[149頁]資 料

 

  「法政策学部」の発足とその理念

     ―法学教育のあるべき姿を求めて―

 

                         曽  野  和  明

 

 

     一 はじめに

     二 「法政策学部」設立構想の発端

     三 新学部設立へ向けて掲げられた基本理念

     四 法政策学部の教育目標

     五 カリキュラムの特徴

     (1)専門科目の構成

     (2)教養科目に代わる「一般基礎科目」の設置

     (3)学生による自由なコース設定―選択必修制―

     (4)卒業に必要な単位と選択必修制との関係

     六 入試選抜方法における独自性

       ―公募による自己推薦の面接入試―

     七 三年次編入制度

       ―短大や高専の教育体系の尊重―

     八 外国人学生の受け入れ

     九 むすび

 

    はじめに                                目次に戻る

 「政策的思考は、法律の把握と未来予測の鍵である」として、これまでの解釈学中心の法学教育に政策的視点からの分析の強化を掲げる法政策学部が、一九九七年四月帝塚山大学に発足してからすでに一年が過ぎようとしている。この学部は、政策的思考を重視する点にその特色があるが、必ずしも政治学的な政策論や過去の政策を科学的に分析する政策科学、あるいはいわゆる法政策学を主たる対象としているわけではない。提供される学科目の総体及び教員構成は、旧大学設置基準における法学部法律学科の設置科目基準を実質的に満たしており、この学部の卒業者は法学士となる。

[150頁] しかし、新しいタイプの学部であるために、その設置が認可されるまでには、文部省との幾多の折衝にあたって、その構想について厖大な説明資料の提出を必要とした。それだけに本学部は、専門科目のカリキュラムの構成のみならず、旧大学設置基準の大綱化に応じた一般教育科目制度の廃止、偏差値中心主義を回避した入試制度の採用、短期大学や高等専門学校の自己完結型の教育体系を尊重した編入制度の採用等において特色を有している。本学部発足に到るまで基本構想策定委員長としてその企画立案に関わった者として、これらの諸点を含め設立の経緯や創設の理念等についてここに記録する。

 

    「法政策学部」設立構想の発端                      目次に戻る 

 帝塚山大学の母体である学校法人帝塚山学園は、大阪における女子教育の名門私学「帝塚山学院」の創立二五周年記念事業として昭和一六年に創設され、当初は旧制男子中学校として発足した。創設時の目標では、「科学的素養を持った事業経営者を養成する」という理念のもとに七年制高等学校を設置し、旧制大学へと発展させることにあったが、第二次大戦によりこれを断念せざるをえなかった。しかし、戦後、男女共学の中学校、高等学校を有する学校法人として再出発した帝塚山学園は、幼稚園、小学校、短期大学を順次設置し、昭和三九年に帝塚山大学を発足させて、幼稚園から大学までを擁する総合学園へと発展した。帝塚山大学は、当初女子のみを対象とする教養学部のみの単科大学として発足したが、昭和六二年に経済学部を新設すると同時に男女共学化を図り、その後も経済学部経営情報学科が学部として独立、教養学部も人文科学部として発展的改組が予定される等、高等教育機関としての体制を整えてきている。

 このような文系総合大学へ向けての流れの中で生まれたのが、法律系の新学部設置構想であった。そして、当初は、企業に通用する実践的な法律知識を持った社会人の養成を目的とする産業法学部的なものが意図された。しかし、大学は知識の授与のみの専門学校的な場ではない上に、静的な時代ならともかく、変動の激しい今日の世界では、既存の法律と企業活動との間の固定的関係だけを視野にいれた知識自体は、急速に陳腐化してしまう。政治・経済の変動が法律を変えて行く過程の背後にある政策的思考の影響をも理解できて初めて、法律が改変さ[151頁]れる方向をも視野に入れた柔軟な判断力を育てることができる。そして、このような教育の必要性はビジネスの世界だけに止まるものではない。そこで、方向を大きく転換して浮上したのが「法政策学部」構想であり、実務教育の重視という企業法学的視点は、カリキュラム内部で重点的に吸収された。

 なお、新学部設置の検討を始めた初期の段階で、文部省は新たに法学部の設置を認めることには消極的であるとの情報が伝わっていた。これが「法学部」の新設ということを学園が当初から念頭におかなかった一つの理由である。この情報が必ずしも正確でなかったことは後日判明したのであるが、このことが、従来の法学部とは違った新しいタイプの法律系の学部をどのように構想したらよいのか、という方向での真剣な検討を促した効用もあった。

 

    新学部設立へ向けて掲げられた基本理念                  目次に戻る 

 法政策学部設立の方向へと方針転換が行われる起点となったのは、学園の依頼を受けて一九九五年の元旦に起草したA4で一枚の「法政策学部を構想する理由」である。これには現在のカリキュラムの基礎となった素案を添付して、法律学に中立はありえないこと、リーガルマインドの必要性は法律を専門とする者に限られなくなっていること、国家間の垣根さえも曖昧になるほど世界が変化しつつある現代においては、国を超えたグローバルな視点からの判断が不可欠になってきたこと、そしてこれまでの解釈学中心の法学教育がもはや妥当でなくなった理由等に触れていた。その後、この各部分は構想説明等に種々の形で引用されることになったが、これは新学部構想の理念を集約したものとして現在も生きているので、それを以下にまず掲げる。

法政策学部を構想する理由「社会秩序維持の重要な一翼を担う法律には、それぞれの分野に応じた政策的判断が反映されている。社会が複雑化し、状況の変化に対応して数多くの法律が改廃されざるをえない状況となった現代社会では、政治・経済との関わりにおいてそれらの意味を理解し、社会の変化に応じて柔軟に対応できる判断力を身につける必要がある。また、国境を越えて相互に浸透し合う度合いを強める国際社会においても、世界的問題の解決に向けての法的合意が数多く生まれており、[152頁]そこに示されるポリシーは国内秩序の方向づけに対して無視できない影響を与えつつある。国際的接触は頻度を増しているが、国あるいは民族により異なる法文化や価値観の理解なくしては、例えば契約の交渉や紛争の解決において適切に対処できない場合も多い。

 今日までのわが国の伝統的な法律学では、ややもするとその緻密な解釈論に重点が置かれ、法律の背後にある政策の分析検討は片隅にやられることが多かった。もちろん、このような法律学における解釈学中心の伝統の発生は、安定した西欧的社会秩序を早急に形成しようとした明治維新後のわが国において、法を適切に適用のできる人材を養成する任務を法学部が担ったという状況の下では十分理解できるものであった。しかし、今日では、法律を専門とするか否かにかかわらず、重要な法律や国際的な合意の背景にあるポリシーについての幅広い理解なくしては,適切な対応を失する場合が増しており、例えば、企業活動における産業組織や事業を維持・発展させる方向との関わりにおいては、交錯する種々の政策の流れの総合的把握に基づく対応が不可欠となってきている。また、このような思考方法についての訓練は、国家・地方公務員として政策立案その他広く行政に携わろうとする者にとっても重要であり、法の運用に携わる法律専門職においても、今後は諸政策の正確な理解に基づく判断を迫られる場合が増加すると予測される。

 したがって、これからの社会では、単に法律の解釈に止まらず、国内・国際政治や経済との関連において法の背景にある政策の意味を的確に理解し、多様な価値観の存在を受け入れつつ、広い視野から社会の変化に柔軟に対応できる人材が求められる。このような人材を育成することにより社会に貢献しようとするのが、法政策学部を構想する理由である。このような角度からの法律への接近を目的とした学部は、まだ日本にはない。」

 

    法政策学部の教育目標                          目次に戻る 

 本学部の特色は、右の構想理由からも明らかであるように、法解釈学中心の従来型の法学教育からの脱却である。そして、社会生活におけるポリシー判断と法との関わりを把握することの重要性を前面に打ち出して、将来を見通せる政策的思考能力をも涵養しようとするところに大きな特徴がある。法律を知識として覚えただけでは、[152頁]その内容は時代の変化とともにすぐに陳腐なものとなる。法律の背後には理論とともに一定の方向を支える思考があるが、まずこれを読み取りそれを分析することができれば、社会に変化が起こっても、それに応じて人々の政策的思考が変わり法律が改廃される方向を見通しながら、状況の変化に対応する能力を身につけることができる。

 したがって、現代社会の急激な変化に対応して行くためには、法学教育を二つの方向で大きく拡充して行くことが不可欠である。その一つの方向は、「社会の政策的思考の動きの中で法律を把握する能力」、すなわち、法律を、その背後にある政策的思考を包摂する広い枠組みの中でとらえ、複雑化する国内・国際社会の動きに適切かつ柔軟に対応する法的能力を養うことである。他の一つの方向は、「社会の各分野の活動と対応づけて法律を理解する能力」、すなわち、法律を、それが対象とする各分野の社会・経済活動に広く対応づけて把握し、実践面で役立つ判断力を養うことである。法律を実務に結びつける方向での教育は、社会が変化の少ない静的で安定していた状況のもとでは、法律が社会・経済活動を規律するという方向の関係にのみ注目する形でその目的を達成できたかもしれない。しかし、そのような教育は、めまぐるしく変化する社会に対応する力を与えない。たとえば、金融・製造・流通等の分野の企業活動に携わる人々にとっては、法律の流れとの関わりを理解し判断するのでなければ、その職務を適切に行うことができなくなってきている。したがって、これら二つの方向での教育は、互いに補完し支えあう関係にある。

 ひとたび成立した法律は、社会・経済活動の法的枠組みとして、活動を規律するものとなる。その枠組みの中で行われる社会・経済活動が、その時々の国内・国際条件のもとで満足な結果を生み出さないときには、法律を改廃する政策的思考が形成されて、それを反映して作られる新しい法律が、社会・経済の各分野の活動の新しい枠組みとなる。また、法律の解釈も、意味論的論理の示す無機的な論理に従ってなされるのではなく、そこには人間社会を対象とした有機的な論理によりなされる一つの社会的選択の側面があり、時代の変化とともにその内容が変わることもある。これらの全過程を視野に入れて初めて、政策的思考が法律を形成するという関係をより深く理解することが可能となる。

[154頁] 

   

 このように、本学部は、法的基礎理論の基盤の上に個々の法律のポリシーを的確に把握し、経済や政治の姿の世界的な変化に応じて交錯する種々の政策的思考の流れの総合の上に、広い視野と柔軟な思考に支えられた実践的能力の涵養を図り、社会の変化に対応できる人材の育成を目標とする。

 

    カリキュラムの特徴                           目次に戻る 

(1)専門科目の構成

 本学部の専門科目は、第一群「法律・国際関係基礎科目」、第二群「法律・国際関係展開科目」、第三群「法政策関係

[155頁] 

 

科目」の三つの群に分かれる(表1)。この配置には、学生が、まず社会生活に密接した身近な事象を対象とした法律を手がかりとして法の世界へ入門し、より専門的な社会の実務的営みの中で法の機能と役割を眺め、さらにポリシー判断が強く前面に出る法律分野で政策的思考能力を磨いていくとの狙いが反映されている。

 すなわち、第一群には、従来の法学部におけると同様に、法律学の修得に必要ないわゆる六法系の基礎科目が配置されていて、第二群、第三群に配当された科目を理解するための基盤となる。「国際法」「国際経済社会と法」「比較法文化論」等の科目も基礎科目として配置しているが、これは、国家間の垣根が曖昧となり、相互に浸透し合うこれからの世界では、グローバルな視点からの判断が不可欠となるからである。「私法秩序の構造」は、民商法の具体的分野の講義を受ける前に、約束事としての基礎的な法的概念やパンデクテン方式を含む私法秩序の体系にふれさせておくためのものである。

 そして、本学部の特色は、特に第二群、第三群に現れる。すなわち、第二群には、「金融と法」「倒産処理と法」「信託法」「家族関係と法」「国際的身分関係と法」等の[156頁]科目が置かれているが、これらは従来の民法、商法といった枠組みにとらわれずに、法の世界を横断的に眺め、社会の各分野の活動や生活関係と対応づけて法律を理解させるとの目標に沿っている。また、第二群に配置されている「国際契約法」「国際取引と法の抵触」「国際経済法」といった国際関係展開科目は、国際的経済活動をめぐって現実社会に生起する様々な問題を、各国の法制度の対立としてのみとらえるのではなく、新しい国際的なフレームワークの発生予測や国際契約法の普遍化の方向にも目を向けさせることを通じて、法文化や価値観の違いを越えた法の発展の可能性を学生に理解させることもねらっている。

 第三群の法政策関係科目は、政策的思考と法との相互関連性を前面に打ち出すものであり、本学部の特徴を強く示す。本学部では、社会・経済生活における政策的思考の変遷が法律に影響する側面と、法律が社会・経済活動に影響する側面を一体の過程としてとらえる教育を考えるが、法律の背後にある政策的思考ないしはそれに関連する政策を考える比重は、第一群から第三群へと進むにつれて大きくなる。そして、第三群では、「司法政策と法」「不法行為責任と法政策」といった法律の個々の分野における政策的思考と法との関わりの全体像を眺めることにより、法律学におけるポリシー判断の重要性が具体的に認識されることになる。

 これらのカリキュラムの内容の確定にあたっては、徐々に固まりつつあった教員就任予定者の専門や経験を念頭においた上でその調整が進められた。断念した科目もあるが、一方で、当初予想していなかった科目が浮上したこともあって、均整のとれたものになったと考えている。なお、本学部では、科目配置に弾力性を維持するため、語学の一部及び四単位の演習を除きセメスター制を採用した。

(2)教養科目に代わる「一般基礎科目」の設置

 法政策学部では、従来、学部の如何を問わず専門教育を受ける前段階で受講が必要とされてきた一般教育科目(いわゆる教養科目)の制度を排斥した。これに代わるものとして置かれたのが「一般基礎科目」であって、本学部の教育目的の見地から展開される学部固有の科目群である(表2)。そこでは、「社会構造と法制度」「日本の文化と法」「西洋の歴史と法」といった法学を学ぶための

[157頁]基礎的素養の修得や、「国際関係と国際政治」「国際経済と通商」「国際経済活動の歴史」という国際社会の実態の把握を目標とした科目、あるいは専門科目へのステップとしての「政策決定プロセスと政治」「地方自治と行政」「都市計画と環境」という科目が中心となっており、これも「社会の政策的思考の動きの中で法律を把握する能力」と「社会の各分野の活動と対応づけて法律を理解する能力」の養成を目指した本学部の教育目標の反映である。

 

(3)学生による自由なコース設定―選択必修制―

 従来型の法学部と同様に、学生の進路は多岐にわたることが予測できる。しかし、学生の個性、資質もまた多様であり、これは社会が一方的に課した偏差値的な基準ではかることは到底できず、またコース制を採用すれば、一定の枠組みの中に一方的に押し込め、その細分化を進めると、視野の狭いテクノクラートを育てかねない。そこで、意欲のある学生が学問の喜びを知り、それぞれの関心や希望する進路に応じた自主的な科目選択を行い、自己の哲学を示しうる自律的な人材として育ってくれるように、本学部では、特定の科目を必須として指定し履修させる方法はとらず、履修科目の具体的選択は学生の自由に委ねている。もっとも他方では、カリキュラムの全体像についてのイメージの具体化を図るため、履修モデルとして、政策的思考を身につけた社会人(ゼネラリスト)志向型、公務員、企業実務、法曹志向型の四つのモデルを提示している。しかし、これも一応の目安となる平均的モデルにすぎない。

 したがって、学生の科目選択方法は多様であり、その[158頁]組み合わせは学生の数に応じたバラエテイーが存在することになる。各学生に受身ではなく自主的判断を強く求めようとするものであり、このような主体的努力を促すことも、教育の重要な一環と考えている。入学直後から展開される入門演習等を通じて、学生への適切な指導が伴うべきことは言を要しないが、入学直後の学生達が、講義要項等を眺めながらカリキュラムの全体像の理解に長時間取り組んでいる姿は頼もしい。

 しかしながら、このことは単に卒業するための安易な科目選択に道を開く結果となるわけではない。すなわち、カリキュラムでは、それぞれの科目群の目的と性格に応じて、その枠の中から取得すべき必要単位数を示すことにより選択必修制を採用しており、選択必修により取得すべき単位の総計は一〇〇単位に及んでいる(表3)。そして、たとえば専門科目中の三つの科目群のそれぞれにおける必要単位数による制約(その合計は三八単位)に加えて、専門科目全体として六四単位の取得を要求するという累積的枠組みも設けている。したがって、実際には、どのような組み合わせを選ぼうとも偏った安易な科目選択で卒業要件を満たす道は閉ざされている。このように、各学生の関心や希望する進路に応じた自主的な科目選択を尊重しつつ、本学部が掲げる教育目標を各学生について達成することを可能とするこのメカニズムは、無秩序な科目選択方法の排斥と多様性の尊重という二本の柱の調和をも図っている。

[159頁](4)卒業に必要な単位と選択必修制との関係

 卒業に必要な単位数は、選択必修制の下で必要とされる総計一〇〇単位を含めて、一二八単位である。選択必修の要件を満たしているかぎり、残る二八単位は、学生の関心に応じていずれの科目群から取得することも自由である。したがって、たとえば、一般基礎科目や言語・コミュニケーション科目における必要単位数をはるかに超えて、それらの科目群に履修を集中し、この二八単位を充足させることも可能である。そして、学生がこのような方法をとる場合には、後述する短期大学や高等専門学校から三年次に編入してくる学生に対する対応、すなわち、編入学以前の専攻の下での既修得単位を副専攻的なものとして一定の範囲で一括認定した上で、卒業のためには、専門科目や演習を中心とした七〇単位のみを要求するという図式にきわめて似た状況となる。また、これにより全学生についての整合性も保たれている。

 

   入試選抜方法における独自性

    ―公募による自己推薦の面接入試―                     目次に戻る 

 

 本学部における入学者選抜における特色は、定員の約二割について、予め提出された自己評価表と自己推薦書のみに基づいて行う面接入試の制度である。本大学の他の学部と同様に、推薦指定校制度や学力試験による一般入試も行うが、それではペーパーテストでは判定できない優れた個性、資質の持ち主を選考することはできない。そこで、この「一般公募推薦入試」という方法での選抜方法が採り入れられた。学力試験は一切課さず、受験生が提出する自己推薦書の内容と面接を重視するこの選考方法の意図するところは、昨今の偏差値重視の入学試験制度の尺度ではとらえきれない豊かな個性や優れた資質を持つ者を選抜し、彼らに学部の牽引力となることを期待するとともに、多様な人材を教育の場に集わせることによって、学部全体に活力を与えることにある。

 この入試は、学力試験による入試に先駆けて一一月の終わりから一二月半ばの週末を利用して行われる。予め提出すべき自己推薦書にはB5のスペースが与えられて、[160頁]本学部への進学を希望するにいたった動機や理由および卒業後の未来設計を問い、また受験生自身が優れていると思う資質・才能や、これまでの生活経験の中で独創的、積極的であるとして他人から評価された事柄等を自由なスタイルで記述させる。これにより、文字や言葉づかいの正確性や文章の構成力はもちろん、与えられたスペースを有効に使って自分をアピールしているか、表現形式は相当か、一定の考えが論理的な筋道にしたがって説得力をもって述べられているか等が事前に把握される。また、事前に提出を求める自己評価表には、社会的事象に対する関心や理解度、口頭ないし文章による表現力や説得力、集団の中での協調性や指導性、自己とは異なる価値観に対する包摂力という項目を設け、各項目ごとに五段階で自己評価を行わせる。そして、面接では、自己推薦書で受験生が関心を示した事項について問うことによって、知識の正確さ、理解度、視野の広さ等を確かめたり、場合によっては受験生が自己評価表で良いマークをつけた項目に質問を向け、その根拠等につき具体例の提示を求める等を通じて、社会の仕組みや社会的事象・社会問題への関心、それを論理的に分析して理解できる素質、多様な価値観の存在を受け入れて弾力的な思考を発展させうる可能性等の視点から総合判定が行われる。

 この入試方法の下での競争率は、昨年は約七倍、今年は約四倍であったが、入学辞退者は二年続けてゼロで、昨年すでに入学した学生の多くは学部の牽引力になりつつある。もっとも、受験指導の現場からは、客観的な合格基準が不明なので進路指導に支障を来すとの声があり、ときには学業成績自体は悪かった者も入学するので、大学の格付けに影響するとして学内の一部から抵抗なしとしない。本学部ではこの方法の継続を再確認しているが、追跡調査等によりこの方法の成功を証明するにはまだ時間が必要である。また面接方法の改良に努めるべきことはもちろんのこと、日本の一部の大学で採用され始めた筆記による総合思考力テストの併用等も今後検討に値しよう。

 

   三年次編入制度

    ―短大や高専の教育体系の尊重―                      目次に戻る 

 多様な人材を選抜するという我々の意図は、三年次編入制度にも現れている。この制度は、一九九九年度から[161頁]始動するが、編入学のための一般公募試験においても、予め提出された自己評価表と自己推薦書のみに基づく面接方式を採用するとともに、短期大学や高等専門学校からの編入の場合、その自己完結型の教育体系を最大限尊重して、既修得単位の一括認定を行うことにより、多彩な分野での学習経験を持つ者の編入を積極的に認める方針である。

 すなわち、この編入制度では、短期大学や高等専門学校で修得した科目や単位を本学部のカリキュラム上の科目や単位に読み替えることによって、一般学生とほぼ同様に扱うという伝統的な方法に固執しない。むしろ編入学以前の多彩な学習領域を副専攻的なものとして捉え、それを一年次から入学している学生が履修する「一般基礎科目」周辺と機能的に近いものとして扱い、四六単位までの一括認定を行う。他方、語学および体育科目については、法政策学部で卒業に必要とされる一〇単位および二単位を上限として、既修得単位を振替により認定することにしているので、認定される既修得単位の総計は五八単位となりうる。したがって、編入学生は、卒業に必要な一二八単位の内の残る七〇単位を専門科目や演習を中心として履修することになる。そして、専門教育を直ちに受けられるように、編入直後には、重点的かつ集中的な指導を行うための演習が準備されている。

 ところで、本学部で展開される「一般基礎科目」は、法学教育にとってその学習が望ましいと考えられる平均的な科目であるが、法学および政策的思考方法を身につけるための知的裾野は、これらの一般基礎科目によって決して尽くされているわけではない。これらとは異なる科目群の学習を通して身につけた知識・経験の上に法律系の専門科目の教育を与えて政策的思考を積み重ねさせることによって、社会の多様な人材要求によりよく応えることも十分考えられる。たとえば、米国のロー・スクールにおいて、理系の習得者をも含むバラエティーに富んだ学生の存在が多様な思考を醸成している点からみても、文系・理系を問わず、たとえば食物栄養学専攻や電気工学専攻といった多彩な経歴・経験を持つ学生に広く門戸を開くことは、より幅広い視点からの政策的思考の充実に向けての基盤を整え、全学生がこれを共に享受することにも連なるであろう。

 

 

 [162頁]   外国人学生の受け入れ                       目次に戻る 

 本学部では、学生定員二五〇名中の一五名を外国人学生枠としている。今日までわが国の法学教育の中心は日本の国内法であり、実定法の緻密な法解釈学に重点が置かれることが多く、国際取引関係についても、日本を中心に置いた渉外的感覚に基づいた対応が多かったので、大学院に留学する者を除き、法律系の学部レベルで入学する外国人学生はきわめて少なかった。そこで、当初予測のつかなかった状況の下で、本学部では一般公募と並行して内外の日本語学校を対象とした指定校推薦制度を設け、学費半額免除等の援助措置をとることによって、この定員の充足が意図された。しかし、中国、韓国、台湾から一般応募者が多かった結果、危惧された定員確保の点はこれまでのところ杞憂であった。これら外国人学生と一般学生との接触は、異文化の下での思考方法・価値観の違いを認識しあうことによって、より幅広い視野からの思考の深化に役立つはずである。外国人学生向けの入門的科目には、構想段階では、国際通用語としての英語による講義を考慮していたが、その必要性は今のところ生じていない。

 ところで、本学部は、種々のポリシー判断においてグローバルな視点を導入する必要性を重視したカリキュラムを組んでおり、国内・国際を必ずしも峻別していない。日本の法律が中心となる科目でも、それを素材とした法的考察や思考方法は普遍的に応用可能であるとの前提に立つ講義が予定されている。また他方では、比較法や法史学的な基礎法的な科目をはじめ、国あるいは民族により異なる法文化や価値観を理解させることを目標とした科目も多数展開されている。法政策学部は、この小さくなった地球上で世界的な広がりと深さを備えた大学(university)を希求しているといえる。したがって、この方向性を明確にするためには、留学生についても、それを近隣アジア諸国にとどまらず広く他の地域にも求めることが望まれるのみならず、教員側における外国との研究提携等を通じて、それを促す基盤作りの努力が必要とされることになろう。

 しかしながら、まだ初年度ということもあって、上記の点や外国人学生への適切な対応はまだ模索段階にある。当初の構想の段階では、新学部が発足し態勢が固まった[163頁]段階で、外国人学生の受け入れを開始することも考えたが、設立認可申請の際の定員枠確定との関係で、それは手続上困難であった。いずれ着手しなければならない大学院構想と国際的な研究協力の態勢をいかに結びつけるかも含め、早急に取り組まなくてはならない課題がこの分野には多く残されている。

 

 

    む す び                                目次に戻る 

 古都奈良を見下ろす静かなキャンパスで、法学教育のあるべき姿を求めて教員と学生の共同作業が始まった。高い理想を掲げて発足しただけに、特に初期の段階では、学部の教育目的についての共通理解をさらに固めつつ、教員間の活発な意見交換に基づく自己評価を重ねる必要があり、いずれは第三者(外部者)評価を取り入れることも考えられよう。また、教育の方向についての各科目相互の牽連性の維持については、教員間の提携の強化に努めるほか、学生からの提言も積極的に取り上げていかなければならないであろう。このような雰囲気の中での経験がブレンドされて、大学人としての各教員の研究が、世にどのような貢献をしていくかも楽しみである。

 それにしても、偏差値による受験生や大学の格付けの世界は、一方的に設定された知識や論点の吸収度のみを重視し、社会のあり方に疑問を感じても、落伍者にならないかぎり、それを考え悩む余裕を与えず、答えや結論のみを知りたがる若者を大量に育てているようである。大企業では、記憶力中心の学力偏重の優等生タイプの社員だけでは活力が失われるとの反省から、採用方法の修正を考えるところが出てきているが、本学部の教育の目標は、考えることの大切さを身につけ、問うべき適切な問いを提起できる人材の育成に尽きる。しかし、受験勉強を頂点とした大学を含めた現在の枠組みが固まっている中で、一私学の新学部がそれを揺さぶり、その理念を若者に幅広く浸透させてゆくには、広報活動等による不断の努力が必要である。

 法政策学部は、森永道夫前学長、小泉進現学長、古川浩資高等教育計画室長、多賀久彦前法人室企画課長をはじめとする学園側からの、構想実現へ向けての情熱を傾けた強力な支援や、川島慶雄学部長をはじめとする全関係者の一致した努力によって生まれた。諸作業の緻密な詰めにあたっては、すでに就任が予定されていた福田誠治助教授、常岡史子助教授らの協力もそれを支えた。

(一九九八・三)

 

資   料

「法政策学部」の発足とその理念

帝塚山法学1(1998) 108

帝塚山法学1(1998) 107

帝塚山法学1(1998) 105

 

「法政策学部」の発足とその理念

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