1969, 300; Brox, S.308; Staudinger/Werner, S.562; Soergel/Wolf, S.569.二〇三八条一項二文前段の協力義務等をその根拠とする。これに反対するものとして、Jülicher, AcP 175, 148.
(153)BGHZ 108, 21; Boehmer AcP 144,65f.; Bertzel,NJW 1962,2282; Kipp/Coing, S.614; Soergel/Wolf, S.567; Palandt/Edenhofer, S.1916.
(154)LG Köln MDR 1972, 520; Brox, S.309; Lange/Kuchinke, S.1068; v.Lübtow II, S.806; Staudinger/Werner, S.552; MünchKomm/Dütz, S.662; Erman/Schlüter, S.1753f.
(155)Boehmer AcP 144, 65ff.; Bertzel, NJW 1962, 2282.
(156)Staudinger/Werner, S.552.
[47頁]
四 ドイツ民法典における相続不動産の使用 目次に戻る
(一)賃貸借契約の締結と解約
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相続財産を構成する個々の物のうち、家屋や農場の管理そしてその賃貸借は、二〇三八条にいう管理事項に含まれる
(157)。したがって、共同相続人らが相続人の一人あるいは第三者と相続不動産に関する賃貸借契約を締結する場合、そのような措置が通常の管理方法である限り、相続持分による多数決での処理が可能となる(158)。
しかしながら、このようにして締結された賃貸借契約や、被相続人が相続不動産についてすでに締結していた賃貸借契約を解約する場合に、共同相続人らはそれをやはり多数決で行なえるのかについては見解が対立している。BGBには共同相続人による請求権の行使に関する規定として二〇三九条があるが
(159)、契約の解除権のような形成権は請求権ではないので、同条の適用はない(160)。そこで問題は、解約の告知も二〇三八条の範疇における通常の管理措置になりうるのか、あるいは相続財産に属する個々の物の処分として二〇四〇条によって処理されるのかということになる。二〇四〇条の処分にあたると考える立場によれば、賃貸借契約の解約には常に共同相続人全員の同意が必要となり、これが学説の有力な見解のように見える(161)。一方、連邦通常裁判所判決には、全員共同ではなされなかった農地の賃貸借契約の解約告知について二〇四〇条の適用を否定し、これを二〇三八条の管理と見るものがあり、これに与する見解も存在する(162)。しかし、この判決が、土地そのものに関して処分が存在するかどうかという観点のみから判断を下していたため、裁判所は、解約告知が賃貸借という債権的契約関係全体の処分になるのか、または、賃料収入を得ることのできる権利の処分として理解されるべきかという側面から判断すべきではなか[48頁]ったかという批判がなされている(163)。
なお、賃貸借契約の解約に際して相続人全員の同意がいると解した場合、共同相続人の一人が被相続人とその所有不動産につき賃貸借契約を締結していたとき、この相続人の同意が必要かが問題となるが、一般に、相続人間の利益衝突の場合にはこの者の協力は不要と考えられている
(164)。その根拠は、法人の意思決定に関して、議決が社員の一人と法人の間の法律行為の実行又は法律上の争いの開始もしくは終了に係わるときは、この社員には議決権はないと規定するBGB三四条その他これに類する諸規定(165)から推論される法原則である(166)。
(157)BGHZ 56,50;WM 1969, 298; LG Köln MDR 1959, 214; LG Mannheim MDR 1964, 238; Palandt/Edenhofer, S.1916; MünchKomm/Dütz, S.678.
(158)BGH DNotZ 1972, 22;LG Mannheim MDR 1964, 238;LG Köln MDR 1959, 214; Staudinger/Werner, S.563; MünchKomm/Dütz, S.677.
(159)二〇三九条は、請求権が相続財産に属する場合には、義務者は全相続人に対する共同の給付のみを行うことができ、また、各共同相続人は全相続人への給付のみを請求することができると規定する。
(160)BGHZ 14, 254; BVerwG NJW 1956, 1295.
(161)Staudinger/Werner, S.579; MünchKomm/Dütz S.677; Erman/Schlüter S.1753.
(162)連邦通常裁判所一九五一年一月三〇日判決。BGH NJW 1952, 1111=LM Nr.1. zu§2038 in MünchKomm/Dütz, S.677; BGB-RGRK/Kregel, S.353; Kipp/Coing, S.613.
(163)MünchKomm/Dütz,S.677. なお、この判決に続いてなされた一九五二年の連邦通常裁判所判決(NJW 1952, 419)は、旧ライヒ用益賃貸借保護法(現土地用益賃貸借取引法(一九八五年一一月八日))の対象となる土地の賃貸借契約について、それを延長するかどうかは共同相続人らによって決定されるべき相続財産の管理の問題であると判示している。同旨 BGHZ 56, 50.
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(164)Staudinger/Werner, S.561, 579.
(165)その他同様の規定として、有限会社法四七条四項、株式法一三六条等が上げられる。
(166)BGHZ56, 52f.; Staudinger/Werner, S.561.ただし、Lange/Kuchinke, S.1051 は、このような理由づけに反対し、権利濫用によって説明しようとする。なお、ヴェルナーは、その他の利益衝突の例として、共同相続人の一人に対して向けられた債権の回収や、彼の請求権の支払いの目的でする株券の買い取りに関する決定等を上げる。ただし、共同相続人の一人が相続財産の管理人に任命され、その報酬についての取り決めを行うという場合には、議決権を排除するような利益衝突は存在しないとする(Nipperdey AcP 143, 315 ff. ただし、MünchKomm/Dütz, S.658; Soergel/Wolf, S.572は反対)。また、共同相続人らと法律行為を行なう組合に相続人の一人が加わっているときは、当該相続人が組合を支配している場合にのみ議決権の排除に至るとされる。BGHZ56, 53.
(二)相続人の持分に基づく使用
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相続された個々の財産の利用については、持分権者の使用権に関する七四三条が準用される。そして、七四三条は、一項で「各持分権者には、その持分に従った果実の持分が帰属する」として果実の処理に触れるとともに、二項で「各持分権者は、他の持分権者の共同使用を害しない限り、共同の目的物を使用することができる」と規定する。共同相続人らは、相続開始とともに相続財産に属する目的物について被相続人が有していたのと同じ占有を共同で取得するので
(167)、各相続人の占有権の行使について相互の調整が必要となり、七四三条二項がその基準を提供するのである。そして、二〇三八条の観点からも、相続財産に属する目的物の占有取得のための措置や占有権の行使(168)は、同条の管理行為として、七四三条二項に従って規律されるべきと解されている(169)。
さて、通説は、七四三条二項は、持分権者らの共同関係のもとにある目的物(der gemeinschaftliche
[50頁]Gegenstand)についての共同関係内部での使用関係を定めた規定とする(170)。持分権者らの共同関係は、共同の目的物の所持にとどまらず使用収益や費用の負担にも及ぶので(171)、BGBは、持分による共同関係について、七四一条以下の「共同」の節で、持分権者らの関係を債権関係として広く規律するとともに、他方、物の共有に関する物権法上の特則は一〇〇八条以下に委ねるという構成をとったのである(172)。したがって、共同相続の場合、各相続人は他の相続人の共同使用を侵害しない限り、債権的な権利として、共同相続財産に属する物の使用権(Gebrauchsrecht)と他の相続人らに対してその使用の忍容を求める権利(Anspruch auf Duldung des Gebrauchs)を有することになる(173)。
ところで、七四三条二項は、各持分権者が、他の持分権者の共同使用を害しない限度で目的物を使用できると述べる。したがって、同項により持分権者には共同の目的物についての使用権が認められるので、これが侵害された場合には同項に基づき不作為請求をなすことによって自己の使用権を守ることもできる
(174)。しかし、同項は各持分権者が目的物を使用できる程度について抽象的基準を与えるにとどまるため、具体的な使用方法は、結局、多数決を規定する七四五条一項一文に委ねられることになる(175)。また、七四三条二項は、持分権者が目的物の共同使用を求める請求権を有することを意味するにとどまると解されているから(176)、複数の持分権者が共同に属する物をそれぞれ使用しようとする場合、持分権者間の使用権の衝突も問題となりうるが、この点について、通説は、この権利衝突は使用権が法律上の可能性にすぎない場合ではなくて、持分権者が共同関係のもとにある物を実際に占有し使用しようとする場合にのみ起こるとする(177)。したがって、他の持分権者が当該目的物についての使用権を行使していない限りは、持分権者の一人による持分を越えたあるいは単独での使用も許され(178)、この使用は不当利得にはならないとされる(179)。
他方、持分権者の一人による共同の目的物の単独使用を有償のものとして扱う場合には、後述の使用方法の決定
[51頁]の問題として、持分権者全員による合意もしくは多数決による決定(七四五条一項)によって取り決めがなされる必要がある。したがって、このような取り決めが欠けている場合には、単独で使用する持分権者に対する他の持分権者からの共同使用の請求が拒絶されたとしても、それによって即座に、単独占有している持分権者に対する不当利得返還請求権が発生するわけではなく、持分権者間の使用状況の不均衡は、全持分権者の利益に適した使用を求める申立て(七四五条二項)(180)がなされるときにのみ、金銭による調整が可能であると解されている(181)。
ともあれ、共同相続において、相続人の一人による目的物の使用が他の共同相続人の使用を著しく妨げまたは排除する場合には、その使用方法についての取り決めがなされなければならないことになるが、この取り決めは相続財産の通常の管理の一部にあたると考えられるので
(182)、相続人全員の合意が成立しない場合には、多数決に従って決定されることになる(七四五条一項一文)(183)。ことに相続家屋のように、その物の性質や具体的な事情から見て、共同相続人全員がそれぞれその使用を求めたのでは行き詰まってしまうような場合には、持分の限度による使用という七四三条二項の提示する基準のみでは規律が不可能であり、多数決による決定が意味を持つ(184)。
ところが、他方、七四五条三項二文は、持分権者の持分に応じた収益権はこの者の同意なくして侵害することはできないと規定する。そこで、多数決によるこのような管理方法の決定は、これに抵触することになるのではないかという問題が論じられている。通説は、七四三条二項は、持分権者による目的物の自己使用を、その意思に反して奪われることのできない権利として規定するものではなく、持分権者らの内部において各持分権者に帰属する使用権の程度を定めたにとどまると解することで、多数決によって共同の物の具体的な管理方法を決定することが可能であると説明する
(185)したがって、七四五条一項の運用に際して、共同の目的物の使用方法として、持分権者の一人に単独での占有・使用を認めるというように規律することもできるとされている(186)。さらに、使用に関する合意や[52頁]多数決による決定がないときは、共同相続人の一人は、七四五条二項に基づいて、公平な基準に従った使用方法への同意を求めて訴えを提起することもできる(187)。裁判例には、共同相続人の一人がすでに被相続人とその所有不動産につき賃貸借契約を締結していたとき、この相続人は相続開始後もこの契約に基づく占有・使用権を他の相続人に対して主張できるが、その後、七四五条二項に従って当該相続不動産の使用方法の変更が決定された場合には、これを拒むことはできないとしたものがある(188)。そして、個々の持分権者がその同意なくして共同の目的物の使用から排除された場合には、金銭的な調整が行なわれ、それによってこの者の使用収益権が補償されることになる(189)。一度決定された金銭による使用不均衡の調整が、時の経過などによって不適当なものになったときは、持分権者は、償金の再調整や使用方法変更の請求もできる(190)。しかしながら、共同相続人間で意見が対立した場合には、使用関係について決定することは実際上困難であって、特に同じ相続分を持つ相続人が二人しかいない場合には深刻な問題を生じるという指摘もあり(191)、最終的には、遺産分割によって事態の解決を図る他ないことになる(192)。
(167)八五七条により、共同相続人は相続目的物の共同占有者となる。 v. Lübtow II, S.809.
(168)BGH NJW 1978, 2157; 1987, 3001.
(169)Staudinger/Werner, S.550; MünchKomm/Dütz S.653; Palandt/Edenhofer, S.1916; Lange/Kuchinke, S.1055f.
(170)Tzermias AcP 157, 455; J. von Staudingers Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen, 2. Buch Recht der Schuldverhältnisse§§741-764, 1996 (以下Staudinger/Langhein), S.123; Münch Komm/Schmidt, Münchener Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch, Band 5 Schuldrecht. Besonderer Teil III 3 Aufl.1997(以下MünchKomm/Schmidt), S.650; Palandt/Thomas, Palandt Bürgerliches Gesetzbuch mit Einführungsgesetz(Auszug), Gesetz zur Regelung des Rechts der Allgemeinen Geschäftsbedingungen, Verbraucherkreditgesetz, Gesetz über den Widerruf von Haustürgeschäften und ähnlichen Geschäften, Gesetz zur [53頁]Regelung der Miethöhe(Art. 3 des 2. WKSchG), Produkthaftungsgesetz, Erbbaurechtsverordnung, Wohnungseigentumsgesetz, Ehegesetz, Hausratsverordnung, 56.Aufl. 1997(以下Palandt/Thomas), S.848.
(171)MünchKomm/Schmidt, S.650.
(172)ドイツにおける共有物の使用管理に関する諸規定の制定過程ついて、上河内前掲注(127)広島法学二二巻四号一三九頁、二三巻一号八一頁参照。なお、校正の段階で、同「共有物の占有持分権者と非占有持分権者間の法律関係(一)―ドイツにおける判例の展開を中心に―」広島法学二三巻二号(一九九九年)二二一頁に接した。
(173)MünchKomm/Schmidt S.651; Staudinger/Langhein, S.134.
(174)MünchKomm/Schmidt,S.655; BGB-RGRK/v. Gamm, Das Bürgerliche Gesetzbuch mit besonderer Berücksichtigung der Rechtsprechung des Reichsgerichts und des Bundesgerichtshofes Band II, 4. Teil, 12.Aufl.1978 (以下BGB-RGRK/v.Gamm), S.128.一時的な、本質的ではない使用の妨害は、共同使用の侵害にはあたらず、何が共同使用権の侵害になるかは、取引慣行と信義則にしたがって判断される。BGH JZ 1978, 613; AG Köln MDR 1958,517; Lange/Kuchinke, S.1056.
(175)MünchKomm/Schmidt, S.653; Palandt/Thomas, S.848; Erman/Aderhold, Handkommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch mit Einführungsgesetz, Verbraucherkreditgesetz, Gesetz zur Regelung der Miethöhe, Produkthaftungsgesetz, Haustürwiderrufsgesetz, AGB-Gesetz, Erbbaurechtsverordnung, Wohnungseigentumsgesetz, Schiffsrechtegesetz, Ehegesetz, Hausratsverordnung, Beurkundungsgesetz (teilkommentiert), 1.Band 9.Aufl.1993 (以下Erman/Aderhold), S.1893; BGB-RGRK/v. Gamm, S.128.
(176)Brox,S.306.
(177)BGH NJW 1966, 1707; KG NJW 1968, 160; MünchKomm/Schmidt S.655.
(178)単独占有している持分権者は、他の持分権者が使用しない範囲で、九八六条にいう権限ある占有者になる。BGH NJW 1987 3001; BGH NJW 1966, 1707; MünchKomm/Schmidt,S.655; Staudinger/Langhein,S.134
(179)Staudinger/Langhein, S.134; MünchKomm/Schmidt, S.654f.
(180)MünchKomm/Dütz, S.659; Staudinger/Langhein, S.133は、二〇三八条一項二文前段により共同相続人らには通常の管理措置について協力する義務があるので、相続人間に合意や多数決による決定が成立しない場合には、七四五条二項に基づき通[54頁]常の管理の実現を求めて裁判所に訴えを提起することができるとする。
(181)BGHZ87, 265(これは、夫婦が別居し、離婚の訴えが提起され、夫婦の共有物である婚姻住居を一方配偶者が単独で使用しているという事案である。裁判所は、このような場合に、当該住居の管理・使用について新たな取り決めが必要であるとし、その調整方法として、居住を継続している配偶者が住居維持のための費用を負担し、また両者による住居調達のための消費貸借を引き継ぐことも考えられるとした); NJW 1966, 1707; 1982, 1753; OLG Koblenz NJW1994,463; Staudinger/Langhein, S.134; Erman/Aderhold, S.1893.ただし、MünchKomm/Schmidt, S.655は、事情に応じて不当利得の成立をより緩やかに認める。また、BGH NJW 1966, 1707は、他の持分権者との共同使用が頑強に拒絶された場合について、不法行為による損害賠償請求権を肯定する。なお、持分権者が共同の目的物を使用する際にこれを毀損するという事態が生じたときは、不法行為または積極的債権侵害を理由として、他の持分権者に対する損害賠償責任を問われることになる。MünchKomm/Schmidt, S.656; Erman/Aderhold, S.1893.
(182)Brox, S.306.
(183)七四三条二項との関係では、同項が任意規定と性格づけられることからも、相続財産の具体的使用方法に関する、共同相続人らによる自由な取り決めが許容される。MünchKomm/Schmidt, S.656; Erman/Aderhold, S.1893.
(184)Lange/Kuchinke, S.1056.
(185)v. Lübtow II, S.809; Staudinger/Langhein, S.134f.; MünchKomm/Schmidt, S.653, 669; Erman/Aderhold, S.1893.
(186)BGH NJW 1953, 1427; 1966, 1707; MünchKomm/Schmidt, S.653.
(187)前掲注(180)参照。すでに合意や多数決があるにもかかわらず、その後事情が本質的に変更したときも、同様である。BGHZ 34, 367; NJW 1974, 364; 1982,1753 ; 1984, 45.
(188)ベルリン上級地方裁判所一九五三年六月一六日判決。KG NJW 1953, 1592. vgl. RGZ 49, 285.
(189)BGH NJW 1953, 1427; 1966, 1707; Staudinger/Langhein, S.134f.; MünchKomm/Schmidt, S.653, 669; Erman/Aderhold, S.1893. なお、判例には、持分権者全員の合意により、持分権者の一人に無償の使用を認めたものがある。BGH NJW 1979, 2168.
(190)KG NJW 1953, 1592.
(191)Lange/Kuchinke, S.1056.
(192)MünchKomm/Schmidt, S.655.
[55頁]
(三)果実の分配と費用負担 目次に戻る
遺産管理が相続財産の維持と増加に貢献するものであるのに対して、果実の処理では個々の相続人の利益に重点が置かれる
(193)。そして、わが国とは異なり、BGBは、共同相続人間の果実の分割について二〇三八条二項に明文規定を置く。それによると、各共同相続人は、まず債務法の「共同」規定に従い(二〇三八条二項一文)、その相続分に応じて果実の持分を取得し(七四三条一項)、自己の持分に応じた果実の給付を請求する権利を有する(194)。そして、果実の収取に対するこのような権利を、共同相続人らの多数決によって奪うことは許されない(七四五条三項二文)。しかしながら、相続財産から生じる果実については、さらに二〇三八条二項二文および同三文に特則がある。すなわち、相続財産を構成する個々の物から生じた果実も共同相続財産に帰属し、それは共同相続人らの合有財産となる。そこで、果実は、原則として遺産分割以前に相続人らに分配されることはない。その例外として、遺産分割が一年以上なされない場合にのみ、相続人は各年末に純益の分割を請求することができるのである。
ところで、果実という概念について注目されるのは、BGBが一〇〇条で、収益には物の果実や権利の果実とともに物または権利の使用によって得られた利益も含まれると明定している点である。したがって、相続財産に属する個々の物の使用利益は、果実としてとらえられることになる。相続財産に属する個々の物の具体的な使用方法は、通常、全員一致による合意ないし多数決によって決定されるが
(195)、各相続人が相続財産に対して有する収益の権利を、共同相続人らの多数決によって剥奪することはできないので、自らの使用を妨げられている相続人については、その補償が問題となってくる。たとえば、連邦通常裁判所の判決は、相続財産に帰属する事業体を共同相続人らが合名会社の形で維持継続し、相続不動産を無償で使用していた事例において、その後相続人の一人がこの合名会社[56頁]から脱退すれば、この者は将来の遺産分割の際に、自己の脱退後他の共同相続人らによって継続される当該相続不動産の無償使用に対する償金(Vergütung)を請求することができるとしている(196)。
遺産分割まで果実の分割が延期される一つの理由は、遺産債務を清算し、特別受益を受けていた場合にはそれを持戻した後になって初めて、各相続人が得るべき相続財産がどのくらいの額になるのかが確定できるという点にあると言われる
(197)。したがって、多数決によってではなく共同相続人全員の合意があれば遺産分割前に果実の分割を行うことを妨げないことになる(198)。ただし、果実の分割を拒絶することが害意によるもので信義則違反ないし権利濫用にあたる場合や、共同相続人の一人の意思に反した一部分割が、共同相続関係全体の利益を害するものではない場合(199)等においては、多数決による事前の分割を認める可能性も指摘されている(200)。
なお、遺産分割が一年以上行われない場合には、上述のように例外的に、費用を控除した純益の分割を請求する権利が相続人に生じるのであるが、この場合には、遺産分割が行われない理由は、相続人らの合意
(201)等法律に根拠のあるものでなればならないとするのが多数説である。したがって、事実上一年以上遺産分割が行われないというだけでは、純益の分割を請求できる理由にはなりえないと解されている(202)。なお、純益の分割も各相続人の相続分の割合に従って行われ(203)、分割される純益の評価は、分割時点が基準となる(204)。
他方、相続財産の維持や管理のための費用については七四八条が準用され、共同相続人は各自の相続分の割合に従ってそれを負担することになる。ただし、このような費用は、通常、遺産分割前に生じるものであるのに対して、果実は原則として遺産分割の際に初めて分配されるため、費用負担についての各相続人の義務は、相続財産の中に存在している資金の範囲に限られると解されている。すなわち、管理費用は、まず相続財産の果実、次に相続財産に属する現金から支出されることになる
(205)。また、共同相続人は、相続財産の管理費用支払いのために、その固有[57頁]の資産を遺産分割前に支出する義務はないというのが通説的見解である(二〇五九条)(206)。なお、特別受益をすでに得ていることにより、遺産分割においてさらに相続財産を取得することを期待できず、果実を請求する権利を持たない者に対して、共同相続関係の継続のために生じる費用の負担を内部管理において求めることは、権利の濫用となりうるとされる(207)。もっとも、第三者に対しては、共同相続人は、二〇五八条に従い連帯債務者として責任を負う。
(193)MünchKomm/Dütz, S.665. Lange/Kuchinke, S.1054f.
(194)通説は、七四三条二項による相続財産の使用権の場合と同様に、共同相続人の果実に対する持分についても、各自の相続分が基準となるとする。Staudinger/Werner, S.564; MünchKomm/Dütz,S.665; Soergel/Wolf, S.575; Palandt/Edenhofer, S.1918; Erman/Schlüter, S.1749; v.Lübtow II, S.809.反対説は、遺産分割の際に、実際に各共同相続人が分割される相続財産に対して有する割合が基準となるとする。Lange/Kuchinke, S.1055.
(195)Brox, S.306; Lange/Kuchinke, S.1056.
(196)連邦通常裁判所一九八三年七月六日判決 BGH NJW 1984,45.
(197)遺産分割時にもはや相続財産から何も取得できない相続人は、相続財産の収益への参与を請求する権利を持たないと解されている。OLG Hamburg MDR 1965,665; Staudinger/Werner,S.564; MünchKomm/Dütz, S.665f.; BGB-RGRK/Kregel, S.343.
(198)RGZ 81,241; OLG Hamburg MDR 1965, 665; Staudinger/Werner,S.564; MünchKomm/Dütz, S.666; BGB-RGRK/Kregel, S.343.
(199)BGH NJW 1963,1541. これは、共同相続人の一人が相続財産に属する事業を継承することによって得られた利得を単独で収益している事例において、他の相続人が、最終的な遺産分割の際に自己に帰属すべき収益についての支払いを事前に請求したものである。
[58頁]
(200)MünchKomm/Dütz, S.665.
(201)合意による遺産分割の延期については、二〇四二条二項、七四九条二項、同三項参照。
(202)RGZ 81, 241; Staudinger/Werner, S.564; MünchKomm/Dütz, S.666; Soergel/Wolf,S.576; Palandt/Edenhofer, S.1918. aA Lange/Kuchinke, S.1055.
(203)MünchKomm/Dütz, S.666. aA OLG Hamburg MDR 1956, 107.
(204)MünchKomm/Dütz, S.666; Palandt/Edenhofer, S.1918.
(205)Lange/Kuchinke, S.1055; Staudinger/Werner, S.563.
(206)Staudinger/Werner, S.563; MünchKomm/Dütz, S.666; BGB-RGRK/Kregel, S.342; Soergel/Wolf, S.576; Palandt/Edenhofer, S.1918; Erman/Schlüter, S.1749. ただし、Brox, S.307は、相続財産に準用される七四八条にはこのような制限は存在しないこと、また、相続財産の管理費用は、そもそも共同相続人全員の合意に基づいて支出されたか、あるいは通常の管理のために必要なものであったこと、相続人が管理費用を自己の財産から支払いたくない場合には遺産分割を求めればよいことを理由に、相続人の固有財産による管理費用の支出を制約することには消極的である。
(207)Lange/Kuchinke, S.1055; Brox, S.307.
(四)相続家屋への居住の保護 ― 三〇日権 ― 目次に戻る
三〇日権とは、被相続人の死亡後三〇日まで、被相続人の死亡の時点で彼の世帯に属しており彼によって扶養されていた家族構成員に対して、従来の範囲での住居への居住と扶養の継続の確保を目的とするもので
(208)、一九六九条は「(一)相続人は、被相続人の死亡の当時その世帯に属しかつこの者によって扶養されていた被相続人の家族に対して、相続の開始後三〇日間、被相続人が行っていたのと同範囲において扶養を与え住居及び家財道具の使用を[59頁]許す義務を負う。被相続人は、終意処分により異なる定めを行うことができる。(二)遺贈に関する規定を準用する」と規定する。そして、これは法定遺贈に類する権利であると言われている(209)。
この三〇日権は、古いドイツ社会の慣行に由来し、一三世紀の初めすでにザクセンシュピーゲルの中に見られるが(Sachsenspiegel I 22§§1-3)、その後ザクセンと他の幾つかの法域において維持されていたものである
(210)。本来儀礼上の義務であったものを法的義務にまで高めたもので、家族が被相続人の死亡によってこれまでの生活状況を即座に変更しなければならなくなるのを回避し、新たな生活に順応するのに必要な時間を与えることを目的とした制度であった。BGBの制定に際しては、このような制度の持つ人道性と公平性は認識されたものの、もはやこのような規定は不要として、第一、第二草案の段階では取り入れられなかった(211)。しかし、帝国議会の委員会で、帝国政府の意向に反しつつもこの制度が採用されるに至ったのである(212)。
三〇日権は、家族法上の又はそれに類似の関係によって結びつけられている家族構成員のために存在する。したがって、被相続人の配偶者・血族・姻族や、被相続人の養育を受ける子供(Pflegekinder)あるいは婚約者等が含まれるとされ、その範囲をさらにどこまで広げるかについての見解は、個々の事例ごとに分かれているが
(213)、一般には、家族の保護と支援というこの請求権の目的と三〇日という短い期間を考慮して、同条にいう「家族」の範囲を特に狭く考える必要はないとされている(214)。したがって、単に同じ家に居住していたというにとどまらず、被相続人との個人的な関係によってその生活共同体に受け入れられていたような者は、広く同条にいう家族に含まれることになる(215)。たとえば、被相続人との事実婚関係において一緒に生活していた者は一九六九条の保護を受けるし(216)、事情によっては重婚的な内縁関係にあった者も同条の家族にあたることがあるとする見解も存在する(217)。同性のカップルが一九六九条にいう家族にあたるかどうかについては、下級審の裁判例には住居の賃貸借の継続についての[60頁]特別規定である五六九条a(218)との関係でこれを肯定したものがあるものの(219)、連邦通常裁判所は否定的である(220)。また、学説には、被相続人の世帯で生活していた友人が老齢で貧困であるというような例外的な場合に、一九六九条の家族に含めるとする見解もある(221)。しかし、たとえば家政婦のように、雇用などの契約関係によって被相続人の世帯で生活していた者については、基礎となっている契約の内容に従って関係の解消が行われるべきであるとして、一般に一九六九条の適用は否定される(222)。
いずれにしても、一九六九条による請求権を認められるためには、その者が被相続人によって扶養を受けていたことが要件となる。すなわち、同条の保護を受ける家族は、被相続人の死亡の時点でこの者の世帯に属し彼から扶養を受けていた者でなければならず、たとえ配偶者や子供であってもこれに該当しない場合には、同条の権利を有しないことになる
(223)。ただし、これらの者の扶養について被相続人に法律上の義務が存在していたかどうかは関係ないとされている(224)。
本条の適用が認められる場合には、相続人は、権利者に対して被相続人が行っていたような範囲と程度において相続開始から三〇日間は扶養をなし、かつ住居と家財道具の使用を許さなければならない。三〇日権には一九六九条二項に従って遺贈に関する規定が準用されるので、これは、他の遺贈請求権と同様に相続人に対する債権的な請求権であり、遺産債務に属することになる(一九六七条二項)
(225)。しかし、三〇日間の一時的なものというこの請求権の特質から、相続人には権利者からの請求に対する延期的抗弁は認められないとされ(226)、また、相続人が相続を承認するより前に本条の請求権を裁判上主張することはできないから(一九五八条)(227)、相続が承認されるまでに請求の必要が生じれば、裁判所による遺産保護人の選任(一九六一条)を求めなければならないことになる(228)。また、三〇日権は法定扶養請求権という性格を持つため、原則として譲渡も差押もできない(229)。しかし、一九六九条[61頁]一項二文の示すところにより、逆に被相続人がこの請求権を終意処分によって権利者から剥奪することは可能である(230)。なお、一九六九条のもとで与えられる扶養は、被相続人が行っていたのと「同じ範囲と方法」によってであり、相当な扶養(angemessener Unterhalt)という基準(一六一〇条)の入る余地はないとされている(231)(232)。そして、一九六九条の請求権は、権利者が任意に当該世帯から出ていくことによって終了する(233)が、相続人が三〇日の期間以内に権利者の同意なくして世帯を解消し、この者を退去させようとした場合には、権利者は仮処分の手続きにより三〇日権の保全をすることができる(234)。そして、それにもかかわらず権利者が期間終了前に退去させられてしまった場合には、一九六九条から生じる扶養請求権は残存期間について金銭で履行されるべきであるとされる(235)。同時に、履行不能に関する二八〇条に従って、または予備的に積極的債権侵害を理由として、損害賠償を請求することも可能である(236)。なお、争いはあるが、三〇日権が存在しているときにも遺産分割をすることは妨げられない(237)。しかし、債務者である共同相続人らが三〇日権から生じる請求権の実現を妨げたことについて有責である場合、前述のように、この者たちは損害賠償義務を負うことになるため、相続人の一部の者より三〇日権の履行を害するような遺産分割措置が提示されたときには、他の相続人はこれに応じる必要はないとされている(238)。
ところで、三〇日権の権利者らが、相続開始の時点で住居や家財道具を占有していたか少なくとも被相続人と共同占有していた場合には、占有に関する八五八条以下に従って占有権の保護を主張できる可能性もある。しかし、八五七条によって、占有は相続開始に伴い相続人らにも共同に移転するから、占有権を根拠とするのみでは、相続開始前から被相続人の有する住居等を占有していた家族は、従前通りの使用を貫徹することは困難である。さらに、被相続人と同居していた家族で、相続人にあたらずしかも居住していた家屋について共同占有も部分占有も有していなかったような者は、当該住居に関して占有補助者としての地位(八五五条)しか認められないから、被相続人
[62頁]の死亡によって、住居に対する自己の使用を主張することすらできなくなる。したがって、三〇日権は、占有権をめぐる複雑な法的構成を離れて、このように占有補助者の地位にある者についても、居住という現実の占有状態に目を向け、その優先的保護を図ろうとするところに大きな意義がある(239)と言われている。
家の共同による特別な信頼関係に根拠づけられた三〇日権の基本思想は、ドイツでは今日もなお妥当性を持つものと認められており
(240)、それは社会保障の思想にも通ずるとされている(241)。また、この三〇日権や賃借権の継続に関するBGB五六九条aおよび五六九条b(242)が、従来型の家族のみならず事実婚や同性のパートナーの居住の保護にも可能性を広げつつある点について、日本の借地借家法三六条のあり方とも考え合わせると、その現代的意味も興味深い。
(208)Lange/Kuchinke,S.314; Staudinger/Marotzke,J.von Staudingers Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbush mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen, Erbrecht§§1967-2086, 13 Aufl. 1996(以下 Staudinger/Marotzke), S.73; MünchKomm/Siegmann, Münchener Kommentar zum Bürgerlichen Gesetzbuch Band 9, Erbrecht, 3 Aufl. 1997(以下 MünchKomm/Siegmann),S.428.なお、本条の解説として松倉前掲注(15)『注釈ドイツ相続法』一八三頁以下参照。
(209)Lange/Kuchinke S.314; MünchKomm/Siegmann, S.429. ただし、特に遺産破産の場合に、三〇日権や配偶者の先取分を通常の遺贈請求権と同様に扱うことに疑念を示す見解として、Harder NJW 1988,2716.
(210)Lange/Kuchinke, S.314.
(211)第一草案起草の際には、このような制度を従来持たない地域にまで適用することに対する懸念、通常は相続開始後直ぐに被相続人の世帯が解消されることはないという経験則等にも言及されている。Motive V S.534f. また、第二草案段階では、配偶者や子供に対しては、法定相続分ないし遺留分によってこの者たちの保護が可能である等の理由が述べられている。Protokolle V S.654ff.
[63頁]
(212)Lange/Kuchinke,S.314, Staudinger/Marotzke, S.73. 諸外国では、従来存在していたこれに類する規定は廃止されてきているが、フランス民法典になお同様の制度が見られる。すなわち、法定夫婦財産制の解消に関する一四八一条は、「(一)共通財産が夫婦の一方の死亡によって解消される場合には、生存配偶者は、それに続く九カ月間の食費及び住居費並びに葬儀費用について、共通財産の能力並びに家庭の状況を考慮して、すべて共通財産の負担のもとに、権利を有する。(二)生存配偶者のこの権利は、その一身に専属する」と定めている(条文訳は、法務大臣官房司法法制調査部編『フランス民法典 ―― 家族・相続関係 ――』(法曹会、昭和五三年)を参照した) 。
(213)Lange/Kuchinke, S.314; Staudinger/Marotzke, S.73f.; MünchKomm/Siegmann, S.428; Palandt/Edenhofer, S.1876.
(214)Staudinger/Marotzke,S.73; LG Kassel JR 1961, 221.また、注(218)で後述するBGB五六九条aの適用との関連で、同様の見解を示すものとして、BGHZ 121, 116 がある。これに反対するのは Lange/Kuchinke S.314で、援助される者の範囲を拡大しようという努力は支持されるべきではないという。
(215)Müller-Freienfels JuS 1967, 124は、これは、被相続人との個人的な関係と家族共同体に受け入れられていたという事実によって、家族に属すると認められる者を指すという。したがって、一九六九条は、婚姻や血族関係によって表される家族の絆の結果というよりも、家の共同関係によって根拠づけられる特別な信頼関係に基づくものと解されている。Schwenzer JZ 1988, 787.
(216)OLG Düsseldorf NJW 1983, 1566; Strätz FamRZ 1980,307;Schwenzer JZ 1988,787; Staudinger/Marotzke, S.74; MünchKomm/Siegmann, S.428; Soergel/Stein, Bürgerliches Gesetzbuch mit Einführungsgesetz und Nebengesetzen, Band 9, Erbrecht 1992(以下Soergel/Stein), S.374; Erman/Schlüter, S.1686; BGB-RGRK/Johannsen, Das Bürgerliche Gesetzbuch mit besonderer Berücksichtigung der Rechtsprechung des Reichsgerichts und des Bundesgerichtshofes, Band V, 1.Teil 12.Aufl.1974(以下BGB-RGRK/Johannsen), S.172.
(217)Staudinger/Marotzke, S.74は、三〇日という短い期間を理由として、このような場合にも善良の風俗違反の問題にはならない可能性のあることを示唆する。ただし、同時に、戦前の上級地方裁判所の裁判例(OLG München, HRR 1940 Nr 354)に、被相続人とともに生活していた姦通の女性に対して本条の適用を否定したものがあることも言及されている。
(218)被相続人が住居の所有者ではなく彼と彼の家族が居住していた家屋の賃借人であった場合には、一九六九条ではなく一九六[64頁]四年七月一四日の「使用賃貸借法の規定の第二変更法」によってBGBに挿入された五六九条a、五六九条bが適用される。五六九条aによると、居住空間の賃借人の死亡とともにその配偶者又は同居家族は自動的にこの賃貸借関係に入る。また、夫婦が共同で賃借しており彼らが共同の家政を営んでいた居住空間の賃貸借関係は、五六九条bに従って、一方配偶者の死亡とともに生存配偶者との間で継続することになる。相続における家族保護という一九六九条の発想の一つの発展が、この両条であると言われているが(Staudinger/Marotzke, S.73)、BGBは原則として包括的権利承継のみを認めるのに対して、五六九条aと五六九条bではその例外として特定権利承継となる。ここでは被相続人の配偶者その他の家族は、一般の相続法規定とはかかわりなく、被相続人の賃借権の承継に特別の権利を有するとされるのである(MünchKomm/Dütz, S.596)。もっとも、これらの場合には、以後の賃料を相続人が負担するという意味での一九六九条的扶養要素は含まれてこない。両条文については、右近健男前掲注(125)『注釈ドイツ契約法』二六九頁以下参照。
(219)AG Berlin-Wedding NJW-RR 1994, 524; LG Hannover NJW-RR1993, 1103.
(220)連邦通常裁判所一九九三年一月一三日決定。BGHZ 121, 116.
(221)Staudinger/Marotzke, S.74; MünchKomm/Siegmann, S.428; Soergel/Stein, S.374; Erman/Schlüter, S.1686; BGB-RGRK/Johannsen, S.172.これに反対するのは、Lange/Kuchinke, S.314.
(222)Staudinger/Marotzke, S.74; Lange/Kuchinke, S.314.
(223)Staudinger/Marotzke, S.75; MünchKomm/Siegmann, S.428.
(224)Strätz FamRZ 1980, 301は、被相続人と内縁関係にあった者について、被相続人に法的な扶養義務はなくても、その世帯において事実上扶養されていることで、一九六九条の適用には十分であるとする。同旨、Staudinger/Marotzke, S.75; Palandt/Edenhofer, S.1876.
(225)一九六九条二項の準用する二一七四条は、「遺贈によって、受遺者は、遺贈の負担を課せられた者に対して遺贈された物の給付を請求する権利を取得する」と規定する。
(226)Staudinger/Marotzke S.77; MünchKomm/Siegmann, S.429; Soergel/Stein, S.374. 二〇一四条以下は遺産債権者に対する弁済の延期の抗弁について規定する。たとえば、二〇一四条では、相続人は、原則として相続承認後三カ月が経過するまで遺産債務の弁済を拒絶することができると定める。
[65頁]
(227)一九五八条は、「相続の承認前には、相続財産に対する請求権を相続人に対して裁判上行使することはできない」と規定する。
(228)相続の承認前に相続財産の保全の必要がある場合には、一九六〇条によって遺産裁判所は遺産保護人を選任することができるが、相続財産に対する請求権を有する者も、一九六一条に基づき遺産保護人の選任を遺産裁判所に申し立てることができるとされている。Staudinger/MarotzkeS.77; MünchKomm/Siegmann, S.429.
(229)Staudinger/Marotzke S.77; MünchKomm/Siegmann, S.429; Palandt/Edenhofer, S.1877. したがって、この請求権に対して相殺も留置権も主張することはできないことになる。Dütz NJW 1967, 1107. ただし、BGB-RGRK/Johannsen, S.173は、一定の要件のもとでの譲渡可能性を認める。vgl. BGHZ 4, 153; 5, 342; 13, 360. また、Staudinger/Marotzke S.77は、三〇日権が例外的に現物ではなく金銭で履行される場合について譲渡の可能性に言及する。
(230)被相続人は三〇日権を剥奪するのみならず、その内容と範囲を法律とは異なるように縮小しあるいは拡大することもできる。終意処分によって一九六九条の範囲を越えた部分は、純粋な遺贈がなされたことになる(一九三九条)。Lange/Kuchinke, S.314; Staudinger/Marotzke, S.78; MünchKomm/Siegmann, S.429.
(231)MünchKomm/Siegmann, S.428; Staudinger/Marotzke S.75;BGB-RGRK/Johannsen, S.173.
(232)被相続人の営んでいた世帯が継続される場合は、原則として従前と同一の財産によって扶養が行なわれると解されている。Staudinger/MarotzkeS.75; BGB-RGRK/Johannsen,S.173; Soergel/Stein, S.375.
(233)Erman/Schlüter, S.1686; Staudinger/MarotzkeS.75; BGB-RGRK/Johannsen, S.173.
(234)Staudinger/Marotzke S.76; MünchKomm/Siegmann, S.429. ただし、権利者が立ち退きを拒むことが二二六条のシカーネ(Schikane)として権利濫用となる場合はあると言われている。Lange/Kuchinke, S.315.
(235)Staudinger/Marotzke, S.76; MünchKomm/Siegmann, S.429; BGB-RGRK/Johannsen, S.173; Soergel/Stein, S.375.
(236)Lange/Kuchinke, S.315;Staudinger/Marotzke S.76; Erman/Schlüter, S.1686; Soergel/Stein, S.375.
(237)Staudinger/Werner, S.608; Palandt/Edenhofer, S.1925.
(238)Staudinger/Werner, S.608.
(239)Lange/Kuchinke, S.315.
[66頁]
(240)Lange/Kuchinke, S.314; Staudinger/Marotzke, S.73; MünchKomm/Siegman, S.428.
(241)Staudinger/Marotzke, S.73.
(242)前掲注(218)参照。
五 む す び
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ドイツでは、相続財産の管理における共同相続人の意思形成について、共同相続関係の合有的性格を反映した全員一致による共同管理を原則とする。しかし、このような方法を厳重に貫徹すると、共同相続人間に対立が存在する場合や相続人の中に意思決定に協力する態勢の整っていない者がいる場合には、管理の困難さを免れないことになる。そこで、BGBは、相続財産の保存や通常の管理に必要な事項については、債務法中の持分による共同関係の規定にならうことによって、共同相続関係の硬直化を回避しようとする。すなわち、保存行為は相続人が各自単独で行うことができるとし、またそれ以外の措置に関しても、相続財産の性質に従った通常の管理については相続人らの持分による多数決の原理を導入している。わが国では、相続財産についての措置が管理行為に属するのかあるいは処分行為かという概念的な枠組みから、相続人らの意思決定方法を峻別する手法が用いられることがあるが、管理措置の中にはその実現方法として処分行為を含む場合もある。したがって、全員一致によるかあるいは多数決でよいのかの判断基準を、当該措置が相続財産の性質に従って通常のものであるかどうか、また公平の観点から全相続人の利益に則したものであるかという点に求めた上で、緻密な分析を重ねて行くドイツ法は、より実践的である
(243)。
次に、このように共同相続財産の管理についての意思決定方法につき柔軟な手法を提供した場合でも、共同相続人間に利益の衝突があるとき、特に、処理されるべき事柄が共同相続人の一部の者の固有の利益にかかわるときに
[67頁]は、この者が意思形成に加わるべきかどうかという問題が生じてくるが、ドイツでは、反対利益を有する相続人の同意を不要とし、通常の管理においては原則として多数持分権者の意向に従う態度を一貫させて、相続財産の管理を容易にしている。少数持分権者の利益は、随時の遺産分割請求を認めることによって保護が図られる(244)。そして、本稿での関心の中心であった住居について言えば、それが相続財産の重要な構成部分を占めるため、ドイツでは、相続開始まで被相続人の住居で同居してきた相続人には遺産分割の際に裁判所が住居を割り当て、他の相続人には金銭による補償を確保するという措置を、相続法の改正によって取り入れるべきであるとする提案もなされている(245)。
日本では、遺産分割までの相続財産管理について共同相続人間の意思形成と利害関係の調整に関する規定を欠くため、最高裁平成八年判決に見られるように、相続人の居住の保護を目的とした現状維持のための方途として、相続開始を始期とし遺産分割を終期とする使用貸借関係の擬制という方法が提示されている。しかしながら、このような理論構成によって相続人の一部の者に相続不動産の無償使用を認めると、遺産分割までの期間によっては、この相続人のみを長期にわたって利する結果となる
(246)。しかし、遺産分割までに長期間を要する事例も少なくないことを考えると、このような処理が常に妥当性を有するとは言えず、遺産分割前の段階で相続不動産の使用収益に対する共同相続人間の利害の調整を図る必要性も生じてくる。不動産の使用利益は相続財産から生じる果実に相当し、民法八九八条に従って共同相続人はその相続分に応じて果実について共有関係に立つと考えられるから、分割前の「遺産共有」の状態にあるときにも、各共同相続人には相続分の割合に従って果実を収取する権利があることを完全に否定することは妥当ではなかろう(247)(248)。ドイツには、遺産分割が一年以上行われないときには、各共同相続人に各年末に純益の分割を請求する権利を認め、またそれを共同相続人らの多数決による決定によっても侵しえない権利として保護する制度も存在する。この点について、高木教授は、遺産分割を指導する第一の原理は共同相続人間の[68頁]平等の維持であるとされ、相続不動産への居住による使用利益を果実に類するものと位置づけて、原則として果実としての使用の利益から管理費を差引いて残額を遺産分割の中で処理するという方法を提示されている(249)。これにより、最終的に、遺産分割手続きにおいて果実も含め全相続財産について、相続人の諸事情を総合的に考慮して分割することによって、全体として共同相続人間の公平を指向することも可能であろう(250)。
その意味において、相続家屋に居住してきた相続人の占有・使用保護のために、最高裁平成八年判決が示す共同相続人間の使用貸借関係の擬制という方法は、必ずしもの唯一の手段ではなく、遺産分割に至るまでの間において、当該相続人に相続による持分権を根拠とした相続不動産の単独使用を認める一方で、その使用利益を果実として他の共同相続人間に分配するというドイツ法に見られる方法も考慮に値すると考えられる。その場合の果実すなわち相続不動産の使用利益の経済的評価は、たとえば当該不動産の賃料の相場相当額というように必ずしも一律的な取り扱いをする必要はない。事情に応じて低く認定することにより、事案に沿った解決が可能となる
(251)。このようにして相続不動産の使用収益の金銭的価値を認定した後も、たとえば地価の上昇下降や公租の増減等事情の変更が生じた場合には、地代や家賃の変更について規定する借地借家法一一条や三二条の趣旨に鑑み、先の認定額の変更を求めることも許されるべきであろう。相続人の居住の利益に配慮しつつ共同相続人間の衡平を実現するために、柔軟な対応措置とその基準を提示することの必要性は大きいと考えられるのである。
同時に、従前の生活環境から新たな生活への変更のための猶予期間的側面も持つドイツの三〇日権は、両国の社会状況や遺産分割の実情に相違があるとしても一考に値するとともに、少なくとも、被相続人の死亡の時点で世帯をともにし被相続人によって扶養されていた者に、短期間ではあるが従来の範囲での住居への居住と扶養の継続を保障しようという、この制度を支える基本思想の重要性は決して看過してはならないと思われる。
[69頁]
(243)川井教授は、「管理行為が処分行為かは、結局共有物の性質が変更される程度の利用・改良行為か否かによるのであり、その性質が変更されたか否かは、行為の形式的分類によるべきでなく、社会の取引観念、すなわち当該の場合に、もはや財産の従前の維持方法と相容れない経済的に重大な行為であるか否か、の標準によるべきである」と述べられている。前掲注(22)法学協会雑誌七四巻一号七九頁。また、山田教授は広く共有関係を持分処分型と分割型に分類され、それぞれの特徴から前者については共有物の使用管理に必ずしも全員一致を必要としないが、後者は原則として全員一致によるという見解を示されていている。山田前掲注(21)法学協会雑誌一〇二巻七号一四一頁以下。
(244)Lange/Kuchinke, S.1051.
(245)Bödicker, "Notwendigkeit der Reform des Rechts der Erbauseinandersetzung bei Immobilien-Vermögen", Diss.Bonn, 1988 in Lange/Kuchinke, S.33.
(246)升田前掲注(13)NBL六三三号六九頁。
(247)物権法上の共有において、民法二四九条は共有物の収益にも妥当し、持分権者はその持分の割合に応じて収益できることが一般に認められている。舟橋前掲注(58)『物権法』三七七頁。
(248)民法九〇九条本文が遺産分割に遡及効を認めていることを理由として、遺産分割により相続財産の当該目的物を取得した相続人に、その果実も帰属すると解する立場もある。しかし、果実の分割を通常の共有物分割手続きによるのか、あるいは遺産分割手続きの中で処理するのかという点で諸説に相違はあるものの、相続開始より相続財産を遺産共有する共同相続人が、それより生ずる果実についても共有関係に立つことについては、一般に承認されている。高木前掲注(62)『遺産分割の法理』四三頁以下、日野原前掲注(63)『遺産分割の研究』一九九頁以下。なお、裁判実務では、果実を相続財産とは別個の共同相続人らの共有物ととらえ、その分割は原則として民事訴訟手続によってなされるべきであるが、果実の分割を遺産分割に含めると相続人全員が合意した場合に限って、遺産分割審判の対象となるとする見解が有力であるとされる。雨宮則夫、小林崇、松原正明、岩木宰「遺産分割に関する最近の争点(2)」自由と正義五〇巻三号(一九九九年)八六頁。
(249)高木前掲注(62)『遺産分割の法理』二三頁以下。
(250)高木前掲注(62)『遺産分割の法理』四六頁。
(251)この点について、野山最高裁判所調査官は、持分の範囲を越えた使用収益が成立するか否かの判断基準の設定や非占有者の[70頁]損失額及び占有者の利得額の算定基準の設定はそもそも困難であると述べられた上で、「利用・管理の方法についての協議が調う見込みがない共有物は、通常の賃料額で第三者に賃貸することは困難であるなど、単独所有物のようにその機能効用を十分に発揮した利用をすることは難しいから、損失額・利得額を賃料相当額よりも大幅に低く設定することが可能な場合も少なくない」として、同居相続人による相続家屋の単独使用の利益を低額に認定することによって、遺産分割までのこの者の居住保護の問題に対処するという方法にも言及されている。野山前掲注(12)一九八頁。この他、賃料相当額という算定基準に言及されるものに、岡垣学「相続家屋における居住の保護とその評価」ジュリスト三四六号(一九六六年)八一頁。
〔本稿は、平成一一年度帝塚山学園特別研究費の助成による研究成果の一部である。〕
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